大学生活③
「みなさん、席について。授業始めますよ。」
私が言葉を言い終えると同時に先生が話し始めた。いつの間に先生が来ていたのだろうか。これでは仕方ない。どうせ、反論したところで何か変わるとも思えない。授業後すぐに更衣室に行って、自分の服に着替えよう。雨に濡れた自分の服もだいぶ乾いているだろう。そして、服を返してしっかりと断ろう。先ほどまでは西園寺さんに流されて渡された衣装を着てしまったが、今の会話を聞いて決心した。西園寺さんはやはりかかわってはいけない人種である。決意を胸に授業を聞き始めた。
「これで授業を終わります。」
授業終わりの合図とともに教室を飛び出す算段だったが、見抜かれていたのだろう。私の行動を先読みして、腕をつかんできた。
「逃がさないわよ。次は空きコマのはずでしょ。これからたくさん私たちとお話ししましょう、蒼紗。まだまだ話したいことは山ほどあるのだから。」
これはもう、腹をくくるしかない。
「はい。」
私は西園寺さんと雨水君と空きコマを控室で一緒に過ごし、その後、食堂でお昼を食べ、午後の授業も仲良く3人で受けることになったのだった。
授業がすべて終わり、この後特に用事もなかったので家に帰ろうかと思い、2人に家に帰る旨を伝えた。さすがに放課後までは付き合わなくてもいいだろう。西園寺さんに自分の家に来るかと聞かれ、さすがにそこまではと遠慮する。すると、意外とあっさり西園寺さんは私の要求を聞き入れてくれた。しかし、この服で電車に乗るのは恥ずかしすぎるので、更衣室で自分の服に着替えなおすことにした。
「服はクリーニングに出さなくていいけど、明日からも私がもってきた服に着替えなさいよ。」
どうやら明日もこのコスプレは続くらしい。
大学を出るころになっても雨はやむ気配は一向にない。ザーザーと滝のような雨が降り続いている。帰りもずぶぬれで帰るのを覚悟で、私は駅に向かった。
電車に揺られながら、改めて今日一日を振り返ってみる。そういえば、今日は西園寺さんと雨水君としか話していない。服装が服装で話しかけにくかったのかもしれない。それでも、2人には毎時間、たくさんの学生が入れ替わり立ち代わり話しかけていた気がする。必修の授業では同じ学科の学生もいた。これから4年間一緒に過ごすのだし、仲良くとまではいかなくても、ある程度の仲にはしておきたい。
ふと、外の景色を眺めてみる。今日は本当に一日雨が降り続けていた。明日も降るのだろうか。雨の日はどうしても気分が憂鬱になる。
家に帰り、そういえば明日の天気はどうだろうとテレビをつけると、ちょうど天気予報をやっていた。どうやら明日は晴れるらしい。それと、今日の雨は私の大学付近だけで降っていたらしく、その周辺の地域は晴れていたらしい。大学上空だけ、雨雲が覆っているような変な天気だったという。怪奇現象とでもいうのだろうか。まあ、一日だけで明日は晴れるというし、特に問題はないだろう。
私が電車に揺られている頃。西園寺さんと雨水君は、まだ大学内の控室にいた。
「蒼紗、とってもかわいいわよね。しかも思った通り、私が見立てた服がよく似合うわ。」
「あまりいじめるなよ。」
「いいじゃない。こうしてストレス解消でもしないと精神がもたないわ。次の仕事ももう入っているのでしょう。」
「まあ、次の仕事はもう入っている。決行は今夜0時。雨もそんなに長く降らせ続けられないからな。一気に片づける。そして残念ながらその次も予約済みだ。」
アルバイトの話でもしているのだろうか。二人はまだしばらく控室で話していた。
それからの一週間、毎日のように二人は私に付きまとってきた。朝大学に行くと、どこからともなく現れ、服が入った服を手渡される。そして、私は無言で受け取り、更衣室で着替える。一緒に授業を受ける。お昼を一緒に食べ、その後も一緒に授業を受け、授業が終わると、解散となる。毎日この繰り返しだ。
服は毎日違っていた。西園寺さん本人に合わせた服装で、女主人と執事、メイドなど様々だった。よくもまあ、こんなに服を集められたものだ。あきれを通り越して、あきれてしまう。
最近、ちょっとした傷害事件が多発している。万引きをしているところを見つけられて、逆上して店員を殴ったり、夜中ホームレスの人が襲われて大けがを負ったり、酔っ払いが道を歩いていたら、突然背後から襲われてけがをしたりしている。世の中物騒である。
物騒ではないが、うちの大学でも変わったことがあった。私の学科の生徒がひとりやめてしまったことだ。なんと、入学式に空いていた私の隣の席の生徒だった。顔も見たことがないので、寂しいとか心配などの感情は湧かないが、それでもなぜ大学入学早々やめてしまったのかは気になる。
西園寺さんは彼と知り合いらしかった。彼が大学を辞めたことを教えてくれたのは彼女だった。さらに続けて独り言のようにつぶやいた。
「あいつはかなり乱暴者で経過観察中だったけど、やっぱり問題を起こした。ああするしかほかに手はなかった。また一人同胞者が減って寂しいけれど、殺されるよりはましだ。」
彼がやめたことについて、なぜか彼女は心を痛めているようだった。彼が大学を辞めた理由を何か知っているような雰囲気だ。そして、雨水君も彼女の言葉に顔をしかめてうつむいた。気になるが、問いかけて良い空気ではなかった。
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