第27話積み重ねていく日々
「うん、なかなかいい感じになってきたじゃないか。これならマリウスの速度にも対応できるだろう。速度を上げるのに、今の俺は役に立てないのが残念だ」
「いや、まだや。まだ三人同時が限界やんか。反応するのに、ウチいるねんで」
「たしかに、あの速度はまだまだ。汝の達するところではない。汝自身が素早くなったとはいえ、あの域にはたどりつくまでには十年はかかるだろう。いや、五十年か? ただ、闇の精霊である我を崇めれば、それは短縮してやってもよいぞ? 少なくとも我ら四人を同時に宿す事が出来なければ、早さで負けるのは確実だぞ。どうだ、崇めるか?」
炎の精霊である
「たしかに、
なんだか偉そうにしている
王都に帰還した日。あの日までは一人の精霊が限界だった。魔獣などはそれで、余裕をもって勝てるようになったけど、相手はさすがに勇者だった。
でも、今では三人の精霊を同時に宿す事が出来ている。たぶん、これで互角だろう。ただ、勝つためにはさらにその上を行く必要がある。
「でも、あまり速度を上げすぎても、衝撃を緩和するためのあたしも必要だと思いますわよ」
水の精霊である
「そんなことを言うなら、俺を使わない限り、あの防御を崩すのも難しいぞ!」
炎の精霊にふさわしく、
「まあ、今は速度重視でだから、まずはそこからだね。旅から帰ってからの一ヶ月で二人増えたんだから、もう少しで四人同時もできるよ」
土の精霊の
普段積極的に言わない分、自分も言いたいことがあるだろうに……。
「
無表情の
確かにこの一ヶ月、
他の精霊は、次は自分だと主張していたけど、
魔法に対する抵抗力を上げてくれる土精霊。
だから、
「ごめん、私が皆と一緒に戦えるように精進するよ。
私の場合、精霊たちと共に戦うには、自分自身を鍛えることが必要だった。
ああ、専用武具さえあればいいのに……。
結局、各街で尋ね歩いてみても、
そもそも、この国には、エルフの集落がないから、
しかし噂では、大陸の方には結構な数の
仕方なく、専用武具をあきらめて、使い勝手のよさそうな今の剣で納得していた時に、図書館でその文献を見つけた。
何気なく手に取った極めて古い古代語の本だったけど、その文字の形には見覚えがあった。
司書のお姉さんに無理言って翻訳してもらい、色々なことを知る事が出来た。
その文献には、そう書かれていた。
それは
詳しく尋ねてみると、かつて契約した勇者は、すぐに専用武具を手に入れていたようだった。しかも剣に関しては、その後何本も持つようになったらしい。
なんて幸運な勇者なんだ。
その時は思わずそう言ってしまったけど、実はそうではなかった。
この国は島国で、閉鎖的なうえに、エルフがいないだけの話で、
他の子たちも一様にそうだった。
いかに今は専用武具を使っているのかがうかがい知れた。
それもそうだろう。
武具に精霊を宿すのだから……。そうすれば、こんな苦労しなくてもいいのだから……。
そして、専用武具のすごいところは、宿せる精霊数も武器の性能、数に応じて飛躍的に多くする事が出来る点にあった。もう一つの価値もあるけど、たぶんそこが大きい。
もし、今ここに剣だけでもあれば、この苦労は一気に解決する。
でも、この国にそれが無い以上、私にはそれを手に入れる手段がない。
誰か持ってきてくれないだろうか……。
でも、そんな幸運があるわけない。需要がないのに、供給されることなんてない。
ならば、自分自身を強くするしかない。そして、精霊たちを宿すことのできる体になるしかないんだ。
王都に帰還した時から、今に至ることを考えると、その道を進むしか、私に選択権はないのだろう。
帰ってきた日のことを考えれば、今は確実に成長している。
***
少なくともあの日、
でも、少し速度を上げたマリウスに、やはり気絶させられた。
強制的に起こされて、治療を受けた後、ミストとの戦いになった時は、
しかし、
そしてまた、治療団の世話になった。
あの日は、治療が終わるたびに、マリウスとミストが交代で戦いを迫ってきた。
そのたびに、ボロデット老師が連れてきた治療団が、総出で私を治療する。
そして見事に回復となる。
そして、また戦いの繰り返しとなっていた。
いつ終わるかもしれない戦いの連続に、私の体は大丈夫でも、精神がボロボロになりつつあった。
だからだろう。見かねた様子のボロデット老師が、マリウスにいつ終わるのかを尋ねていた。
「ほら、死にかけた時に復活したら、強くなるって言うでしょ?」
「いや、それ漫画だから! しかも、ほぼ主人公の特権だからね!」
治療中にもかかわらず、その返事に思わずそう叫んでしまった。
「でも、実際少し強くなっていますわ。死にかけ方が足りないのではなくて?」
「いや、普通に死なないために、経験積んでるだけだから! 死にかけが足りちゃったら死ぬから!」
勘違いも甚だしい。そんなこと言うなら、あのスーパーアイテム持ってきてくれ。
「あれ、元気そうだね? まあ、勇者だから主人公みたいなもんでしょ?」
「あら、ではもう少しきつめでもいいという事ですわね!」
藪蛇だった……。二人の笑顔が恐ろしかった。
結局、全くこちらの言うことに耳を貸してくれなかった二人は、治療団全員が地面に倒れるまでやめなかった。
「うーん、仕方ない。今日はもういいや。でも、これから毎週末には欠かさず戦うからね! 冒険者になったからって、逃げても追いかけるよ! じゃあね!」
「早く上位精霊と契約を結んでほしいですわ。もちろん、冒険に出かけるときは必ず連絡をすることですわ。精霊会話でもよろしくてよ」
言いたい放題言った後、私たちを残して二人は去っていった。
ボロデット老師が他の人間を呼んでいる間、私たちは焼けたり、凍ったりした闘技場 《コロッセオ》の地面の上で、ただ黙って過ごすしかなかった。
そしてこの一ヶ月、私は何度も死線をさまよいながらも、確実に強くなっていた。
でも、精霊たちの言うように、まだマリウスの速度にはかなわない。それに、ミストの魔法にも対応できない。
冒険者となれて本当によかった。
冒険に出かけてお金も稼げて、戦い方の工夫も編み出した。
それをその週の終わりに二人にぶつける。
最初は少し嫌だったけど、今では日課になっている。いや、習慣か。
私は確実に強さを身に着けていた。そして、それが素直にうれしかった。
でも、死にかけると強くなるという伝説と共に、哀の
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