天の底から -Reverse Run-

おしそ

Epi:0 《正義》がうごきだす

 誰がこんな当たり前のことに不満を感じるというのだろう。


「俺は、自由に……をしたいんだ!」


 無我夢中で蹴り上げた路面。長身の少年は目的地まで駆けながら、ただひたすら考えていた。あまりにも募った不満につい口に出てしまう。


「俺は間違ってなんかいない、なんでこんな……今までそうだって言われてたのに」


 まず、世界そのものは堕落していた。

 具体的はどこかの世界で云う〈自由奔放〉な生活様式である。皆それぞれ自分の好きなように生きていた。

 それがいわゆる〈法律〉であるからだ。


 では、自由とは何か。早速だが本質に関しては謎であった。

 だからこそ彼はそれを追いかけ、こうして考えているわけだ。


 ――自由とは、何か。


 これは、たった二夜を駆け、その本質を追い求めようとする〈悪魔〉の話である。





 

 

「めんどくせぇな……」


 一通の枕元に添えられていた封筒を開封、読み終える。

 短く、手入れをしているようには見えないが、大きな跳ね癖のない黒髪と鮮やかな赤目の少年。

 彼は一人、自らの城に立て篭り、訝しげにその内容へざっくりと目を通した。間もなく書類を意図もなく放り投げ、目を閉じて相手もなく零す。


「だいたい俺みたいなタイプが参加するとでも思ってんのかよ、あいつら」


 再び寝返りを打つ。

 乱雑で物に溢れる配置と閑静が交わるこの空間は、もはや彼の性格を物語っているようにも感じた。


 この封書を受け取ったのは数日前、そこから今まで惰性で開封せずにいた。

 だが、気が向いて開いたらこの有様だった。


「今日か、だから〈アイツ〉さっきわざわざ来てたんだな……来ないって解ってたんだろうけど」


 時間を示す物質はここにはないが、なんとなく、もう事が進んでいる点を感覚的に理解していた。しかし言葉に反して罪悪感はない。


「……もう少し寝るか」


 そう言いながら彼はまた身体を転がす。

 投げ放った書類には、こう刻まれていた。



 ――学びを終え自由を手にした一人 イトス・ベネジェクテッド殿

 貴殿が<学園>での生活を終了してから2ヶ月が経った。いかがお過ごしだろうか。

 さて、この度は次の日程・場所にて同窓会を行う運びとなった。

 貴殿が参加することを我々は所望する

                                        学園管理部

 日時 ――――

――

追伸・これからも天界にて優秀な悪魔としての活躍を期待する。






 遥か昔、ここには階級社会に従事する<悪魔>という種族が存在したという。

 彼らは他世界へ数々の厄災、干渉といった形で影響をもたらし、脅かすことでその尊厳を示していた。


 ……しかし今やそれも古代。

 現在それらはまるで他の文明であるかのように変化していた。

 他世界のあらゆる時空間を渡り歩く者も少なくなり、現在は魔王の統括があるにも関わらず、悠長に個々は生活していた。


 そんな自らの種族を現代想像悪魔。

 略して<現想悪魔>と呼ぶ者も居る――彼らに古代から列記とした形で残ったものは


 ”寿命は存在せず、生命や行動の源は、一貫して<自らが蓄える魔力>であること”


 ただ一つだった。


 だからこそ、彼らは自由の在り方を追求し続けていた。

 時代は今もなお、変革している。

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