帰宅と意図
今日は店につくなり2階の部屋に上がったのだが、裏庭に行ってみるとそこでクルルとルーシーがいつものように丁稚さんに構ってもらっていた。
「いつも済まないね」
「いえいえ。ルーシーちゃん大きくなりましたねぇ」
「そうだなぁ」
丁稚さんがルーシーの頭をなでながら言った。まだまだ子犬(子狼)と言っていいサイズではあるが、この短い期間に関わらず大きくなっている。自分で荷台に上がれるようにもなったし。
これが狼の魔物だからなのか、それとも森の狼はこう言うものなのかまではわからないが。成長があんまり早いようなら、色々と考えないといけないかもなぁ……。
丁稚さんにチップを渡したらすぐに出発だ。街中ではアンネに布を被っておいてもらう。行きと荷物の量は変わらないか、むしろ多いくらい(主に炭と土と鉄石のせいだ)なので、帰りもアンネが目立ってしまうということもないだろう。
来たときとは別だが顔見知りではある衛兵さんが街の入口に立っていたので、少し緊張しつつも会釈をしたが、特に何かを言われることもなく通り過ぎた。止める理由がないわな。
街道に出ると来たときのように気持ちのいい風が草原を渡り、神様か何かが緑の絨毯をその手でそっと撫でているようにも見える。空は太陽の光を受けて青く輝いている。つくづくアンネに見せられないのが残念だ。
途中で「少しくらいは良いのではないか」と言う話も出たのだが、万が一を考えると森に入るまでは止めたほうが良いだろうという事になった。
事がうまく運べば、帰りにでも楽しんでもらいたいものである。
「ぷはぁ~」
森に入って少ししてから、アンネに被せていた布を取り払う。大きな体躯がグッと伸びをして、より一層大きく見える。
「お疲れだったでしょう」
「いえ、思ったよりは揺れがひどくなかったので平気ですよ」
「それは良かった」
うちの荷車には少しだけ時代を先取りした技術のサスペンションを搭載してあるから、普通の荷車よりも乗り心地はいいはずである。わざわざそれをこっちから言うことはないが。
森の中も街道や草原ほどではないが、晴れた日の気持ちよさを感じることが出来る。ずっと森の中にいるとわかりにくいが、木々の匂いをゆっくり感じられるのはある種の特権かも知れない。
時折、鹿やリスなどにルーシーが反応して尻尾をパタパタと振り、俺の肩のHPが微減(最近は少し手加減を覚えたらしい)した他には何事もなく家にたどり着いた。
荷物を皆で手分けして運び入れ、全員で居間に集まり茶をすする。
「アンネさんを連れてこいと言うことは、そのまま帰す気だろうな」
「そうね」
ディアナが頷いた。まぁ、それ以外で俺と一緒にアンネを連れて行くメリットがないからな。最後の危険というわけだ。
「今の状況で何事もなく帰るのに一番いい方法は、非公式でも外交特使として扱うことだから。そうすれば護衛もつけられる」
「来るときに隠密だったのは問題にならないか?」
「そこはなんとでも理由はつけられるわよ。周辺諸国を無用に刺激しないためだったとかね。どのみち帰りも派手にはできないんだから」
「じゃ、侯爵の家で会談の予定があったことにする?」
「もしかすると”白銀宮”まで行かなきゃならないかもだけど」
「第七とはいえ、私は皇女ですからねぇ」
のほほんとした声で、ディアナの言葉をアンネが引き取った。白銀宮は王族が諸外国の要人と会談するための屋敷らしい。ちなみに別に白銀で装飾されているとか言ったことはないそうだ。
名前だけでも立派にしておくことで、来た人間に扱いが良いことを知らしめる手法の1つだとかなんとか。俺にはそういう気の回しかたは無理だな……。
「大臣で侯爵のところならそんなに格落ちってわけでもないけど、体面を考えれば王族が対応するのが良いでしょうね」
あの2人のことだ。その辺りは考慮済みだろうな。いずれ4日後には終わるのだ。そこまでは誠心誠意、槍づくりとアンネの対応に腐心するとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます