第64話あんみつ坊や

「いや、あんみつ坊やです」

せっかくボケてくれたから、乗っかっておこう。

余計な詮索されるのは、面倒だ。

ルキは知っているからいいとしても、ここにはエトリスがいる。

ガドラとイドラもこっちにやってきている。


向こうでは、全員気絶しているからいいけど、勇者であることが知れると、また厄介なことになりかねない。


「そうかい、そうかい。ならいいや。坊やのことは、これから『美少女好きのあんみつ坊や』って呼ぼうかね。なんなら、今からこのエトリスちゃんをひん剥いて、あんみつ坊やに襲われたってことにしてもいいんだけどねぇ。まあ、ルキは無理やりってことにして――」

「ちょっとまて! なんだその冤罪! いや、エトリス。しないから、そんなことしないから! ルキ、何故そんな目で見る? 君は知ってるだろ!」

二人がだんだん遠ざかっている。心なしか、その目は冷たい。


「いや、ルキからはちゃんと聞いてるよ。気絶しているルキの唇を、無理やり奪ったんだって?」

「ちょっとまてーい! 誰に聞いた? それは大いに誤解がある! あれは回復薬を飲ませただけだ!」

あれ? なんだか二人ともさらに遠くに行ってない?

いや、ルキ。

ちょっと舌出してないで、否定してくれないかな?


「でも、したんだろぉ? ルキの唇を無理やり奪ったよねぇ。同意なかったよねぇ。それって無理やりだよねぇ」

明らかに、冤罪だ。

でも、確かに、そう言われるとその通りだ。


「ひでぇ男だ。その年で、そんなことするなんて。将来ろくな男になりやせんぜ、姉さん」

「うん、ひどいね。同じ男として許せないよ。ねえ、ドルシール姉さん」

途中から聞いているガドラとイドラは、真剣に私を睨んでいる。


なんだろう……。

この敗北感……。


今まで散々つっこみ・・・・を入れる事が出来なかった相手に、これほどつっこみ・・・・を入れられるとは思ってもみなかった……。


「はい……。あの一本は私が切り落としました。切り口も焼きました。これでも勇者マリウスに鍛えてもらった冒険者です」

とりあえず、事実だけは認めておこう。


「あはは、まだ白を切るなんて、アンタの男はたいしたもんだよ、ルキ。でも、いいかげんに白状しないと、お姉さんの『かんにんぶくろのおがきれる』ってもんだよ」

今まで散々間違えてたくせに、面と向かって言う時には正しく使うなんてあんまりだ。


でも、どうする……。


なぜ、私が嘘をついているってわかるんだ? 私の性質【嘘】によって、そういう風になるんじゃなかったっけ?


でも、現実に嘘だと確信している顔が目の前にいる。


どうするべきか……。


正直に話すべきなのだろうか?

それとも、あくまでとぼけるか……。


「まあ、いいさ。そもそもその腰の物で、バレバレなんだけどね、剣士ソードマンさん。何で黙ってるのかは知らないけど、あたいの邪魔をするつもりでここにいるんなら、いくらルキの知り合いだからって容赦はしないよ! って、あれ? ルキ、アンタ。確かあれが嫌いだって言ってなかったっけ? あれのあれだから、大丈夫なわけ? でも、あれのあれも変わりないじゃないか? じゃあ、なんで?」


あれのあれって一体なんだ?


でも、ルキ……。君は一体どこまで、何を話してるんだい? 仲良くなったのはいいけど、それでも情報を漏らすのには限度ってもんがあるだろう……。


「あれ? ばれちゃってる? あはは、ごめんね。あたし、色々話ししすぎたかもしれないね」

今頃、また舌を出して謝っても遅すぎる。


でも、これで結構なことをドルシールが知っているということだ。しかも、桔梗キキョウを見ただけで……。


そうか、当たり前だ。

この国では、見慣れない刀だけど、大陸から来たドルシールにしたら、この刀を差しているのは剣士ソードマンしかいない。


「いや、ごめんルキ……。私が不用意に桔梗キキョウを持ち歩いているのが悪かった……」

もはや言い逃れはできないってことだ。


剣士ソードマンさま。やはり、あなたは勇者様なんですね。すると、あの国のまことの勇者であるジェイドという人を倒したのは、あなたというわけですね」

エトリスの口から、思いがけない名前が出てきた。


事情を知るものも、知らないものも関係なく、全員の注目を集めているにもかかわらず、エトリスはただにこやかに笑っていた。

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