タイニーギフト
ばくぶしゅ
序章 クリスマスイブ編 1
「じんぐるべ~る! じんぐるべ~る! すずが~なる~!」
白いモコモコに包まれた小さな女の子が、はしゃいでスキップしている。手作り感満載で不格好な飾りが施された商店街は、いつにない賑わいをみせている。
今日はクリスマスイヴ。
キリストの生誕祭の前日。
キリスト教徒でも無いような人間が、祝ってんじゃねえよ!! とか野暮なことは言わない。
けど、商店街を歩くリア充どもをみると、なんかこうイライラするよね。
おめでたい日なのに殺意を覚えさせるとか、これだからリア充は。
「すずの~リズムに~ひかりのわがまう~、へいっ!」
へいっ! じゃなくて、ぼんっ!しろリア充ども死ねぇぇぇぇぇ!!!!
……おっと失礼。
ぼっちマスなのに、こうして手伝わされている僕のことを考えて欲しい。あ、別に考えなくてもいいや、その代わり彼女ください。
そんなくだらないことを考えながら、僕は風船を片手にサンタとして商店街に貢献しているのであった。
「あ、サンタのお兄さん! めりーくりすますですっ!」
「メリークリスマス! お嬢ちゃん、良い子にしているかい?」
「はい! ちゃんといーこにしてます!」
「そうかそうか。よーし、そんな良い子には、プレゼントをあげよう!」
「やったぁ! ねぇねぇママ、サンタさんから風船もらったー!」
とても嬉しいのだろう。はしゃいで跳びまわっている姿は愛らしく、ギュッと抱きしめたくなった。
うわべだけの笑顔を浮かべてるメンヘラどもにはとうていマネできまい。
ヒマワリのような満開な笑みに、僕は少し元気をもらった。
「そうだ! サンタさんにもプレゼントあげないとです!」
「……えっ? わ、ワシにプレゼントじゃと?」
「はいです! みんなにプレゼントを配ってるサンタさんが、プレゼントもらえないのは可愛そうです……。だから、わたしがサンタさんにプレゼントをあげますです!」
「い、いや……ワシのは必要ないぞ。みんなにプレゼント配るのが仕事だからのう」
「だめです! いまから、プレゼントさがしてくるので、待っててくださいです! ママ、いこっ!」
女の子は風船をなびかせながら、一人で元気よく走り去っていった。
「あ、う、うん……」
気持ちはすごく嬉しい。
けれど、う~ん……どう反応すれば良かったんだろ。難しいなぁ。
そんな僕を見据えて、女の子のお母さんが「気にしないでね」と去り際に声をかけてくれた。
母親ってすごいなぁ。
「もしまた会う機会があれば、受けとればいいのかなぁ……」
「へぇ、やるじゃねえか! モテモテだな!」
これまたサンタの格好をしている、酒屋の店主のアキラさんに声をかけられた。僕のと同じデザインのはずだが……隠しきれていない筋肉の盛り上がりが、不気味さを醸し出していてキモサンタになっている。
「アキラさん、お疲れ様です。……正直、困ってるんです」
「ほぅ? あれか、アニメとかマンガの女の子以外は興味ねぇ! ってやつか!」
「リアルの女の子も普通に好きですよ!? 僕はたしかにオタクですけど……って、そういう話じゃなくて。バイトでサンタとして配っていたプレゼントに、お返しするーって言われたんです。どうしたらいいんだろって考えてたんですよ」
「あの嬢ちゃんだって、誰それ構わずプレゼントを渡すわけでもないだろ。感謝の気持ちを渡したいからプレゼントを贈る。それを受け取らないのも、気が引けねーか?」
アキラさんは、見かけによらずとても優しい人だ。
オタ活で金欠な僕を、中学生ながらも働かせてくれている。
…………まあ今日は、商店街のクリスマスイベントで駆り出されていて、ほぼほぼボランティアなんだけどね。
「まぁあれだ。貰えるうちが華だと思っておけばいい。うちの娘も、今はプレゼントをくれるが……いつなくなるか、本当に怖い」
最後の方だけ妙にチカラが入っていた。
そんな深刻な目で僕を見ないでください、怖いです。
「さて、そろそろあがりだ。最後に風船だけ含ませといてくれ!」
「いいですけど、その格好まだ続けるんですか? サンタ衣装、全く似合ってないですよ」
ていうか気持ち悪い。客足が遠のきそうで不安である。
「あと、僕が膨らましちゃっていいんですか? 普通にボンベ使うことになりますし、経費的な意味でもアキラさんがやった方がいいと思うんですけど」
「まぁそうなんだがよ。俺にだって限界ってもんがあるからな。……商店街中の風船、全部膨らませろ!って、俺んとこに回ってきたからよ。ちょっと休憩させてくれや」
「あぁ……お疲れ様です。じゃあ、適当に膨らませておきますね」
「おうよ、頼んだわ! 好きなタイミングで上がってくれていいからな!」
裏方に置いてあった大量の風船を膨らませながらアキラさんの方を見る。
ベビーカーを漕ぐ母親に、アキラさんは泣きそうななりながら必死に謝っていた。
あ~あ、赤ん坊泣かせちゃってるよ。そりゃ気持ち悪いよなぁ……。
本人は子どもたちを喜ばせようと真剣なのだから、あれはあれで不憫である。
さーて、帰ったらアニメの一気見でもするかぁー、と伸びをしながら作業を終えると、ポケットのスマホが鳴った。
《いま商店街にいるね? 今日の夜は
買い物リストとともに、母さんからのお使いのプレゼントが送られてきた。
ま、うちの母さんのことだから、こうなることはなんとなく分かっていたけど。
私服に着替えた僕は、すぐに《了解》と返事して、買い物の任務につくのであった。
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