能力者は本当に存在した

 今日は二人そろって大学に来ていた。そして、会うと早々、西園寺さんは私に紙袋を渡してきた。いったい、今日はどんな服に着替えさせられるのだろう。黙って受け取り、中身を確認する。今日は警察服だった。彼女の服装も確認する。彼女は黒と白の縞々のボーター服の上下を着ていた。なるほど、今日は警察と囚人の設定か。それにしてもなぜ彼女が囚人で私が警察官なのか。よくわからないが、着替えることにする。


 今回の衣装も私にぴったりのサイズだった。更衣室を出ると、西園寺さんが駆け寄ってくる。

「やっぱり蒼紗は背が高くてスタイルがいいから、何でも似合うわね。うんうん。」


ひとり納得して上機嫌だった。そんなことはどうでもいい。私は昨日のことを問い詰める義務がある。


「ところで、なぜ昨日は二人とも大学の来られなかったのですか。昨日は二人がいなくて大変な目にあいました。」

ちなみに西園寺さんの隣には雨水君がいた。この二人はいつも一緒にいる気がする。付き合っているのだろうか。まあ、私には関係のないことだが。


「ああ。それは急な仕事が入ってね。私たちバイトしていて、その仕事が不規則でいつ仕事が入るかわからないもので、それがたまたま昨日だったというわけ。だから大学を休ませてもらった。蒼紗が心配しなくてもさぼっていたわけじゃないよ。ほんとに急に仕事が入っていけなかっただけだから。」


 一体何のバイトをしているのだろう。何かやばい仕事なのだろうか。詳しく仕事の内容を聞いてみたいが、聞いたら聞いたで、さらに面倒なことが待ち受けているような気がする。こういうは気になっても聞かない方がよいときもある。

しかし、人が親切に仕事の内容を聞いてあげないでいるのに、西園寺さんはさらっと自分のバイトのことを話し出した。


「何のバイトか気になるでしょ。私のことがそんなに心配かしら。でも大丈夫よ、少し危険な仕事だけど、死ぬような危ない仕事ではないから。気になるようなら、蒼紗にだけは教えてあげる。私の仕事は………。」


「やめておけ。いくら朔夜のことが気に入っているからって俺たちの仕事のことまで話す必要はないだろう。話したらこいつを巻き込むことになるぞ。それでもいいのか。」


 話を遮ったのは雨水君だった。やはり危険な仕事なのか。ここは聞かないふりをして話題をそらした方が得策か。


「別にいいじゃない。蒼紗も私たちと同じ能力者なんだから。能力者だったらむしろ話した方がいいと思うけど。」


「とはいってもこいつはまだ能力についてほとんど何も知らない。そんな一般人同様のこいつを俺たちの問題に巻き込んでいいものか。」


何やら二人は私に自分たちの仕事を話すか、話さないかということでもめているようだ。このままではらちが明かない。それに授業も始まってしまう。この話はまた後程詳しく聞くことにしよう。私が能力者だという発言も気になるが、授業を受けるのが先決だ。


「二人ともこの話はあとにしましょう。とりあえず、授業に行きませんか。」


 二人は顔を見合わせ、頷いた。私たちは授業が行われている教室へ急いだ。佐藤さんの姿が見えたが、今日は私に話しかけることもなく、遠目に私たちを見ているだけだった。昨日とは全然違う。やはり、あこがれの人に話しかけることは勇気がいるのだろうか。あこがれるような二人ではないと思うが。それとも、私たちの服装が話しかけにくい原因かもしれない。何せ、囚人と警察のセットのコスプレをしている人にきやすく話しかけることは難しいだろう。



 授業が終わり、私たち3人は大学近くのケーキ屋に来ていた。偶然にも佐藤さんと昨日行ったケーキ屋と同じ店だった。人気がある店といっていたが、西園寺さんもケーキは好きなのだろうか。


「さて、私たちの仕事のことだけど、その前に私たちのことを話した方がわかりやすいから、私たちのことを話すわね。長話になりそうだから、ケーキでも買って蒼紗の家で話しましょう。」


 ケーキを買った後、西園寺さんは話が途中で終わった彼女たちの仕事の話の続きをしようと提案してきた。なぜ、私の家で話すことにきまっているのだろうか。異論は認めないという意志の込められた視線に耐え切れず、仕方なく私は二人を自分の家に案内したのだった。



 家に着いて、自分の部屋に西園寺さんたちを案内する。買ってきたケーキを机に置き、台所で紅茶を入れて、持っていく。部屋をぐるりと見渡した西園寺さんは特に何も言うことなく、すぐに話し始めた。


「話が長くなりそうだから、さっそく話し始めるわ。私と静流は幼馴染でずっと一緒に育ってきた。私は西園寺グループの西園寺家の娘で静流は代々、西園寺家に仕える雨水家の次男。幼馴染で一緒に育ってきたけど、どちらかというと、幼馴染ではなくて、ご主人と執事みたいな関係が正しいかな。静流は私のいうことにはよっぽどのことがない限り逆らうことはないし、彼も私の言うことに反論はあっても最後には頼みを聞いてくれる。まあ、ここまでは私と静流がいつも一緒にいる理由、別に恋人でもないし、付き合っているわけでもないから、そこを間違えないように。」


 私は別に西園寺さんと雨水君が付き合っていようがいまいが特に気にすることもないのだが、付き合っていないと言っているし、そこは信じることにしよう。

「そして、ここからが大事な話になる。私たちは普通の人にはない、特殊な能力を持っている。私には変身能力が、静流には雨を降らせる能力がある。この世にはたくさんの能力者がいて、みな能力を隠して、一般人として普通に生活を送っている。ただ、普通に生活をしている人もいる中で、たまに能力を扱いきれなくて、暴走する能力者がいる。それを見つけて、取り締まるのが私たちの仕事。」


