惑星の破壊者 (5)
『詳しい話はまた後ほど、王子たちから聞いてください』
「おい、待て、お前には話が」
「接続切れました」
なんという一方的なヤツらだ。わざわざこちらにそんな情報を流してどういうつもりなんだ。よほどこちらを焦らせたいみたいだな。
「今のは一体どういうことじゃ……?」
「つまり最初からビリア姫がいようがいなかろうが、この結婚式という茶番は強行する予定だった。今回の騒動でソレを前倒しになった。ただそれだけのことだ」
「姫様、こうしてはおられませぬぞ。間もなくサンデリアナ国のものがここに現れます。ここは身を隠していた方が得策かと」
「な、何を言うておるのじゃ、じぃや。これから即位式の話が始まるのであれば妾も出席せねば」
そういう状況じゃないことくらい分かっているはずだが、ビリア姫も気が気でないのかもしれない。だが、これ以上状況を混乱させるわけにはいかないだろう。
「あれ……? この音、なんや?」
間を割るようにキャナが窓の外を見る。
つられて見ると、そこには大型の飛行車両が何機もこちらに向かってきていた。なんという威圧的な飛行だろう。護衛は護衛なのだろうが、どちらかといえば数によって力を誇示しているようにも思えなくもない。
「まずいな、もう来たのか」
「妾も行くぞ!」
ビリア姫が外の方、おそらく飛行車両用の発着場方面に向けて走り出そうとする。
「姫様、なりませぬぞ!」
老猫の手を振り払っていく。
ああもう、仕方がない。
「はにゃっ!?」
ビリア姫が廊下にバッタリ、短い悲鳴あるいは喘ぐ声と倒れる。
今度はちゃんと気絶させた。痛みを感じる隙もなかったはずだ。
「姫様ぁ!」
少し距離を置いた後方から老猫の声が追いかけてくる。
「すまない、こうするしかないと思った。大丈夫、気を失っているだけだ」
「ゼックン、めっさ手慣れてない?」
「そんなことよりも、お前らも隠れておいた方がいい。国の事情には関わらない方がいいだろうからな」
「いやいやいや、ゼックンはどないすんや。また首突っ込むんか?」
「俺もできれば関わりたくはないんだが……」
チラリとズーカイの方に視線を向ける。圧倒的な無言。必要のないことは喋らない男だ。そんな訴えるようにこっちを見なくてもいいだろうに。無視するわけにはいかなそうだ。
仮に、この場をすっぽかすとアイツらも何をしてくるのか分かったものじゃない。下手をすればナモミのこともある。行かざるを得ない。
そこまで汲んで、わざわざ俺に向けてこの情報を話したと考えるべきだろう。
偽物のビリア姫の存在を、サンデリアナ国の連中もそのまま見逃すとも思えない。
「キャナ、この場は見逃してくれないか?」
「せやったらうちも姫様みたいに気絶させたらええやん」
両腕を広げて構えられる。何処からでも掛かってこいというサインか。そこまで無防備を晒してくれるのならこちらも遠慮しないでおこう。
「……んむぅ」
「これで勘弁してくれ」
「ずるい男やなぁ」
戦意喪失するには十分だったようだ。潤んだ瞳を見せまいと俯き、身を引いてくれた。こんな手段ばかりで甲斐性無しと言われても言い返せまい。
背後から刺さるズーカイの無言の視線が痛いくらいに感じた。
※ ※ ※
「これはこれはラセナ王子に大臣殿、遠路遙々よくいらっしゃいました」
老猫が前に出て、深々恭しい挨拶をする。
それに続くようにこの場にいる猫の従者たちも歓迎の意を表わす。俺だけボーッと突っ立っているのも何だから合わせて会釈をしておく。
突然の訪問に、疑問を突きつけようとするものはいない。
それもそのはず。向こうは銃器を構えた犬兵士が列を成している。これから再びブーゲン帝国に攻め入るのかと思わされるほど威圧的だ。
その軍勢の中央に立つのはサンデリアナ国の王子と大臣。王子の方は事前に資料で顔は確認してある。確か名前はラセナ・ビションフリーゼ・ユングヴィ十七世だったか。大層な名前をしているものだ。
その横にはジニアとザンカの姿もある。王族親衛隊という肩書きは飾りではなかったようだ。
「ふはははは、俺様がわざわざやってきてやったぞ! 感謝するがいい!」
ラセナ王子が我が物顔で高笑いする。早くもこの城を自分のものにしたつもりになっているのがよく分かる。なんとも高慢な態度だ。金品を全身に纏って卑しいほどに威厳を誇示しているかのよう。
向こうの国ではこんなヤツが上に立っているのかと思うと、同情しないでもない。
どう考えてもその器のようには思えないのだが、そもそも何故、現国王ではなく、その子息であるラセナ王子がサンデリアナ国の実権を握っているのか。
例の資料によれば、現国王は重い病に伏せており、治療のために遠くの医療の発達した惑星へと向かっているとのこと。そこで王が不在ではなるまいと、苦渋の決断で一時的にこのラセナ王子に後のことを託したそうだ。
それが大きな過ちの引き金だったのだろう。何せ、長年友好国であったブーゲン帝国を攻め落としてしまったのだから。
ビリア姫にしても、ジニアたちにしても、コイツのことをバカ王子と呼ぶ理由もよく分かる。
このろくでもない状況が現国王にどれだけ伝わっているのかまでは資料の中にはなかったが、もうどの面を下げても国に帰れないほど取り返しのつかないことになっていることは確かだ。
見るからにラセナ王子は知性を感じられない。大した事はしでかさないと踏んでいたのかもしれない。いくらバカでも戦争を起こすなんて思わなかったのだろう。
だが、俺はその背後に立つ大臣の顔を見ると、察せるところがある。このバカ王子に入れ知恵したのは真の黒幕はあの犬なのだと。
「即位式を明日執り行うですと?」
老猫が老犬からの宣告にたじろぐ。
近々行われる予定だったとはいえ、随分と前倒しにしてきたな。ブーゲン帝国は今も国の復興に尽力していて、民衆の混乱を収めるだけでも大変だというのに。
式典一つ軽くポンと開催できるほど余力があるとは思えない。
「そ、そんな急な……」
それが当然の反応だ。
ビリア姫がこの場にいたら間違いなくもっと荒れていただろう。
「おいおい、そんな逆らっていいのか? こっちには
ん? 何言っているんだ、あのバカは。
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