竜の歩み

「クルルルルル」


 みんなで首を捻って考え込んでいると、クルルがテラスに頭を突っ込んできた。皆の様子がおかしいので、ちょっと気にしたかな。


「よしよし」


 そんなクルルの頭を撫でてやる。クルルは気持ちよさそうに目を細めた。喉を鳴らすように小さな声で鳴いている。

 その様子を見ると、この子がドラゴンの一種(血としてはかなり薄いらしいが)であることを忘れそうになる。


「待てよ、ドラゴンか」


 小声で言って、俺はおとがいに手を当てた。あの緩やかな曲線を描いた刃をドラゴンの尻尾とか爪とかに見立てれば違和感なくいけるかも知れない。

 過度なデフォルメ化やキャラクター化は避け、あくまでモチーフ的な形でなら取り入れることが出来そうな気がする。

 強いものには強いものが似合う。神様だとややその辺りが抽象的になってしまうので、いまいち合わなかったのかも知れない。

 何より神様よりもドラゴンのほうが、あの皇帝陛下が気に入りそうだ。

 そこで気になることと言えば……。


「ドラゴンが悪いものの象徴、と言うことはあるか? あと、そもそもドラゴンをモチーフに使うのは良くないとか……」


 俺は皆に聞いてみる。前の世界でのドラゴンは、悪の象徴とされることも多かったと聞く。あまり皇帝陛下が持つに相応しくないモチーフだった場合は、かなり失礼なことになってしまうだろう。

 ちょっとそういう事態は避けたい。


 また、大地や河川、山岳などの自然を象徴して、ドラゴンを倒すということはつまり「自然の一部を支配下においた」ことを意味したりするのだが、この世界の根っこにはそのものズバリ「大地の竜」がいる。

 その辺りの意味で「ドラゴンを象った持ち物」がイコールで「自然を手中に収めるぞという意思表示」になってしまい、非常に危ないものであったりすることがあるかもしれない。


 本気で危ないものは「インストール」の知識に入っていて(うっかりやらかして死んだり殺されたりしないようにだろう)、ドラゴンのモチーフについては存在しないので、作ったから死刑な! なんてことを言われることはなさそうだが、その一歩手前なんて事態は避けたいところだし。


「うーん、ドワーフの間では聞いたことがないですね」


 最初に答えてくれたのはリケだ。ドワーフは山のそばに住み、山から鉱石などの恵みを得て様々なものを作っている。

 なので仮に「大地の竜=大いなる自然の根幹」であっても、感謝はするだろうが畏れ多くて手出し一切無用とか、邪悪なるものであるとはなってないんだろうな。


「獣人でも聞いたことない」

「エルフもですねぇ」


 サーミャとリディが答えてくれた。2人とも森に住まうものだ。ドワーフと似た面があるのだろう。

 自然の真横で共存している人々としては、そういう認識のようだ。


「王国でも聞かないわね。紋章に使ってる家もあるくらいだし」

「帝国でも同様。どのお母様も気になさらないと思うわ」


 ディアナとアンネの回答はこうだった。皇帝陛下はお妃様が多数おられるようだが、どのお妃様の機嫌も損ねなさそうだな。

 王国的にも「うちとしてはあんまり良いモチーフじゃないんだけどなー」となってしまう懸念もないっぽい。


「ふむ……」


 とりあえず、ドラゴンをモチーフにした何かであることに障害はなさそうだ。いずれ「竜殺し」に使うような武器を扱わせて貰うときにも参考にできるな。


「よし、意匠の検討は多少必要だろうけど、ドラゴンでしっくりくるか明日試してみよう」


 俺がそう言うと、家族全員が今度は頷く。俺は、なにか良いことがあったのだなということを理解して一緒に喜んでいるクルルの頭をそっと撫でてやった。

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