西園寺桜華という人物①

GWを満喫した私は、GW後も西園寺さんたちと一緒に過ごしていた。やっと時間が取れるようになったのか、西園寺さんが私を自分の家に招待しようと言い出した。


日曜日、私は地図を見ながら西園寺さんの家に向かった。西園寺さんの家は私の家から電車で二駅の場所にあった。家の前まで来ると、西園寺さんと雨水君が家の前で待っていた。西園寺さんの家は金持ちということだけあって、りっぱなお屋敷だった。


「遅いよ、蒼紗。来ないかと思って心配したよ。」


 本当は行こうかどうか迷っていた。しかし、西園寺さんの話が気になってきてしまった。


「じゃあ、中に入ろうかしら。お昼は出前を頼めばいいかしら。蒼紗の好きなものは何かしら。好きなものを頼んでいいわよ。」


西園寺さんが、自分の部屋に案内してくれる。部屋は予想とは違い、シンプルで必要最低限のものが配置されただけの殺風景な部屋だった。それでも広さは私の部屋の1.5倍ぐらいはありそうな広さだった。西園寺さんだったら、部屋の壁紙がピンクで、棚にはぬいぐるみがぎっしり詰まっていて、化粧鏡に化粧品がたくさん置いてあるというイメージだった。


「なんだか、蒼紗が私に変なイメージを持っている気がするけれど、ここは親戚の家で私は居候の身の上。部屋を派手に改装することはできないのよ。」


 私が部屋の中を凝視していたことを不審に思ったのだろう。西園寺さんが部屋の説明をした。しかし、いつも私に渡してくる衣装の数々はどこにあるのだろう。部屋の隅のクローゼットの中だろうか。好奇心に負けて、他人の部屋だというのについ誘惑に負けて、クローゼットを部屋の主の許可なく開けてしまう。

その中にはたくさんの衣装がかかっていた。私がすでに来たことのある服やまだ来たことのない未使用っぽい服など和洋中、仕事服、創作服などであふれかえっていた。


「蒼紗ったら大胆なんだから。そんなに私が挙げた服が気に入っていたなら、遠慮なく欲しいと言ってくれれば好きなものをあげたのに。」


 無意識の行動だったのではと我に返る。さすがに家にまで持ち帰って普段着にするほど変態ではない。丁重にお断りする。西園寺さんの有り難くない発言は無視する。


話をする前にお昼を出前で頼もうということになり、私はピザを頼むことにした。寿司だと高そうだし、ラーメンは麺が伸びそうで嫌だ。ピザの他にデザートも頼んだ。話が長引きそうなことはわかっていたので、たくさん注文した。二人は特に文句を言うことなく、私と一緒に食べたいピザを注文した。

ピザを頼み終わると、突然西園寺さんが質問してきた。


「蒼紗に確認したいことがあるけど、あなたは人と違うことについて寛容か。それとも人と同じを尊ぶか。どちらの考えに近いかしら。」


いきなりの質問に戸惑った。最近、突然脈絡のない質問をされることが多い気がする。どちらの考えに近いかと言われれば、後者になる。私は人と違うことで目立ちたくない。目立つと、いじめの標的になる。過去の苦い記憶がよみがえる。そうはいっても、ここ最近の私は目立ちまくっている。過去の私からしたら、信じられないだろう。目立ってもいじめの標的になっていないのは、ひとえに二人の圧倒的存在感であろう。自分をしっかり持っていて、芯がある。それが人々にはわかるのだろう。


「私はできるだけ目立ちたくありません。出る杭は打たれるというでしょう。私は打たれたくない。」


「そう。蒼紗は打たれたことがあるのかしら。」


率直に意見を述べた。それが本音である。西園寺さんは意外そうな顔をしながら、さらに私に問いかけた。私は黙秘に徹した。このままでは思い出したくない記憶もよみがえってきてしまう。


「そのへんにしておけ。今日は俺たちの話を聞かせるためにここに呼んだのだろう。話が脱線して本題に入れなくなる。」


沈黙を破ったのは雨水君だった。確かに今日は私の話は関係ない。二人が大学を休む理由とそれに関係する仕事の話を聞きに来たのだった。


「そうだけど。お腹が減っては集中して話すことはできないでしょう。せめて、注文したピザが来るまでは雑談でもしましょうよ。それぐらいはいいでしょ。」


ピザが来るまでの間、私の好きなもの、嫌いなもの、得意なこと苦手なこと、趣味や休日の過ごし方など様々なことを聞かれた。それに私は真面目に答えていった。

「どうして私のことをそんなに聞くのですか。聞いて楽しいとは思えませんけど。」


自分でいうもの悲しいが、私は自分がおもしろくないつまらない人間だと自負している。好きなものも嫌いなものも特にないし、たいがいの食べ物は嫌な顔せず食べることができる。得意なことはないし、かといって苦手なことも特に思い浮かばない。しいて言うなら、両親が教師をしていてその影響か、他人に勉強などを教えることは好きではあるが、とはいっても人前で教えられるほどではない。人見知りで他人の前に出て話すことは苦手である。趣味は読書だが、普通すぎる。休日は家でゴロゴロしているか、本を読んでいるかのどちらかである。


「西園寺さんはその点、面白そうですよね。私にした質問をそのまま西園寺さんにしてもいいですか。好きな食べ物………。」


私が質問しかけると、玄関のチャイムが鳴った。どうやらピザが届いたらしい。いつもちょうど質問しようとすると、邪魔が入る気がする。


「この話はここまでね。私のことを知りたいなんて、かわいいわね、蒼紗。大学でたくさん話してあげるから、まずはお昼にしましょう。」


こうして、私たちは少し遅めの昼食をとったのだった。昼食後、いよいよ西園寺さんの話が始まった。



「じゃあ、お昼を食べてお腹がいっぱいになったことだし、話していきましょうか。私と静流の関係はこの前話した通りで間違いはないわ。それで、私たちの家系について話すわね。」


