第6話 メイ
遮るものがないから、川沿いの道はたいてい風が強い。特にこの辺りは南北に川が走っているので、冬の北風は体に堪える。
短い冬休みが終わり、今日から学校が始まる。
「おはよう!明けましておめでとう。今日は寒いねー」とみんなへ声を掛けると、挨拶に交じって、
「おじさん、なんでパトロールに来なかったの!」明らかに怒っている声。
見ると、頬を膨らませて目を細めてこちらをにらんでいる。
お怒りの主はメイちゃん。仲良し六人の最後の一人で、黄金世代である三年生。彼女も足が速く、なっちゃんと同様に毎年リレーの選手だ。今年から一年生の妹、いずみちゃんも登校班に加わっている。
怒りの原因は、昨年末の町内パトロールだ。
毎年、この町内では十二月二十八日の夜に、子供たちが参加してパトロールを行っている。夜七時から三十分くらいかけて「火のぉ~用~心」カンッ、カンッと拍子木を持ちながら、おなじみの掛け声とともに町内を廻るのだ。
パトロールの後は町会会館で恒例のビンゴ大会が行われ、文房具やぬいぐるみ、おもちゃなどを子供たちにプレゼントする。
このパトロール&ビンゴ大会にも毎年お手伝いとして参加していたのだが、昨年はあいにく仕事の都合で参加できなかった。
当然、私が参加するものと思っていたメイちゃんからは、新年早々にお叱りを受けることとなってしまった。
「おじさんも来ると思って、行ったのにぃ」
「ごめーん。仕事の用事があって行けなかったんだよ」
「先に言っておいてよね!」
と言いながら、上履きやら何やら荷物が詰まった手提げ袋を、ずいっと差し出す。
「ごめんね、行けなくて」
と謝りながら受け取って、自転車のかごに入れる私。
上から目線で荷物を持たせてくるりんちゃんと違って、いつもなら甘えた感じで頼んでくれるのになぁ、メイちゃんは。
まぁ今回のことは参加できなかった私が悪いので、仕方ない。これでご機嫌が直ってくれるのなら、お安い御用です。
何か町会の行事があると、必ずと言っていいほど、
「おじさんも行く?」
と聞いてくれるメイちゃん。
ボーリング大会の時は参加できなくて残念そうにしていたし、連合運動会(地域の子ども会対抗で行います)の時は引率役の私と手を繋いで会場のグランドまで行ったり。
「おじさん。登校班の付き添い、ずっと続けて欲しいなぁ。ママもおじさんがいてくれると安心って言ってたよ」
優しいのか、甘え上手なのか、おじさん心をくすぐる言動をしてくれる。そんなメイちゃんはおませな部分もあって、
「おじさんは彼女いるの?結婚してるの?」と聞いてきたことがある。
悪気がないのは分かるけれど、答えづらい質問だな……
「結婚してないよ。彼女もいないし」
他の子も話に乗っかってきて、
「えー彼女もいないの」「寂しいじゃん」「彼女がいっぱいいたら、ボコボコにされちゃうよねー」などと盛り上がっていた。
彼女は、もういらない。もういらないんだ。
どうせ失うなら、手に入れない方がいい。
一人は寂しいけれど、二人から一人になる方がもっと寂しいから。
今の俺には、きみたちの成長を見守ることが何よりも楽しいから。
そんなことを考えながら、子供たちと一緒に歩く。
話はまだまだ盛り上がっていたけれど、
「それじゃ、わたしがおじさんの彼女になってあげる!」と言う子は一人もいなかった。
そこまで現実は甘くないんだな。
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