41.「ただいまあ」

帰宅した僕は、部屋の中に居る人物に聞こえるように言った。


「「おかえりなさい」」


部屋からは当たり前の様に返事の声が返った。


二人が僕を気遣って出迎えてくれた。


「今日もお疲れ様、お兄ちゃん、ご飯出来てるよ?」


「お風呂も沸いてますよ。それとも、わ・た・し・・・」


自称従兄弟が僕に抱きついてきた。


「あっ!わ、私も!」


自称妹も抱きついてくる。


「ええい、苦しいぞ!とりあえず玄関から出してくれ。」


と抗議をする。


「あっ、ごめんなさい」


「ごめんね、お兄ちゃん」


二人は離れてくれた。


何となく撫でてみたくなったからだ。


こいつらには好かれているし、セクハラにはならないだろう。


「んうっ・・・」


「んっ・・・」


二人は少し驚いた後に、ただただ撫でられてくれた。そんな二人の姿を可愛いとふと感じてしまった。


そのまま、少し撫で続けて、そして止めた。


「「・・・あっ・・・」」


二人は残念そうに表情を落とした。


「・・・お兄ちゃん、やっと私の頭撫でてくれたね。」


自称妹は僕に撫でられた頭を押さえながら言う。


「お兄ちゃんが今のお兄ちゃんになってから、全然頭なでてくれなかったんだもの。以前は毎日撫でて貰っていたのに。」


「でも、嬉しかった。これからも宜しくね、お兄ちゃん。」


と言って自称妹はまた僕に抱きついた。


「んふー、私、お兄さんに頭撫でて貰えるの憧れだったんですー。小さい頃はよく撫でて貰えたんですけど、最近は全然でして。」


自称従兄弟はご満悦という表情で言った。


「もっともっと撫でて下さいね」


自称従兄弟もうふうふ笑って抱きついた。


・・・困った。家の中に入れない。


仕方ないので、そのまま身を委ねてやる事にする。 ・




30分ぐらい経っただろうか。


まだ抱きつかれてる。


「なあ、誠に申し上げづらいのだが」


「何です?」


「なぁに?お兄ちゃん」


「僕、汗臭くないかい? 。仕事帰りだし・・・そんなに長く抱きつかれると、匂い移る・・・っていうか、もう既に移ってるか。」


そうなのだ。汗臭いのだ。


「・・・分かってますよ。それぐらい。大丈夫です。気にしないで下さい。」


自称従兄弟はふふっと微笑んだ。


「私・・・お兄ちゃんの匂い、好きだから・・・移っても全然平気だよ?」


自称妹もにこりと微笑む。


「いやいや、不味いでしょ。二人共臭くなるし」


「いいんですよ。お風呂入れば良いんですから。それとも、私と一緒に入ります?」


冗談なのか冗談じゃないのか良くわからない口調だ。「・・・遠慮しときます」


僕は丁重に断った。


申し訳なさそうな表情の二人。


そんな二人の頭を撫でてみた。

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