西園寺さんが話をまとめるとこういうことらしい。


 西園寺さんの家系は代々、化け狐の血が受け継がれている。誰が受け継ぐかはわからないけれど、化け狐の血が流れているものはその時の当主となっていることは事実であり、取り決めとなっている。化け狐の血が受け継がれなかったときは、代理が当主を務めることになっていて、あくまで代理であり、正当な後継者が生まれたら、すぐに当主を交代する決まりになっている。彼女の祖父が父の前の当主だったけれど、彼女の生まれる前に亡くなってしまった。


 現在の当主は父上になるけれど、父には化け狐の血は受け継がれなかった。受け継がれたかどうかはすぐにわかる。生まれたときに狐の耳と尻尾を有していたら、血は受け継がれているという証拠。わかりやすい証拠である。

 父には耳と尻尾はなかった。父には受け継がれなかったけれど、彼女は耳と尻尾を有して生まれた。このことで父は西園寺さんの代理であるということが決まった。彼女が18歳になったら父の後を継いで正式な跡取りとして任命される。これは決定事項だ。代々受け継がれてきた決まりである。これが争いを生んだ。


西園寺さんがそのまま育てば父は当主ではなくなる。これが父上にとって悔しいことだった。自分の娘とはいえ、何もせずとも当主に慣れるということが気に入らなかったのだろう。父は化け狐の血を受け継がなかったせいで西園寺グループや親せきの人にさんざんひどい言葉を浴びせられた。自分のせいではないのに正式な当主になれない憤り、それに加えて周りからの非難中傷の数々。その中での娘の存在。化け狐の血を受け継いで生まれた彼女を見て父は「お前さえいなければ」と何度も繰り返し言ってきた。


化け狐の能力はその名の通り、変身の力である。さらに代々、西園寺家に仕えている狐の神様の守護の力を得ることができる。狐の神様の姿も認識でき会話も可能になる。この狐の神の守護のもと、西園寺家は大きな発展を遂げてきたといっても過言ではない。ただし、能力を受け継いだものに対してのみその狐の神は力を貸す契約を交わしているそうだ。初代西園寺当主が狐の神様と決めた契約であるそうだ。そのため、化け狐の能力が出ないときは守護されずに何度か倒産の危機に陥っていたらしい。もし、初代当主の直系の血が途絶えればどうなるのか。西園寺家はたちまちに倒産してしまう、そんな不安を抱えていたため、狐の耳と尻尾を有した子供が生まれた時の喜びは大きい。そして、過剰な期待が寄せられる。



「今の話だと、西園寺さんは西園寺家の当主になることになると思うのですが、現状だと西園寺さんは後を継いでいませんよね。西園寺さんの実家は確か京都だったはずですが。」


「確かに話の流れだと私は当主になっていてもおかしくないわね。西園寺グループも代々のしきたりとか言って私を当主にしようとした。でも、私は当主になんかなりたくなかったから、静流を連れて逃げてきた。当然、グループの人間は私を逃がしはしない。ここ最近は狐の血を受け継いだ人間は現れなかったから余計に私を手放したくはなかったのでしょうね。」


「彼らは執拗に私に当主になるように迫った。当時高校生だった私には力がなかったから、もう当主になって西園寺グループの人形になり果てるしかないとあきらめかけていた。」


けれど、そうはならなかった。だから西園寺さんは今、私の目の前にいる。西園寺さんは説明を続けた。


「私は狐の神様にお願いした。私を逃がしてくれるように頼みこんだ。彼は気まぐれで人間に慈悲を与えてくれる。その時、たまたま機嫌が良かったのか、彼は私を逃がしてくれるように手配した。ただし、ただで逃がすよう手配はしてくれなかった。条件として、私にある仕事を依頼してきた。それが今から話す私の仕事というか、バイトのこと。」


「仕事をするだけで逃がしてくれるというなら、私は喜んでその条件を受け入れた。すると、彼は私に化けて、私の声で言ってきた。『私がお前の代わりに努めてやろう。人間の仕事が面白いとは思わないが、暇つぶしにはなるだろう。』と。」


彼は本当に言葉通り、西園寺さんに成りすまして、西園寺家の当主になったようだ。晴れて彼女は自由の身になった。当然、狐の神様が私に成りすましているので、そのまま京都に残っていては西園寺さんの存在が二人になってしまい、不審に思われる。そこで、彼女は大学を京都ではない場所に行く必要があったようだ。


「私はあの家でなければ正直どこでもよかった。でも、せっかく彼が自由を与えてくれたのだから、それを有意義に使わなければならない。そこで、自らのことを知ることができるかもしれないこの大学を選んだ。」


 確かにこの大学は日本に唯一ある妖怪などの怪異について学ぶことができる学科がある。それでこの大学にしたのだ。彼女がうちの大学に来た理由は理解できた。


「大学は決まって、あとは住む場所とお金の問題が残っている。それも彼が手配してくれた。よほど私のことが気に入っていたのか、単なる気まぐれかわからないけれど、家は私の遠い親戚に言えば住まわしてくれるとのことで、お金も大学までは工面してくれると言っていた。半信半疑だったけれど、それにすがるしかなかった。」


実際に彼女がその親せきを訪ねると、本当に住まわしてくれると言ったようだ。そしてお金も出してくれると言っていたらしい。


「ということでここまでが私の生い立ちでこの大学にいるまでの話。静流は私がついてきて欲しいから連れてきた。それに静流も私と一緒で能力があるから、家にいるといろいろ面倒だったらしいから、一緒に行くと言ってくれた。」


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