分かった、えっちしよ (4)

 もう一度、プニカをチラ見する。

 新しく蘇生されたキャナへの対応についてどうするべきか、今度の夕飯の献立は何を出すべきか、それよりも自分の体系はひょっとすると女子として絶望的なのではないか、などといった複雑な心境を一緒くたに煮込んだかのような渋い顔をしている。

 無論、これは俺の客観的な感想だが。

「ゼクラ様。もしかして、私は人としての魅力が劣悪なのでしょうか?」

 ちょっと当たってた。よりによってそっちか。

 自分のない胸を揉むような仕草は見ていて悲しくなるから止めなさい。

 ナモミもある方ではあったが、キャナと比べてはいけない。

 そういうアレな話じゃなくとも、キャナは今のところプニカとは接触していない辺り、無意識に避けているというところはあるのかもしれない。

 人としての魅力というよりか、根本的に人間味の薄い雰囲気を何処か汲み取ったと考えるべきか。

 つい今しがたのキャナもプニカの説明に感心なさげな様子だったし、若干プニカ自身も気にしているのだろうか。

 キャナが積極的なスキンシップに乗り出たのは俺とナモミだけだったし。

 キャナもあれだけ大らかというのか、大雑把というのか、ふわふわ粒子をそこかしこにばら撒いているような気質だ。

 プニカのような何ともいえない気難しいものが苦手なのかもしれない。


「ふはぁ~、満足したわぁ~」

「にゅぅぅ……」

 結構な時間を置いて、なんともリフレッシュした様子でこのリフレッシュルームに再び二人が現れる。

 一体廊下で何があったのかはあえて聞くまい。

 妙にてかてかしたキャナがご満悦な眩しいスマイルでいる一方、そのすぐ後ろのナモミはまるで全てを奪われつくしたかのようなゲッソリ顔をしつつ、隠し切れないくらいに頬を真っ赤に染め上げていた。

 そこはかとなく、汗ばんでも見えた。

 湯気が沸きそうなほどに茹で上がった身体も然ることながら、足もぷるぷると内股気味で、疲弊した様子も見て取れる。

 どんなハッスルをしてきたのやら。

 だがやはり、廊下で何があったかなどとはあえて聞くまい。

「一体二人して廊下で何をしていたのですか?」

 しかし、そこでそういう風に聞く辺りがプニカなのか。

「ナモナモに自己紹介とスキンシップや。ちょっとした、なぁ」

 キャナがナモミの方に目配せをする。それに反応してか、ひくっとナモミの肩が跳ねた。どんな眼光だ。

「それじゃあ改めまして……、みんなよろしゅうなぁ」

 ご機嫌スマイルでお辞儀をしてくる。俺としても、なるべくよろしくしたいところではあるが、どのようによろしくしていいものか。

「ナモナモもなぁ」

 ひくんひくんと肩を震わせていたナモミがピクッと反応する。

「は、はひぃ……お姉しゃまぁ……よろひくぅ」

 とろけそうなろれつの回らない口調で甘い吐息まじりにナモミが一息。

 つい今しがた出会ったばかりとは到底思えないくらいにフレンドリーだ。

 何故だか、ナモミはキャナをお姉様などと呼んでいるが、それは尊敬的な意味が込められているのか。

 尊敬というソレよりも、調教されたソレに近いかもしれない。

 どのようなスキンシップがあったのかを物語っているかのよう。

 言うことを聞かなかったら分かってるな、とでも言わしめるような上下関係が垣間見えてくるようだ。ほんの少し目を放した隙にどのような教育があったことやら。

 やはりキャナはよく分からない。

 このふわふわの中に何を隠し持っているというのか。

 ふと目を放した隙に、くたぁ、とナモミがとろけ落ちる。

 それを支えるように、キャナが手を差し伸べて引き上げて、優しく頭をなでなでする。ナモミも抵抗する素振りもなく、すっかり愛玩動物に堕ちたようだ。

 にやついたそのキャナの瞳は、噛み付いたらおしおきだぞ、と言っている。

 上下関係というか、もはや主従関係だろうか。

 そしてプニカが不満げに、といっても普段のソレと大差ない無表情な面持ちで無理やりに懐柔されているナモミを眺める。

 その光景を見せられて羨ましいのかどうかは分からないが、どうして自分だけがスキンシップをスルーされたのか納得いかない様子なのは確かだろう。

 また、もしプニカに羨ましいと思うような要素があるとするならば、おそらくはナモミに対してではなく、キャナのその身体つき全般が該当するに違いない。

 プニカもキャナのような豊満なソレで自らプニプニしてみたかったりするのだろうか。それこそさっきのキャナみたいに。

 なんともはや儚くも叶わぬ夢だろう。

「ゼックン、これからいっぱい、いーっぱい赤ちゃん、作ろうな?」

 こういう場面において、取り繕うべき表情が今一つ思い当たらない。

 俺から見た未来人というのはここまでも大らかなものなのだろうか。

「あ、ああ、よろしく、頼むよ」

 自分がどのような表情を持ってしてキャナに対して返答をしたのかはあいにくと鏡を用意していないこの部屋では確認することも叶わなかったが、確認できる範疇で言うなれば、ナモミはポーっと惚けた顔、プニカは渋味に偏った無表情だということくらいか。

 あえて、あえてもう一度言うが、このキャナという女はよく分からない。

 おそらくは、ナモミもプニカも同じように思っている気がする。

 危険因子ではないだろう。殺意もなさそうだ。無邪気さのパラメータが振り切れているような気もするし、今こうして当の本人を目の当たりにして敵対関係になるという構図がまるで想像することができない。

 今の生活に、少々気を張りすぎていたのだろうか。

 ピリピリとした緊張感を抱きすぎていたのだろうか。

 それなりに気を張っていたことは確かだ。

 しかし自分の中で思う以上に警戒していたのか、頭の中を巡るアラートが沈静化されていくかのような、そんな気分にさえなっていた。

 凝り固まった岩のようなそれが、丸ごと包み込まれるようにしてキャナのふわふわムードに持っていかれたように思う。

「なあなあ、ゼックン。赤ちゃんできたら一人目の名前は何にしよっかぁ?」

 このうっとりとした顔を前にして、俺はどのように対応すべきなのだろうか。

 子供の名前はあまりいいのが思い浮かばない。

 そして、一体俺はこれから何人の子供を生ませることになるのか、今更ながらえも言われぬ不安にかられていた。

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