リリース

懺悔小太郎

第1話きっかけ

私の中の欲望が目覚めたのは小学校五年生のときだ。生理が生活のなかに受け入れられてから、そう経っていないとき。夏の始まりが始まる前。梅雨の終わりの目前。五年生初めてのプール授業目前の金曜日の夜。その日は母の帰りが遅く、家にいるのは父と六歳の弟だけだった。

四年生と五年生の間──十歳と十一歳の間──に私の身体は大きく成長した。だからであろう、母はその日中にスクール水着を試着するように頼んできたのは。

家にいるのは男ばかりで、私も家族と言えど異性の前で着替えるのには抵抗が当時からあった。自然と、試着は与えられたばかりの一人部屋で行う。

思えば、浴室や更衣室でない場所で着替えるのは人生でその時が初だ。湿り気のない空気のなか、生活感溢れる部屋で服を脱ぎはじめる。

Tシャツとシャツをいっぺんに脱ぎ、スカートのフックを外しストンと足元に落とす。人生初生理と同時期につけ始めたブラジャーも取り、Tシャツの上に置く。

クーラーの冷気が直にやってくる。

パンツも足元まで下ろしたところで、靴下を脱いでいないことに気がついた。今、私を隠すのはこの靴下だけ。その事実を、足どうし擦りあわせて確かめる。

いよいよ、スクール水着を試着する番だ。この時、私は靴下を脱ぐことをやめていた。

足から通し、生地を引っ張りつつ、紐を肩にかける。

結果から言うと、足りないどころの騒ぎではなかった。

紐は無理やり肩に通したのはいいが、他が圧倒的に足りなすぎる。

股の部分から胸の上まで隠す部分が足りていないのだ。

股にはTバックのように生地が食い込み、乳首はギリギリ隠せるかどうかだ。いや、隠せてなどいない。冷気によってピンとたったそれが生地の淵上に乗っていた。

一年間でサイズが変わったのだ。水着を引っ張って胸の前まで伸ばしてもすぐまた戻ってしまう。それだけ成長した。嬉しい事実だ。だが、当時の私はスクール水着が身体を締め付ける感触に夢中になっていた。

胸を隠すために水着を引っ張れば股とお尻を締め付ける。手を離せば乳首を擦りながら生地が胸を露にする。

何度も何度も繰り返し、身体の奥から頭の上に何かが押し寄せようとしたその時、母が帰宅し、私の部屋の扉を開けた。

私はなんでもない風を装うのに必死になった。幸いだったのは、私の身体を隠しきれていない水着姿を笑ってくれたことだ。おかげで私は、誰にも気づかれず私の欲望を知ることができた。

小学校五年生のその日から、私の欲望は日常を蝕んでいる。


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