アポイタカラ刀火造り

 1日かけて、アポイタカラから不純物が取り除かれた細長い板が出来た。日本刀の行程で言えば素延べまでが終わったことになる。

 ミスリルよりも加工の難易度は高いはずで実際難しくはあるのだが、想定していたよりはスムーズに作業が進んだ。

 チート頼みとは言っても俺の腕前も上がっているのではなかろうか、と言う予想はあったが、その通りになっていると少し嬉しいものがあるな。

 それまでちょくちょく新しい武器を作ってきていたこと(最近はご無沙汰だが)、ミスリルとアポイタカラという2つの特殊な素材を扱ったことが影響していそうだ。

 いくらチートが扱えると言っても、その通りに身体が動くかは少し別、みたいな感覚だ。


 これからの工程は基本的には以前に魔族のニルダに刀を打ってやったときと変わらない。

 ”基本的には”というのは、いくつかの工程や作業を飛ばすからだ。

 例えば、もうすでに皮鉄かわがね心鉄しんがねを造って組み合わせる工程は飛ばしている。

 鋼と違って総アポイタカラ製の場合はそうする必要がまったくない(ニルダのときも実際の意味はなかったけれども)ので、やらなかったのだ。

 同じ理由で焼入れもしない。となると、反りは焼入れの時の具合ではなく、火造りが終わった段階で決まっていることになる。

 それを刀と言っていいのかは議論の余地があるかも知れないが、「折れず、曲がらず」を満たしているし、今回はそれで刀と呼ぶことにしている。


 この日もルーシーは夕飯を一緒に俺たちと食べて、寝るときはクルルのところへ行った。

 もしかしたら、本人的には小さいなりに番犬代わりをしようとしてくれているのかも知れない。

 問題はこの家に近づけるものは人も動物もそうそういないということだが。

 まぁ、番犬よりも単にクルルお姉ちゃんと一緒がいいってだけの可能性が高いな。多分まだ子供なのでその辺は無理しないで欲しいものである。


 翌朝、クルルとルーシーと水を汲みに行く。ルーシーは俺の少し先を歩いている。クルルの近くには寄らないので俺もクルルも歩きにくいということはない。

 気を使ってそうしているようにも伺える。昨日の今日でここまで学習しているとしたら、ルーシーは相当頭がいいことになるな。

 今日はルーシーは湖に飛び込まなかった。なので、固く絞ったタオルでクルルのように軽く体を拭いてやるだけにしておく。


 戻ってきて朝の準備を済ませたら、今日もクルルとルーシーは外、俺達は鍛冶仕事だ。

 俺は刀の火造り、リケたちは剣を作っていくことになっている。アポイタカラの加工自体は昨日散々見せたからなぁ。

 今日も見せたほうが良いのかはかなり迷ったし、見せるに越したことはないとは思うのだが、本人も


「これ以上はちゃんと自分で出来るようになったほうがいいと思います」


 とのことなので、俺が1人刀に取り掛かることになったのだ。


 前のときと同じように細長い、断面が長方形の板の状態からアポイタカラを熱し叩いて、断面を五角形にしていく。

 昨日の時点で魔力は入れきったと思っていたのだが、五角形にしていく段階でドンドン入っていくのがわかる。

 つまりはその分ドンドン叩きづらくなっていくということだ。

 少し緩みかけていた意識を引き締めて、俺はアポイタカラに鎚を振り下ろした。


 結局この日は切っ先や反りなどを造るところまでは進めなかった。薄い断面が五角形のアポイタカラの板、までだ。


「こいつは厄介だな……」


 ヘレンの時は板までで良かったからまだマシだったのか、それとも他の理由なのか、この先、なかごや切っ先を作るにも苦労しそうである。

 リケたちはいつもより少し速いペースで剣を作っていた。


 リケやサーミャ、ディアナにリディ、そしてヘレンがああやって手伝ってくれているからこそ、俺がこうやって好きに物を作ることが出来ている。

 俺としては稼いだ金も共有物だと思っているが、生活用品以外では彼女たちが何かが欲しいと言うことはない。

 今のところそれに甘えてしまっているのが実情だ。


 ここらでなにか一つ恩返しでもするか。後片付けをしながら、俺はぐるぐると思考を巡らせるのだった。


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