きみのなまえ

 帰りは家族全員の警戒もあってか、特に危険なものに出くわすことなく家まで辿り着くことが出来た。

 ディアナが俺に促されて子狼をおろすと、興味深そうに辺りを駆け回る。


「見えないところには行くなよ」


 まるでネズミ花火のようにウロチョロと走り回る子狼に俺が声をかけると、ピタッと止まってこっちを振り返り


「ワン!」


 と返事をしたあと、再び走り始めた。お利口さんだ。

 クルルから荷物を外すと、クルルが子狼の方へ歩き始めた。あの子の面倒を見ようと言うことだろうか。

 うちで言えばお姉ちゃんだもんな。うちに来た順番で言えば間にヘレンが挟まってなくもないが、年齢上はおそらくはヘレンの方が上だ。

 クルルとサーミャで言うと、ギリギリでサーミャだろうな。彼女は獣人年齢で5歳だ。クルルは多分それよりは幼いような気がする。

 竜の年齢なんて分からないので、ただの勘だが。もしかすると180歳とかの可能性もある……のか?

 子狼が一番年下なのは確実だし、それよりは間違いなく上なのだからクルルお姉ちゃんでいいだろう。


「じゃあ頼んだぞ、クルルお姉ちゃん」


 そう声をかけると、クルルは「クー」と一声鳴いて、子狼が走り回っている辺りへゆっくりと向かっていく。

 ディアナが一緒にふらふらと向かっていきそうだったが、咳払いをして食い止めた。良かった、まだ理性が残っていたか。


 クルルから下ろした荷物を倉庫に運び込んだ。例のキノコと薬草を乾燥させるために入れてある。

 ついでに干しただけの肉をいくらか切っておいた。あの子狼の分である。

 結局食わなかった弁当はみんなで話して、庭で食うことにした。

 家まで戻ってきたので、茶は少し温め直して、その間に干し肉も茹でて柔らかくしておく。狼が何ヶ月で固いフードでも大丈夫なのかは知らないが、恐らくはまだ控えた方が良い年齢だと思う。

 なので柔らかい肉を用意するというわけだ。今後は獲物を獲ったときに生肉を多めに残しておかなきゃな。


 庭にレジャーシート代わりの布を敷いて、その上に弁当やお茶、子狼のぶんの肉を準備する。

 匂いを嗅ぎつけたのか、あるいは準備する様子から察したのか、少し離れたところでクルルと遊んでいた子狼がこちらへ向かってきた。呼ぶ手間が省けて助かる。

 めいめいにシートの上に座ると、子狼はディアナの隣にお座りした。そこに味付けも何もしていない、茹でて柔らかくした干し肉を置いておくと、早速食べ始めた。

 まぁ、待てを覚えさせるのもまだ早いだろうし、とりあえずは何も言わずにおく。

 我々人間組はいただきますをし、クルルはシートのすぐ脇に寝そべった。彼女はあまり食わないからな。


「さて、この子の名前を考えないとな」


 ハグハグと肉をがっつく子狼を見ながら俺は言った。


「エイゾウは良い案ないの?」


 ディアナが聞いてくる。俺はおずおずと口を開いた。


「いや、俺は……」

「エイゾウは名付けのセンスが全然ないんだよ」


 サーミャがあっさりとネタばらしをした。俺は両手で顔を覆う。


「親方が……」

「そうなんですね……」


 リケとリディが優しい声音で話しかけてくるのが聞こえる。俺はますます縮こまった。


「まぁ、そんなわけでアタシたちで決めるのが良さそうだ」


 サーミャがそう言って、話を前に進める。俺は顔から手を離した。


「この子は雄雌どっちなのかしら?」


 そう言いながら、ディアナは早くも肉を食べ終わった子狼を抱き上げて、股間の辺りを確認する。横からはサーミャが覗き込んでいる。


な」

「女の子ね」


 サーミャが確認して、ディアナが後を引き取る。また女の子が増えたのか。そろそろ、俺以外の男が増えて欲しいところなんだが……。

 一応、俺も頭をひねる。下手の考え休むに似たりではあるが。


「ルーシー」


 みんながうんうん唸って名前を考えていると、ボソリとリディがつぶやいた。

 なるほど、ルーシーね。


「可愛らしくて良いんじゃないか?」


 俺は素直な感想を口にする。サーミャやディアナ、リケにヘレンも異論はないようだ。

 ディアナは子狼を下ろすと言った。


「じゃあ、あなたの名前はルーシーね」

「ワン!」


 こうして、子狼改め、ルーシーがうちの家族に加わった。

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