終戦
「あんまり硬く握るなよ!」
手持ち無沙汰に観戦していた俺は、自分も雪玉を作りながら言った。ギュッと硬く、氷の塊寸前にまで固められた雪玉は普通に凶器になり得るからな。特にうちの家族の場合は。
投石、というと少し危険な子供の遊びくらいのイメージを持ってしまいがちだが、反して普通に殺傷できるだけの威力がある。勿論、石を投げる人間の能力にも左右される部分はある。
だが、能力の面において、石を殺傷能力のある武器に出来る人間がうちには多くいるからな……。氷の塊をその力でぶん投げたらどれくらい危ないかは言うまでもないだろう。
俺はまちまちに返ってくる返事に苦笑しながら、作った雪玉をフィールドの端に置いた。
それは、雪合戦を開始してすぐのことだった。ビュンと風切り音がするかと思うほどのスピードで雪玉が飛んできた。
「うぉっ」
俺は仰け反り、それを辛うじて避けた。ある程度の戦闘能力を貰っていなかったら、この時点であっさり終了していただろう。
「クソッ、やっぱ無理だったか」
小さく舌打ちしてそう言っているのはヘレンだ。目がかなり本気である。投げ返そうと足下の雪をごそっと拾い、丸める。
ギュッと握ってしまうと崩れそうなので、俺はやや弱めに握り、野球のピッチャーの要領で、しかしあまり力を入れすぎずに投げる。
俺の放った白い球は、それなりの速度でヘレンに向かって飛んでいく。先ほど俺を襲ったものと比べるとかなり遅い。予想通り、ヘレンはすんなりと避けた。
「おりゃっ!」
だが、ヘレンが避けた先にもう1つの白弾が飛んでいった。俺の影から次弾を放ったサーミャのだ。かなりの速度でヘレンへ吸い込まれるように飛んでいく。
「おおっと」
ある程度の剣達者だとしても、この二段構えをそうそう打ち破れるはずはない。2発目に放たれたサーミャの弾で仕留められるはずだ。
しかし、ヘレンはそんじょそこらの剣達者ではない。“迅雷”の二つ名は伊達でないところを見せた。
気楽な様子の声に反して、姿がかき消えるかと思うほどの速さでヘレンは雪玉を避けた。積もった雪の上、決して全力は出せないだろうと思うのだが、それでも圧倒的である。
うーん、やはり戦力だけで言うならヘレンは1人でも良かったな。
そして、あまりヘレンにだけ注目しているわけにもいかない。身体が大きく、その面では不利だが手足の長さがあるアンネもなかなかの球を放ってくる。
今はリケとディアナがアンネに牽制を放っているので、あまり俺とサーミャのところには来ないが、ヘレンのを避けてホッとしたところに潜り込んでくるような雪玉が飛んできたりする。
娘達も負けじと雪玉を放っているが、飛距離も速度も言うまでもなく、だ。その代わりと言ってはなんだが、時々雪玉が飛んでいくものの、クルルとルーシーは地を駆ける速さ、ハヤテとマリベルは空飛ぶ速さでかなり余裕を持ってかわしている。
4人とも楽しそうに走り回り、飛び回っている。これが見られただけでも提案した甲斐はあったな。
そうして、始まってから10分か、あるいは20分ほどだっただろうか、俺はヘレンの雪玉を避け、その先に来ていたアンネの雪玉も避けた。
しかし、俺が感じたのはドスとやや重めのものが背中に当たる衝撃。雪玉が命中したのだ。
はて、俺はヘレンのもアンネのもかわしたはずと思って振り返ると、そこにはニッコリと微笑むリディの姿。
そう、彼女はここまで気配を消して必殺の機会を窺っていたのである。
俺は両手を挙げて場外へと出て行きながら、「一番怒らせてはいけない相手は誰か」を考えるのだった。
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