絶滅危惧種保護観察員 (3)

「ところで、マシーナリーって成長もするの?」

「んーと、さすがにヒューマンのように大きくなることはないッスね」

 そりゃまあ必要もないだろうしな。劣化の要因にもなるだろうし。

「そうなのですか」

 プニカの目の奥の希望の光が輝き出す。

「あっと、でもボクはボディの換装とかもできるッスよ?」

 そういって、ふと何を言っているのか把握しきれないくらいの高速な詠唱。

 するとエメラの身体のあちこちの部位が緑色に発光しだしたかと思えば、外身だけピンポイントで転送を行ったのか、瞬きする間もなく変わっていく。

 腕や足、胴体、全てのパーツが次々に置き換わっていった。

 発光が収まる頃、そこには変貌したエメラがいた。

「ほぇ~……うちよりおっきくなったなぁ」

「どッスか? 超グレートな美貌じゃないッスか?」

 中身は変わっていないようだが、先ほどと比べれば子供とは言わせないくらいかなりの急成長っぶりだ。本当になんでもできるんだな、エメラ。

 かかとを返し、くるりと一回転して見せる。確かに大した美貌だ。

「うっふ~ん」

 決めポーズもグレート。セクシーダイナマイトだ。

 一番下の妹かと思えば、一番上のお姉さんに早変わりとは。

 知っていたことだが、マシーナリーの技術力には脱帽せざるを得まい。

「くっ……」

 プニカがエメラを凝視する。その視線の先はキャナよりもまた一段と豊満なソレだ。どんなに寄せて上げても追いつくまい。

 悔しいのは分かるが、いくら自分のをこすっても大きくはならないぞ、プニカ。

「でもやっぱり普段のボクはこっちの方がいいッスね」

 エメラがまた緑色に発光しながらシュン、と元の小さな少女の姿に戻る。お手軽に変身できるのは便利そうだな。

「どんなにキレイに着飾っても中身までは変えられないッスから。ボクはこの姿がボクなんスよ」

 外見の魅力ばかり気にしているプニカには少々クリーンヒットのキツい言葉だな。

「でもそうやって気軽にスタイル変えられるのってなんだか羨ましいなぁ」

 ナモミが根底をひっくり返すようなことを言う。

 当然だが、人間には身体のパーツを容易に交換なんてできないからな。移植手術という手段はあるが、それは気軽にやれるようなものではない。

「それなら面白いものがあるッスよ」

 そう言って、エメラが何かを取り出す。

 何処から出してきたのかは不明だが、また転送してきたのだろうか。

 その手に持っていたのは取っ手のついたライトのようだ。

「ぱぱぱ~ん、ファッション・シミュレーター! 略してファミレター!」

 その謎の効果音とポーズは一体なんなんだ。

「何これ、懐中電灯?」

「ふっふっふ、これはッスね~、今みたいにスタイルとか変えてみたいってときに使う道具なんスよ。どんなパーツがいいのか交換しなくても確認できるから便利ッス。主にボディパーツ屋さんとかの試着用に利用されてるッス」

「つまりどういうことができるの?」

 ナモミが首をかしげる。

 すると徐に、エメラがそのライトをプニカに向けて照射する。

「こういうことッス!」

 唐突に眩しい光を当てられ怯むように腕で顔を隠す。一体何のつもりだ、これは。

「え……っ?」

 次の瞬間には目を疑うような光景があった。

 確か光を当てられた場所に立っていたのはプニカだったはずだ。

 しかし、そこにはプニカがいなかった。

 いや、正確にはプニカと思わしき人物がいなかった。

「何が起こったのですか?」

 すらっとした細身の長身で、流れるような髪。収まりきらない豊満なソレは弾力のまま前に突き出し、圧倒的な存在感を放つ。

 あどけなさを残した顔立ちは愛嬌を醸し出しつつも、大人のレディにふさわしい顔をしている。

「ほい、鏡ッス」

「これが……私?」

 今まで会ったこともないような美人だ。キャナにも引け劣らない。

 そんな女性が、プニカと同じ声で喋っている。

「え、うそ、これがプニー……?」

「ほんまにプニちゃん、やの?」

 まさか、これが本当にプニカだとでもいうのだろうか。どう見ても骨格ごと変形していないか?

「あくまでシミュレーションッスから本物じゃなくて立体映像ッスけど、質量や質感も再現できる優れものッス」

 もはやどんな技術なんだよソレは。物理法則とか質量の法則とかそういったものはあるのかどうかが疑わしいぞ。

「ほわぁ……、ここここ、これはぁ……」

 たゆんたゆん、とプニカは自分の目の前にある二つのソレを持ち上げては興奮気味に大きく揺らす。傍から見たら紛うことなきただの痴女なのだが、本人は感極まっているようだ。

 まあ、本人が楽しそうで何よりだ。

 こんなにもうれしそうなプニカは見たことがない。

 逆に、こんな情けないプニカは見たくなかったが。

 これまで自分のものを揺らすなどという経験をしたことなどなかっただろう。

 夢中になってたゆんたゆんしているが、しかしむしろかえって空しいのではないだろうか。

「おおお、おっぱい、おっぱい」

 ああ、なんて悲しい光景なのだろう。

 絶世の美女ともいえそうなくらいの美貌を持った女がこんなことを口走りながら、こんなことをしているなんて。

「あ、そろそろ時間ッス」

 目の前にいた美人の痴女は煙のように消え、入れ替わるように、いつものプニカがそこに立っていた。

 スカッ、さすさす。

 今の今までそこにあったソレも消失し、儚くも寂しく両手が空を切る。

 もうそこには何も残っていないが、名残惜しそうに幻影をなぞる。

 残っているのはその手が記憶している感触ばかり。

「とまあ、こんな感じの道具ッス」

「これは素晴らしい技術ですね!」

 プニカが力を込めて褒める。お前はそれでいいのかよプニカ。

 ほんのつい先ほどまで抱いていた強いコンプレックスは何処へ行ったのか。

 全てを許すみたいな態度でエメラの肩を抱く。

 いや、本当にそれでいいのかよ。

「ボクはお役に立てればそれでいいんスよ。プニカ先輩」

「せ、先輩……」

 そんなに嬉しい言葉だったのか、プニカはジィーンと陶酔感に浸っている。

 意外とエメラは相手を乗せるのが上手いようだ。

 ただ単にプニカが単純すぎるだけなのかもしれないが。

 なんにしても、ようやくプニカもエメラに打ち解けてきたようなので、何よりだ。

 ……本当にこれでいいのか? これってただ懐柔させられてるだけなのでは。

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