Eve
ようなし
no title
拝啓 親愛なる貴方へ
太陽の温かさがが大分恋しくなってきました。
お元気ですか?
前回私が手紙を書いてから、もう一年が経ちました。そちらの様子はいかがでしょうか。私たちは、相変わらずです。毎日が慌ただしく、休んでいる暇などありません。いつも、あなたの住む国はどんな所なのだろうと考えています。きっと、ここよりも寒くて、けれど、みんなの心がとても暖かい、素敵なところなのだわ!私、知っていますの。とても寒い時に飲むスープは、いつも以上に美味しいことを!きっと今頃、あなたの住む国では、スープの他に、七面鳥や山積みになったパンのバケットがテーブルの上に並んでいるのですね。
あぁ。考えただけで匂いがするわ!
けど。いいえ。貴方を恨んでなどいません。ただ少し、憧れているのです。
貴方達の住む国では、毎日何が起こっているのですか。毎日、何人の少年が銃を片手に家を出ていきますか?今朝出かけていったあの少女は、ちゃんと夕方に帰ってきますか?赤ん坊を抱く母親から乳はちゃんと出ていますか?また、その赤ん坊はちゃんと泣いていますか。道に倒れている老人につまづきはしませんでしたか?
この1年、増える出来事は喜ばしいものではなくなってきました。ご存知の通り、私の住む国は町の中心にある展望台からぐるりと見渡せるほど小さいのですが、その小さい国の小さい村や町が、争いごとをし始めました。事の始まりは私にも分からないわ。ただ、噂が立っていたのです。どこの村とこの町が争ってるらしい、と。
私の家が村から離れたところにあるを貴方は知っていますのでしょう。そのお陰で、私は争いに備えることが出来ました。沢山の食べ物と、暖かい毛布や着るものを持って必死で逃げまわったわ。でももう、食べるものが無くなってきました。日中は薄くなった毛布にくるまり、寒さと恐怖から逃れます。夜は食べ物を探しに出てゆきます。夜は、敵の攻撃が少し弱まるからです。
そして、私は今、消えかけている蝋燭のもと、この手紙を綴っています。外は真っ暗です。もう何時かしら。検討もつかないわ。でも、でもね。私、分かるの。聖なる夜の前日。いつもより少し、スープの量が多かったわ。あの幸せはきっと一生ものよ!私たちは神に感謝しました。聖なる夜の前の日に、いつもより少し多いスープの量に。
ねぇ。貴方はきっと今頃、煙突からこっそり入って、靴下の中にプレゼントを忍び込ませているのね。そして子供たちの寝顔を窺って、その天使のようなおでこにキスをして、静かに空へ上っていくのだわ!
きっとまた、この国にも鈴の音を響かせてくれるのかしら。そしたら、お腹いっぱいになるスープが欲しいわ!それと、暖かい毛布も(1枚だけでもいいの)。
…いいえ。そんなもの要らないわ。
平和が欲しい。
銃声などいらない。叫び声なんて、耐えられない。お腹がすいて、泣いている幼い子を見ていられない。
もう誰も、居なくならないで……
拝啓、愛する貴方。
どうか、この思いが届いて。
この国に、あなたの愛を届けて。
あぁ。日付が変わる。蝋燭はもう役に立たない。
今日もまた、一日が始まる。
私も、今日を愛してみたい。
また、今日が始まるのですわ。
Eve ようなし @time__zero
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