惑星の破壊者 (4)

 ソイツを責任などという言葉に集約していいものなのだろうか。

 ただ意固地に、はたまた自棄になっているだけのような気がしないでもない。

 ビリア姫も、ナモミのことには少し思うところもあるようだ。自分の問題に他人を巻き込んでしまった。そこに引け目を感じているのかもしれない。

 それだけじゃない。ビリア姫はこれから先、ブーゲン帝国という巨大な組織の中心に立たなければならない。背負うという覚悟を責任という言葉にして自分に言い聞かせている。そうとも取れる。

「あいにくだが、これはビリア姫だけの問題じゃない。確かにブーゲン帝国の存亡を賭けた話は俺たちには何ら関係のない。しかし、前にも言ったが、俺たちには俺たちの存亡を賭けた問題がある」

「何のイタズラか知らへんけど、今回はごっちゃになってしもうただけや。それを姫様が全部背負うもんやない。うちらにだってうちらの責任ってもんがあるんよ」

「ゼクラ、キャナ……すまぬ。妾も少し冷静になるべきなのかもしれん」

「ともかく、今分かっている状況は、ナモミがサンデリアナ国の首都の何処かにいるということ。サンデリアナ国の兵士はビリア姫の行方を追っているということだ」

「なぁ、ゼックン。ナモナモは今、姫様なんやから仮に捕まっても大丈夫なんとちゃう? 王子は姫様との結婚が第一優先なんやし」

「そのままで済ませられればいいんだが、ナモミが偽物だと分かっているヤツがサンデリアナ国にいるんだ。危ない橋であることには変わりない」

 アイツらにもアイツらの地位ってものがあるから簡単にバラすことはないとは思うが、ここでまた違う問題が浮き上がってくる。

 どうやらアイツらは、俺をヘッドハンティングする気らしい。ともなれば、ナモミを交渉の材料にする可能性が出てくる。

 ナモミがビリア姫である限りはこちらにも、向こうにもさほど波風は立たない。だが、偽物だと分かれば、ナモミの安否は分からなくなる。向こうも状況が良い方向に向くことはないだろうが、痛み分けの結果にはならない。

「あの、ゼクラさん。いいですか?」

「ん? なんだ、ズーカイ」

「話を割って申し訳ないのですが、今、サンデリアナ国側からの通信が入りました」

 さっくりと恐ろしい発言をする。お前はこっち側の者じゃないんだから発言には気をつけてほしいところだ。この国を陥落させた側、乗っ取ろうとしている側だという自覚を持っているのだろうか。

「それは、こっちにとって良い報告になるのか?」

 少なくとも通信ができているということは、相手はサンデリアナ国の国境を越えている。ただそれだけで嫌な予感しかない。

『よぉ、ゼクラ。へへへ、まだこっちには来れなさそうか?』

 ズーカイの持っている端末の方から愉快そうな笑い声が聞こえてくる。まあ、そうだろうな。この状況下で連絡をとろうとする者など限られてくる。

「ジニア、今朝は随分早く出て行ったみたいじゃないか。一体何があったんだ?」

『あぁ、ズーカイから聞いてないのか? 王女様が昨晩のうちにいなくなったんだってよ。そんで、こっちはちょっとバタバタしててよ。あっちだこっちだと回されて目が回りそうなんだわ』

「すまん、ザンカがいるなら代わってくれ」

 こいつに説明を求めない方がいい。

『状況は大変申し上げにくいんですけどね』

 端末から聞こえてくる声が変わる。この声はザンカで間違いないだろう。

「俺もお前らとの対応を決めあぐねているところなんだ。こちらにとって不都合のない情報をくれると助かるんだが」

『そうおっしゃられると、こちらもまた答えにくくなるのですが』

「昨晩の話よりも突拍子もない話が飛び出してくるとでも言うのか?」

『ええ、まあ、大体概ねそんな感じになるのかもしれませんね。ちょっと信じがたい話が手元にあるんですよ』

 ズーカイと違って回りくどい連中だ。もっと要点を真っ直ぐすっぱりと端的に言えないのかコイツらは。

『上の方が痺れを切らしましてね。即位式と結婚式を早急にするべきだと話が進んでしまいまして』

「……お前まだ酒が残っているのか?」

 何を寝ぼけたことを言っているんだ。即位式はまだしも、結婚式など成立するはずがない。ビリア姫の本物はここにいる。偽物も逃亡中のはずだ。

『できるなら浴びるほど呑みたいですが、しばらく無理そうですね。王女が抜け出した情報が漏れてしまったようで、今、国が混乱に陥っている状態です。そこで、一刻も早く沈静化するために乗り出したみたいです』

「バカも休み休み言え。一体誰と誰が結婚するつもりなんだ」

『実は、王女の代役は前々から秘密裏に手配されていました。即位式の直前に公表する予定でしたが、今回本物の王女が見つかったことでその予定が早まった。そういうことです』

『へへへ、国中は王女が見つかったことで大騒ぎ。両国の合併でもうお祭り気分。そんな中、王女が逃げ出したなんててんやわんやよ。すぐに見つかりましたっつうことにしときゃ混乱が抑えられる算段なんだろうな』

 結婚式が早まろうがどうなろうが、本来ならこちらには関わりのない話だが、何故だろう。物凄く嫌な予感しかない。そもそも何故今、情報規制の掛かっているはずのコイツらと連絡が取れているのか。

「聞きたくはないんだが、お前ら今何処にいる? いや、何処に向かってる?」

『いやぁ、ゼクラさんは本当に察しがいいですよね。いつでもこちらの席は空いていますから是非船長にでも隊長にでもなっていただきたいものです』

『おいおい、俺の役職を取るんじゃねぇよ。船長ならくれてやるけど隊長は』

「いいから答えろ」

 お前らの茶番などどうでもいい。

『あー、はい。今我々はブーゲン帝国に向かっています。ゼクラさんが今いる城ですよ。王子や大臣の護衛としてね。もうすぐ着くところです』

 周囲がざわつく。これはいわゆる寝耳に水というヤツなのだろう。誰もそのことを知らなかったようだ。ここにいるズーカイが知らないというのだからそれも当然か。

 情報規制だか何だか知らないが、連絡手段の改善を要求するぞ。

 国の情報操作を掌握できなくて何が情報規制だ。世界情勢を嘗めてるのかザンカ。

 一発じゃない、二発三発は覚悟しておいてもらおうか。

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