Yの逆襲

EVE

第1話

男は“それ”を見て口角を上げ不気味に笑った。

そして小さなため息をつき、「また仕事が増えたよ」と呟いた。



そう、その男の人生が狂い始めたのは今から10分ほど前の話だ。


.


顔は世の男性よりは綺麗な顔立ち。平均以上だが容姿端麗、とまでは言えない。

お世辞にも背は高いとは言えないが、そこが周りの女から好意を持たれるポイントだった。彼から醸し出される可愛い雰囲気に社内の女達は人気だった。


しかし性格は一癖、いや二癖もありそうな男である。裏表が激しい性格というわけで女達も遠くから眺めるだけだった。


そんな恵まれたルックスを持つ吉原涼は上司の杉原祐也と口論中だった。

『このプロジェクトは俺の昇進がかかった大切なものなんだ!ミスなんかされたら困るんだよ』と荒々しく言った。


涼は内心では“めんどくさい奴だな”と思っていたものの上司にそんなこと言えるわけはなく、「すみませんでした。これからは気をつけます」とありきたりな謝罪文を述べた。


しかしいつもなら許してくれる杉原だが、今日に限ってはブツブツと文句を言いながら涼に背を向け部屋を出ようとしたのだ。


涼は杉原が言った一言を聞き、とっさに近くにあったハサミを相手に向けた。彼は勢いよく相手に向かって走り背中にハサミを刺した。杉原は最初は抵抗したが、涼はハサミを何度も振り下ろした。何回刺してしまったのかは分からないが、もう杉原は息をしていない。




涼は真っ赤に染まった“それ”を見て「俺の人生に傷をつけるな」と言い捨てた。



その言葉は先程杉原が涼に向かって言った言葉と同じだった。





涼は焦りもせずに血のついた真っ赤なスーツから朝着てきた服に着替え、フードを深く被り会社を出た。



彼の目は輝いているように見えた。






彼の足は駅に向かっていた。

もう少しで駅に着く。


しかし、神は彼に罪を与えた。







彼が階段を降りようとした瞬間、生温い風が吹いた。そして彼は『彼の完璧なはずだった人生』から踏み外すように階段から落ちていった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Yの逆襲 EVE @miyupyon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