赤ちゃん、欲しいんです (2)
プニカには貞操観念的な意図を汲み取られていないらしい。
精液提供マシーン化の人体改造を提案され、はい、よろしくお願いしますなどと言えるものか。
「あはは、それでもいいんじゃない?」
ナモミが引きつった笑いで冗談っぽく言う。かなりシャレになっていないんだが。
「我々女性はその精液に対応するくらいの卵子を提供しなければなりませんので、同様に排卵を促進させる施術を行い、受精卵の生成に尽力しなければなりません。
こっちは産む機械かよ。
「胎内の子の成長を促進するための機構もあります。数週間単位で出産までの期間を短縮することが可能です。こちらは元より、通常の
「いやあぁぁ……聞きたくなかったぁぁ……」
ナモミはもうすっかり青ざめた顔で笑いすら消えた。
「大丈夫です。不安でしょうが、ナモミ様だけに負担は掛けません。私も共に妊娠も、出産もしますから」
「そ、そういう話じゃなくて……」
「そうですね。確かにこの方法であれば短期間で子を成すことができます。しかし、ゼクラ様への負担も大きく、そもそも精液供給用カプセルに入ったら出られません。そこに至るまで様々な手術もありますし、その時点で通常の生活は送れません。ただでさえ人手が足りない状態で人員を割くリスクは容認できませんし、それは我々女性の方もおおむね同様です。短期間で大量の体外受精の作業にあたるには二人だけでは労働力が足りませんし、場合によっては常時妊娠を維持した状態となってしまうので、出産を含めた自身への負担、子への負担が大きくなります。よって、これらの方法は非推奨です」
ふぅぅ、とプニカが大きく呼吸を整えて、最後の言葉で区切る。
「それでも、この方法を選びますか?」
「はい、ごめんなさい。無理です」
ナモミが即答していく。俺もごめんだ。
精液供給用カプセルだなんて人類が生きるために死ねと言われているのと何ら変わらない。
あまりにも非人道的なソレを極めた発想だ。というか、なんでそんなものが存在しているのか疑問ではあるが。
要は、機械に頼ると色々と融通も利かないし、現状動ける人員が三人しかいないのだから作業量だけ増やしてもどうしようもない、ということだな。
ちょっと精液を採取して、ちょっと卵子に受精させて、ちょっと出産させるなんて気軽にできたのなら最初からその方法を使っていただろう。
それでも俺の知ってる時代からすれば大した技術力の進歩ではあるが、さしもの人類は万能ではないということか。
「地道が堅実ということだな」
「その通りです。あと、この方法だと他にも致命的なこともあります」
「寿命が短くなる、だよな」
「ええ、その通りです。短期間ともなれば懸念される産まれる子への負担が一番無視することができません。よって、やはり我々は
と、結局こっちに戻ってきてしまうわけか。
目の前に突きつけられた選択肢は、機械の如く、工場の如く、子孫を量産させ続けるか、それとも生物らしく、人間らしく、子孫を増やしていくか。この二つに一つということだ。
あまりにも両極端である。
だが、この選択肢の放棄は即ち、人類の滅亡を選ぶことになってしまう。何よりこのコロニーに生存している人類の男はたった一人、この俺を除いて他にはいない。この責任の重さたるや、いつその重圧に潰されてしまうか分かったものではない。
「くしゅんっ」
「ナモミ様、大丈夫ですか?」
「あー、ちょっと肌寒くなってきちゃったかなぁ」
そりゃまあ、さっきからずっと全裸のままだからな。適度な室内温度を保っているからといって、衣類のない状態を想定した温度ではない。
「ただちに衣類を身に付けてください。貴女の身体は貴女だけのものではないのですから」
誤りではないし、現状において誤解もない発言だが、もう少し言い方を変えていただきたい。まだそういうあれではない。まだ。
「病気ではなさそうですね。この程度であれば少し休めばよくなるでしょう。不本意ですが、今日のところはお開きにいたしましょう。ゼクラ様の回復と、ナモミ様の体調管理を優先します」
着替えしながらのナモミの顔や腕を診ていたプニカは、この場を取り仕切るように立ち上がり、そそくさと自らも着替えに入る。
感情の起伏があるのか分かりづらいプニカだが、それでもこちらの意思を尊重している節もあり、人間性が皆無というわけではない。
そもそもマザーノアの意思のまま、機械的に人類を繁栄させようなどと考えているのであれば、もっと強行的な手段などいくらでもあるはずだ。
あえて原始的な手段、
「あたし、部屋に戻ってるわ」
冗談なしに不調っぽいナモミは何とか自前の足で部屋から出ていく。
ああ見えてナモミのメンタルはそこまで強くない。気丈に振舞っているようでいて、中身のか弱い部分は初めて会ったときに既に見てきた。
ついさっきまではいかにも「子作り? 分かった、してやんよ」みたいな態度をとっていて、その結果がアレだ。
顔が破裂しそうなほどに真っ赤にしていたあたり、かなり貞操観念が強いと思われる。
正直なところ、ナモミとの付き合いもまだまだ浅いことは確かだし、人類のためだとか理由を付けても
その一方で、プニカにも大分気を遣わせてしまっているところもある。
もう少し、物事を顔に出してくれればまだいいんだが、ひょっとしなくても、プニカも内面では現状に焦燥感を覚えているのではないか。
人類が絶滅しようってときに当の残り少ない人類はこの調子。
いつ子供を作れるかも分からない。非協力的と言わざるを得ない。
俺なら気が滅入ってしまうところだ。
「それではゼクラ様。私もこれで……」
「あー、ちょっとプニカ。少し、話はできるか?」
「……なんでしょうか?」
部屋を出るすんでのところでプニカが振り返る。
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