第137話一致団結

赤い陽炎のような揺らぎの中で、その巨大な姿は輝きを解き放つ。勢いよく大地から伸び行く姿は、リナアスティの高さをゆうに超えていく。

おそらくメナアスティさえも超える巨大な姿。不動明王の名を冠していると思われるその姿には、憤怒の形相が刻まれている。

しかも、怒りをたたえた見下す視線は、ガドラに向けられているだけではなかった。ゆっくりと己の標的をみつけるかのように、その場にいる者をなぞっていく。


「全員バル達の仇だ! 不動ふどう! 最初から合体武神モードで暴れろ! こいつらまとめて潰してしまえ!」

完全に人が変わったようなジュクターは、すでに狂乱の炎を纏っている。その怒りの大きさは、そのまま巨大なゴーレムに伝わっていくのだろう。


雄叫びは上がらないが、両手を天に突き出す巨大なゴーレム。その力強い姿は、まさしく武神と呼ぶにふさわしい。


不動ふどうと言う名前は出てこなかったが、おそらくあの時の話に出ていたのがこれだろう。

確か、六身合体と言っていた。

体は二体のゴーレムが左右で組み合うような形で形成されている。左右の両手両足を合わせれば、合計六体のゴーレムとなるから間違いない。


その命令を忠実にこなすために、ゆっくりとだが猛々しく、その一歩を踏み出していた。


だが、その緩やかな一歩は、大地を揺るがす。

それに満足しているのだろう、ジュクターは歓喜の奇声をまき散らしていた。


そんな中、あの男がさらに一歩前に出ていた。


「ふっ、『ふどう』だか『ぶどう』だか知らねぇが、やっと歩いてるって感じじゃねぇかよ! そんなガラクタ、この俺様一人で十分だぜ! かかってきな! このガドラ様の剣で、細切れに切り刻んでやるぜ!」

ジュクターには目もくれず、ガドラは不動ふどうを挑発している。それに応えるかのように、不動ふどうの目がさらに赤く光る。


――相変わらず、むちゃくちゃだ。

己の何倍もある相手に、そこまで豪語する男も珍しい。いや、あの男の存在感に、巨大な武神も小さく感じているのかもしれない。

もしも、普通に現れていたら、そこから目を離せなかったことだろう。でも、今は動く気配を全く見せていない。

それがせめてもの救いだった。


そして、ガドラはやっぱりガドラだった。着実に迫る武神にも、ひるむことなく己の存在を見せつけている。


「へっ、ここから先へは行かせねぇ。ここがおとこの見せ所だぜ!」

剣を構えたガドラの背中を、ルキが小突いて隣に並ぶ。


「ガドラって、ほんとバカよね。アンタがあんなデカブツに敵うわけないじゃない。おとこだったかしら? アンタのそれ。性別じゃなかったわよね? 未だに、わけわかんないわよ。でも、それを言う時のアンタ、ホント暑苦しいわよ。まっ、どうせやめろって言っても聞かないわよね?」

本当にしょうがないという感じを漂わせながら、ガドラのすぐ隣で肩をすくめたルキ。一瞬気のゆるみが感じられたが、その瞳には油断の色は浮かんでいない。


そう、その瞳は見つめている。はるか後ろで寝そべっている男の姿を。

そして、何か言おうとするガドラを遮って、反対の隣にリナアスティが並んでいた。


「ガードラー。ガドラって、バカなのー? でも、誰もいなくなっちゃったね。うふふ。残念だよねー、ガードラー」

少し前にかがんだリナアスティ。その向こう側に見えた姿を、ガドラはしっかりと目にしたことだろう。


地竜の背にまたがったフラウとダビド。そして地竜に抱えられた店長の姿を。


――店長……。よかった……。何とか持ち直したようだ。だが、ムリしてるのは分かる。フラウとダビドの顔が、それを如実に物語る。


「まあ、そういう事よ、ガドラさん。私達を守ろうなんて、百万年早いわ。それに、選ぶ権利は私達のモノよ! ねぇ、エトリス」

「お姉さま! その通りです! ガドラさん! 私達を守って良いのは、ヴェルド様だけです! ガドラさんはお呼びではありません! むしろ下がって荷物の番でもしていてください!」

ルキの隣にネトリスとエトリスが共に進む。辛辣な言葉をかけながらも、その顔は少し微笑んでいた。


――でも、エトリスはガドラに対して容赦がないな。『ことわざ』の一件で、すっかり嫌われたようだね、ガドラ。今ではお荷物扱いか……。


「まっ、そういうこと。誰もガドラに守られることなんて、期待してないわ。っていうか、危なっかしいのよ、アンタ! それに、アンタはドルシールを守るんでしょ? あと、アンタはあの子達も守らないとね!」

ゆっくりと確実に、死を運ぶ武神が進む中、ルキがまぶしい笑顔をガドラに向ける。


その笑顔に、ガドラの動きが一瞬止まる。しかし、すかさず迫る殺気に、ガドラは刹那の反応を見せていた。


「ふっ、ルキちゃんも言うようになったもんだ。だがよ! ここは戦場! 俺様の出番! 今は、俺様にどーんと、任せておけってんだ!」

一歩前に出たガドラ。

それが矜持と言わんばかりに、その黒い大剣を受け止めていた。


「でもよ。正直言って、手がたりねぇのは事実だよな! ルキちゃんの好意はありがたく受け取っておくぜ! こういう時は『いちだん、ケツ』って言うらしいしよ! よし! そのケツ、俺様が見てやるぜ! 俺様の本気の一肌脱いだ姿でよ!」

その瞬間、知能ある剣インテリジェンスソードの能力を全開にしたのだろう。


ガドラが発した竜巻の斬撃。

それがアメルナを武神の足元まで弾き飛ばしたのはいいが、得意満面のガドラの周囲には、微妙な空気が漂っていた。

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