第4話 ひな
「男ってバカよね」
いきなりストレートに来たから、こちらもうなずくしかない。
「確かにね」
「いっつも、くだらないことばっかりして」
「仕方ないよ。いくつになっても子供みたいなところがあるから」
「ほんと、こどもなんだから」
場末のカウンターを挟んで、グラスを傾けながら店のママとの……ではなく、自転車にまたがったおじさんと小学二年生との会話。
会話の相手はひな。小柄でロングヘア―、
で、よくよく話を聞くと、算数の授業でさされた男の子が、黒板の前に出ても問題を解かずにふざけているのが気に入らなかったらしい。
「ふざけていいときと、そうじゃないときがあるじゃないっ!」
思い出し笑いならぬ思い出し怒りで、昨日のことなのに私へ文句を言っているひなをなだめながら、亡くなった母によく言われていたことを思い出した。
『時と場合を考えて行動しなさい』
もう一つ、小さいころからよく言われたのが、
『相手の立場になって考えなさい』――
あの頃、もっと彼女の立場になって考えていたら……何かが変わったの
だろうか。
何も変わらなかったのかもしれない。けれど……
ちいさな体なのに親分肌で、面倒見がいいのもひならしいところだ。
私が付き添っている登校班は、集合場所から学校まで十五分ほど歩いていく。あと五分といったあたりから団地を抜けて中庭広場を通るので、そこでみんなとはいったん別れ、自転車で校門前へ先回りして、横断歩道を渡る子供たちの誘導を行うまでが私の仕事だ。
「おはようございます」
次々と子供たちが通っていく。うちの登校班も通って行ったがひなの姿がない。別れるまでは一緒だったのにどうしたんだろう……と不安に思っていたら、しばらくして、ひなが走ってきた。
「おじさん!ちょっと来て!」
ひなの後をついて中庭広場へ入っていくと、駐車場前に張られたチェーンに男の子が一人絡まっていた。よく見るとランドセルの金具にチェーンが引っ掛かって身動きが取れなくなってしまったらしい。外そうともがいている男の子を放っておけなくて一緒に取ろうとしたけれど、力が弱いので応援を呼びに来たそうだ。
「だいたい、こんなところをくぐろうとするのが悪いんでしょ!まったく、バカなんだから」
外してあげると、すぐに駆け出していく男の子の背中へ、
「待ちなさいっ!御礼はっ!」と叫ぶひなだった。
そんなひなが、
「お母さんは二十二歳なの」
(確かにひなのお母さんは若いけれど、それは騙されてるぞ。ひなが生まれたとき十四歳の訳ないだろ!)
「サンタさんにもらうプレゼントが決まったから、お手紙を書いたんだ」
と話してくれる姿を見ると、ちょっと安心して微笑んでしまうおじさんなのでした。
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