第二十四章
惑星の破壊者
日差しを浴びて目覚めるという経験をしたのは、記憶になかった。いや、もしかするとあったのかもしれないが、覚えにない。それくらいに恒星の観測できる自然惑星での生活習慣というものに馴染みがない。
原初たる人類は地球という惑星に生まれ、朝には太陽の光を浴びて、夜には太陽の沈んだ闇の中を過ごしていたという。俺が生まれた時代では、とうに人類はコロニーでの生活を当然としていた。
俺からすれば、光陰というものは時間の区切りという認識が強い。眩い明かりに照らされて起き、夜には消灯して眠る。ある意味では代わり映えのしないものなのかもしれないが、似て非なるものなのだろうな。
窓の外から差し込んでくるこの光には目が眩みそうだ。
「ゼクラのアニキ、おはようございます! よく眠れましたか?」
既に起きていたブロロが元気よく挨拶してくる。昨夜は閉めていたはずのカーテンが開いていると思ったら。
「ああ、おはよう。悪くない目覚めだ」
目覚めだけはな。
さて、昨晩は厄介なことになってしまったように思う。
まさか、俺の他にコードZが残っていたとはな。正確には蘇生されたとか言っていたが、まあ、そういう意味では俺もまた似たようなものなのだろうか。しかし、よりにもよって、俺と関わりのあるチームとは。
不覚にも懐かしさのあまりに涙が滲んできそうだったが、現実を心が直視できていなかったのか、それよりも感情があらゆる意味で疲弊していたのか、妙に冷静に対処していたような気がする。
積もる話もある。しかし、どうにもアイツらは俺に固執しているようだ。端的に力を求めているといってもいい。何もないまま俺がこの時代に蘇っていたのならあるいは二つ返事で承諾していたのかもしれないが、今更戦場に立つなどできまい。
傭兵稼業がどのようなものなのか知りようもない話だが、こんな時代でも俺の力が通用するという認識なのだろうか。過大評価されている気がしないでもない。
確かに二十億年前、俺はろくでもない呼び名をつけられてしまった。そしてそんな名前をぶら下げて戦場を渡り巡り、その結果、俺たちの死を持って英雄譚として語り継がれてしまったらしい。
あれから俺もこの時代の資料を探って過去の歴史を遡ってみたが、俺の思っていた以上に大事になっていたようだ。
マシーナリーの奴隷として、且つ兵器として造られた人類がマシーナリーにとっての脅威にまで成り上がり、果てやマシーナリーの都合によって命を散らす。
そんな時代の流れがあったのだと客観的に見ると、当時の当事者である俺自身が感じていた以上に異常だったと思い知らされるところはある。
「それにしても驚きでした。アニキと同じコードZがサンデリアナ国の傭兵、いや今や王族親衛隊なんて地位にいたなんて」
「そういえば昨晩は途中で話を切り上げてしまったな。アイツらにはまだ話が残っている。サンデリアナ国にいるナモミのこともそうだ。このままここを発つわけにはいかないだろう」
「そうっすね。早いところ話を付けてナモミ姐さんを助け出さないと」
全くもって意味の分からない話なのだが、どういうわけか今、ナモミはビリア姫と間違えられてしまい、向こうの王子との結婚の話が進められているらしい。
そんな誤解はとっとと解いて、ナモミを連れて帰らなくては。それには、本物のビリア姫も交えて作戦を練る必要も出てくるだろう。朝っぱらから課題が山積みだ。
「ともあれ、キャナとシルルも起こしておかないとな」
と、半ば急かされるように部屋の扉を開く。
「ゼクラさん、おはようございます」
その先にはあろうことか、コードZの一人にして王族親衛隊の一員のズーカイが一人ポツンと佇んでいた。
「ズ、ズーカイ? お前いつからそこにいたんだ?」
「今しがた」
「そ、そうか。ジニアとザンカは一緒じゃないのか。アイツらはまだ寝てるのか?」
「先に行きました」
相変わらず必要最低限しか口を開かない男だ。酒瓶があったら口にねじ込んでやりたくなる。まあ、酒が入ったら入ったで無駄口が増えてしまうのだが。
「って、先に行っただと? アイツらにはまだ話があったんだぞ。一体何処に? 簡潔に分かりやすく説明を求むぞ」
「サンデリアナ国の方で事件があったそうで、緊急の伝令が今朝早くに届きました。今頃は向こうの王都にいるでしょう」
ゆったりと明確に説明してくれる。余計なことは一切挟まない。酒の入ってるときと別人すぎる。非常に分かりやすくて助かるのだが。
「お前は行かなかったのか? お前、パイロットだろ?」
「ゼクラさんを連れていくように言われましたので、代わりのパイロットに任せました。ですが他の飛行機も待機してあります。僕の運転なら誰よりも早く着きますからね」
自信たっぷりと言われる。まあ、それは間違いないだろう。
戦車や軍艦、戦闘機に至るまで陸・海・空、あらゆるものを自在に乗りこなす運転技師としてコイツの右に出るものは俺の知る限りではいない。今の時代ではどの程度なのか知らんが。
「俺としてはサンデリアナ国に行くのはやぶさかではないが、こちらにもこちらの事情というものがあってだな」
「分かっています」
たったの一言で締められる。まさに必要最低限といったところか。俺の方からは言いたい言葉が色々とあるのだが。
「アニキ、どうするんですかい?」
「国の問題は国の問題、俺の問題は俺の問題だ。いずれにせよ、けりをつける必要がある。まずはみんなを招集しよう。話はそれからだ」
「あいあいさー。じゃあ、二人を呼んできます!」
そういってブロロが飛び出していく。とはいっても向かいの部屋に向かっただけなのだが。
「すまないが、もうしばらく時間をくれ。俺も整理がつかないことが多いからな」
「ええ、勿論」
相も変わらず融通が利いて聞き分けのいい奴だ。
だが、かといって簡単に言葉を曲げるような奴でもない。
ジニアやザンカも自分が残るよりズーカイを残した方が適任だと思ったのだろう。
余計な言葉を挟まない分、要点がしっかりとしていて、押せもせず引けもしない。それが返って対応が難しくさせる。
全くもって厄介なヤツを置いていかれたものだ。はたして、コイツをどう説得したものだろうか。
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