第76話魔王教

「偽の魔王教が問題になっているわけ、それは魔王斑を持っていた子供たちが誘拐されていることだよ。それは、ドルシール達も知っていることだよ。彼女には色々と手伝ってもらったからね。そして偽の魔王教の者達は、魔王斑の消えた子供たちを集めて、何かよからぬことをしているんだ。彼らはなぜか、その存在がわかるようだ。それが謎なんだ。魔王斑の消えた子供たちは、さすがにこの『賢者の水晶球』でも追いきれない。これは勇者を見るために作られた水晶球だけど、一応魔王斑にも反応する。しかし、それが消えた後には反応しないからね。そして、おそらくそれと関係しているのが、変異体と呼ばれている者達の存在だ。偽の魔王教の者達はまことの勇者に匹敵する力を持つ、変異体と呼ばれる者を人工的に作り出したと私は考えている」

目の前の机で口元を隠すように、両肘をついたまま語っているディーナさん。顔半分が手で隠れているとはいえ、その目はまっすぐに私を見ていた。


何が言いたい?

私に何か期待しているのか?


「それって、アイツらに関係する事ですかい?」

ガドラの真剣な口調に驚かされ、それ以上は考えられなかった。ディーナさんは、黙って頷いていた。


アイツら? ガドラがよく口にする人達か?


ここに来るのも、その事を気にしてたからだろう。ドルシールのそばを離れることになっても、その安否が知りたかったと思われる存在。いままでは、あまり気にしなかったけど……。

偽の魔王教に関係してるのか……。


魔王斑が消えた後の子供たち。

誘拐。

偽の魔王教。

変異体。


関係しているけど、分からないことだらけだ……。

ただ、偽の魔王教は何らかの手段で、魔王斑が消えた子供たちを見つけて、さらっている。その事実だけは明らかだ。

でも、その手段に関しては良くわかっていない。

ただ、魔王斑の子供には、情報屋のケンさんは反応する。


まてよ?

ということは、消える前に見つけてたら?


「ディーナさん。情報屋のケンさんは、ひょっとして複数あるとか?」

今まで、確かに疑問に思ってた。でも、何となくそのままにしてた。

その答えが今、目の前に降りてきたような気がした。そして、その事は今の事と関係しているのかもしれない。


最初に情報屋のケンさんを見た時、何となく見たことがあると思ったんだ……。


「そうだね、その通りだよ。なぜ……。ああ、そう言えばそうか。君は星読みのシンと知り合いだからか。確かにこの『賢者の水晶球』は、最初に四十八個製造されたものの一つだよ。一人の偉大な賢者によってね。そしてそれが、それぞれの国に与えられたことで、王家の秘宝となっていた。でも、戦乱で多くのものが壊される中、密かに持ち出されたものもあったんだよ。この水晶球は少し妙な性能があってね。自分が壊されたときに、蓄えた情報を他の水晶球に流す仕組みがあるんだ。それにどういう意図があるのか知らないけどね。仮に、君がこの水晶球を壊したら、さっき私たちが見た映像を、他の水晶球に流す仕組みだと思ってくれたらいいよ。そして、星読みのシンも持っている。それを見たんだね」


危なかった……。

もう少しで、世界中にあれが拡散してしまう所だった……。

やはり情報ってのは大事だと、今本当の意味で理解した。

でも、これではっきりした。

偽の魔王教の奴らも、『賢者の水晶球』を持っている。


「へっ、あたぼうよ! オイラ達を壊すバカは、本当のバカしかいないぜ! でも、オイラ達はそういったバカがいることさえ、知っているんだぜ! ただ、オイラ以外が割れてしまえば、オイラが全部知っていることになるのもいいんだけどよ! オイラ達も万能じゃないからな! 自分のいる国のことはよくわかるけどよ! 他の国の勇者になると、情報の解析が難しいんだぜ! 他の国の勇者は、直に会わないと理解できない情報なんだぜ! ちなみに、この国のまことの勇者はエマ・ユミという女賢者だぜ。固有能力は【魔物制御】だぜ! ああ、そうだ。普段はローブで顔も隠してやがるからわかんねぇだろうけどよ。長い黒髪の美人だぜ! ふふん! 他の勇者も教えてやろうか? この国の勇者の事なら、名前から、性別、職業、エピソードまで、何だっておしえてやるぜ! もちろん、それ相応の謝礼はいただくがな!」

若干得意そうな雰囲気を出している気がする情報屋のケンさん。


そうか、やっぱり組合長が何でも知ってるのは、あれがあるからか……。

話しているのを見たことないけど、ひょっとして全部個性があるのだろうか?

しかも、偽の魔王教の奴らは、それをもって大陸中を移動しているということだ。


そして、組合長はあれを使って、魔王斑の子供たちを探し出していたというわけか……。

多分、タムシリン王国の水晶球は失われているのだろう。

いや、組合長が犯人という線もあるか?


そして、私の性質『嘘』は、この水晶球にも当てはまることがわかる。

今はそうしないと思っているから、情報屋のケンさんに見られたわけだ……。


「すごいね! すごいよ! さすが、情報屋の賢者のケンさん! 他に何かエマのことで知っていることない?」

いきなり、優育ひなりが情報屋のケンさんに話しかけていた。

精霊たちが一斉に情報屋のケンさんを取り囲んでいる。

優育ひなりに合わせて、口々に情報屋のケンさんをほめたたえていた。


「あたぼうよ! オイラの頭の中には、『知らない』っていう言葉は入ってないんだぜ! 仕方ねぇな! お嬢さんたち! とびっきりの情報を教えてやるぜ! エマが従えている四竜のうち、地竜グランドロックと火竜ライスロックはデザルス王国のサファリの能力【砂漠化】でやられちまったが、あと青竜パンロックと銀竜メンロックがいるんだぜ! その銀竜メンロックの子供が、この間生まれたんだぜ! これはエマも知らない情報だぜ! 何故か銀竜メンロックが言ってないみたいだな! どうだ、すごいだろ! 場所はヴェルドの頭に送ったから、後で案内してもらうといいぜ! ちょうどここからキャンロベに行く途中だから、寄ってけよ。ただ、近寄るんじゃねーぜ。遠見の魔法にしておきな! オイラと同じで、あんまり近づくと火傷するぜ!」


あっ、意外とちょろかった。


水晶球なのに、なぜか舞い上がっているのがよくわかる。

やっぱり、優育ひなり達は凄い子だと、今更ながら感心してしまった。

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