お取り寄せ
「こんなもんかな」
手紙には端的に「カリオピウムの加工に必要になりそうなので、ドラゴンの内臓や分泌液があるなら送るか、取りに行くから譲ってほしい」とだけ書いておいた。
かかるであろう金には糸目をつけないつもりである。これまでのなんやかやで結構貯まってるしなぁ。
あ、家族に相談はいるだろうか。と、思ったところでちょうどリケがリディを伴って戻ってきたので、2人に聞いてみる。
「どうかな。うちのお金だから全く相談しないのもどうかと思ったんだが」
「良いんじゃないですかねえ」
「ですよねえ」
リケがどこかのんびりした口調で答え、それにリディが同意した。
「うちに貯まっているお金の大半は親方の稼ぎですし」
普段の生活費――と言っても食事では小麦や調味料、他には燃料や普段の作業で使う素材が多少だが――は、皆で作っている普段の納品物で賄えている。
俺1人くらいなら今後困らないくらいの貯蓄は普段とは違う「特注」の仕事なんかで稼いだもので、それはほぼ俺が作ったものだ。
とはいえ、俺としては家族の共有財産として考えていたのだが……。
「いいのか? 家族で必要になるときがあるかも知れないが」
俺がそう言うと、リディがクスリと微笑んで言った。
「以前聞かせていただいたぶんからすると、うちで必要になるとしても十分な額があるように思いますよ」
「サーミャたちに聞いても同じことを言います」
リケが言葉を引き取って胸を張った。2人がそう言うなら、大丈夫か。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
俺は手紙を振ってそう言った。
「それじゃ、頼むな」
「キューイ」
脚に手紙を括り付けられたハヤテは、高々と鳴くと素早く羽ばたき、凄い速さで飛び去っていく。
アラシは度々こちらへ来ているが、ハヤテがあちらへ行くことはほぼない。運動という意味では毎日クルルやルーシー、マリベルと一緒に遊んでいるので十分だと思うが、それと空を飛ぶのとはまた違うだろうしなぁ。
ハヤテが帰ってきたときに満足そうなら、どうでも良さそうな内容であっても、手紙にしたためてカミロに送ろうかな。〝黒の森〟の話とかはカミロも喜びそうな気がするし。
振り返ると、家族全員がハヤテを見送っていた。
ディアナがハア、とドデカい溜め息をついた。
「帰ってくるとわかってても、ちょっと心配になってしまうわね」
「空では最強なんだろ? 平気だろ」
ヘレンが呆れたように言う。同じように呆れた声でアンネが続ける。
「ハヤテはドラゴンだし、より大きいドラゴンが来ない限りは大丈夫よ。そんなドラゴンがこのあたりにいるって話は〝あっち〟にいるときも聞いたことがないしね」
どちらの言い分もよく分かるのだが、ここは娘が立派に仕事を果たすことを信じて待っていたいものだ。
「手紙を届けるだけだし、そんなに経たないうちに帰ってくるさ」
「鍛冶場の扉を開けておこうかしら」
「別にそれくらいなら良いんじゃないか」
過保護だとは思うが、それはそれ。別に熱をこもらせなければいけない道理もないし、襲撃対策についても、警報装置はつけたから、むしろその音が聞こえやすくなって良いかも知れない。
俺がそう言うと、サーミャが溜め息をついて言った。
「なんだかんだ、エイゾウが一番過保護な気がするぞ、アタシは」
俺は反論しようとしたが、うんうんと頷く皆の様子を見て、ぐっとそれを飲み込むのだった。
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