 突然の爆弾発言である。いくら、先日能力者について瀧さんから教えてもらったとはいえ、またもや能力者について話を聞くことになるとは。初めて聞いていたら、西園寺さんの頭がおかしいと疑っていただろう。


「いきなりこんな話をして戸惑うかもしれないけど、実は蒼紗も能力者の一人なの。気づいていないかもしれないけど、私たちと同じ能力者、だからこの話を信じてほしい。」


 やはり能力者がこの世に存在しているのか。それにしても驚いた。まさか瀧さんの話が本当かもしれないとは。さらにはこの二人も能力者だとは驚きである。ということは雨がこの町限定で降っていたのは雨水君の能力ということだろうか。にわかには信じがたい話である。


「この話をなぜ私にしてくれるのですか。私は能力について何も知りません。今日初めて聞いたので、正直、本当のこととは思えません。能力者なんて非現実的なことを今の話だけでは信じることはできません。そもそも二人が能力者だという証拠を見せてくれないと、話だけでは信ぴょう性に欠けます。」

 

 とりあえず、今日初めて能力者についての話を聞いてということにしておこう。事前に知っていたら知っていたで、面倒なことが起きそうな気がする。


「なぜ、話したかというと、実は仕事の方で人が不足していて、猫の手も借りたいくらい忙しいから。それと、蒼紗ならこの話をしても信じてくれそうだったから。その二つだけよ。」


 そう言って、西園寺さんは不意に席を立った。


「じゃあ、私たちが能力者である証拠を見せましょうか。」


 続けて西園寺さんはこう言った。西園寺さんの頭からは狐のような耳が、お尻のあたりからは尻尾のようなものが生えてきた。そして、目の前で突然煙が上がった。思わず目をつむってしまう。そして、目を開けた次の瞬間、目の前には西園寺さんではない別の女性が立っていた。茶髪が肩ぐらいまであり、ゆるくパーマがかけられている。顔は目が大きなアーモンド形でかわいい感じである。西園寺さんではない別の女性が突然現れたが、その代わりに西園寺さんが見当たらない。現れた女性の服装は西園寺さんが来ていた服のままだった。



「驚いたでしょ。これが私の能力で誰にでも化けることが可能な便利な能力なのです。これで信じてくれたかな。」


 声も容姿も別人だが、西園寺さんがこの場にいない以上、この別人の女性が西園寺さんなのだろう。隣の雨水君は頭を抱えている。何をやっている、この主は。とでも思っているのだろうか。残念な人に仕えると苦労が絶えないがご愁傷様。あなたのご主人はとんでもないことをしてくれましたよ。これでは信じるしかない。


 再び、煙が上がり、目の前には西園寺さんが本人の姿で立っていた。狐の耳と尻尾は生えたままである。私はつい耳と尻尾を凝視してしまう。


 私が耳と尻尾を凝視していることに気付くと、にっこりとほほ笑み、耳と尻尾を消していつもの西園寺さんの姿に戻った。



「能力者には普通の人とは異なる特徴があるの。私の場合は能力を使おうとすると、狐の耳と尻尾が現れる。私はコスプレみたいでかわいいとは思うけど、普段は耳と尻尾は出さないようにしているわ。」


「あとは、静流の雨の能力だけど。」


「それは大丈夫です。そこまでしなくても今の変身で西園寺さんたちが能力者であることがわかりました。今までの話は信じますから、これ以上異常気象を起こさないでください。」


「あら、気づいていたの。そう、ここ最近の雨は静流がふらせていたもの。それに気づくなんて結構鋭いのね、蒼紗は。」


 まあ、ここ数日突然雨が降ることが多かったから推測しただけだ。大したことではない。それにしてもさっきからいろいろな話を私に話してくれ、さらには自分の能力も証明してくれた。それは私を信頼してくれてのことかもしれないが、それでも何か裏があるような気がする。ここまで詳しく自分たちのことを話しているということは、暗に仕事を手伝って欲しくて断らせたくないということだろうか。私たちが自分の秘密を話したのだから、私たちは運命共同体。一緒に仕事をしましょうね。まさか、ここまで話を聞いておいて、断ることができると思っているのではないでしょうね。とか言って、脅されそうな勢いである。


「あとは仕事の話だけど、今日は遅いから、また今度にしましょう。今度は私の家にきてそこで話しましょう。」


 ちょうど、ケーキも食べ終わったところで、時計を見ると、すでに7時過ぎぐらいになっていた。そんなに長く話していたつもりはなかったのだが、意外と話し込んでいたらしい。今回は西園寺さんたちが能力者だということがわかり、仕事の話はまた後日となった。今日も今日で驚くことだらけの一日だった。



 西園寺さんたちと過ごすダイタク生活にもだいぶ慣れてきた。大学の授業が入っている日は、必ず西園寺さんが持参した服に着替えて授業を受けた。こうも毎日コスプレしていると、私だけでなく、周りも慣れてくるらしい。最近では特に変なまなざしを感じることなく、普通に授業を受けることができている。なれとは恐ろしいものだと実感した。


 二人の時間が合わないのか、西園寺さんの家に行く機会はなかなか訪れなかった。別に急ぎの用事でもないし、特に気にしていなかった。暇ができれば家に呼んでくれ、仕事について話してくれるだろう。

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