帰り道

 大量生産分の資材も必要になったので、その分は余分に持って帰ることになった。今ごろ番頭さんが指揮して荷車に積み込んでいるはずだ。

 俺たちとカミロは残って他の話をする。

「そう言えば、手紙は届けてくれたのか?」

「ああ、届けておいたよ。あれ以上続くと流通に影響が出かねないところだったし、巡回させる衛兵の経費も馬鹿にならないしで、伯爵にとっても都合は良かったみたいだ。追い払ったことにしておくし、特に見返りは求めない、とよ。」

「そりゃありがたい。」

 この怪しい賊が出たにも関わらず、特に大きな被害が出ずに領地を無事に治めているという加点も、今回マリウスを担ぎ出すわけにいかなかった理由の一つなんだろうな。

 にしてもそういうことも気にしないといけない、ってのが貴族の世界は伏魔殿だなぁと実感するところだ。うっかり貴族になんかに転生させて貰ってたら、そんなやり取りをしなければいけなかったかと思うと、想像だけでも十分胸焼けがする。


 サスペンションの開発は試作品を都と街の往復便に搭載して試験しているところだそうだ。仕組みそのものはそんなに難しいものではないし、量産まではそう遠くはないだろう。ショックアブソーバの存在は教えてないので、もしカミロが独自に開発したら教えてもらうか、売ってもらうことにしよう。

 他にはほとんど雑談のようなものだった。どこそこの麦の生育が少し悪いようだとか、この辺りの野盗が少し減ってるだとかだ。大事っちゃ大事だが、すぐに俺の生活に大きく影響しそうな話ではない。


 そうこうしていると、番頭さんが銀貨の入った袋を持って俺達を呼びに来る。さて、帰るか。

 商談室を出て、荷物満載の荷車にクルルを繋ぐ。俺はクルルの首を撫でながら言った。

「今日は一段と重いが、頑張ってくれよ。」

「クルルルル。」

 走竜の性質なのか、はたまたクルルの個性なのか。クルルは重いと聞いてなお一層張り切った様子で一声鳴く。

 動き出しこそゆっくりだったが、あとはいつも通りの速度で動き出す。まだ街中なので大した速さではない。今の所大丈夫そうだが、問題は街道に出てからだな。


 入り口の衛兵さんに会釈して街を出る。リケが手綱を操って意図を汲み取ったクルルは速度を上げた。やがていつもと同じ速度になる。まだ大丈夫そうだが、実際に操っているリケに確認をする。

「どうだ?」

「クルルちゃん、平気そうですよ。」

「いざとなったら俺達は降りて歩くから、クルルが疲れてたりしたら言ってくれよ。」

「わかりました。」

 一段と重い、とは言っても今までが結構余裕だったから、上限がどこまでなのか分からない。ある程度の家財道具を積んでも大丈夫なら、いざと言うときにも安心なんだが、試す気にはならないな。ママディアナが怖いし、なにより俺が乗り気になれない。

 そんな時には道具はともかく、金を持ってあとは人だけ乗せたら十分だろう。サーミャとリディは少し扱いを考える必要があるだろうが、それで全員郷里に戻せばなんとかなる……と言うのは甘いだろうか。


 周囲を警戒する。サーミャとディアナの話ではもうすぐ雨期(のようなもの)が始まるそうだが、草花もその恩恵にあずかろうとしているのか、青々とした草原がその背を伸ばしている。きっとそれにつれてそれぞれの根が広がっているのだろう。

 まだ人をすべて覆い隠して見えなくなるほどの高さではないので、荷車に乗っている俺たちが警戒という観点から言えばかなり有利だが、雨期が終わって草原が緑の大海になった頃、人の身長ほどの草花が増えると若干厄介ではある。目が届きにくくなるし、弓矢もその威力を減らすことだろう。

 ある程度重い矢も作っておいたほうが良いだろうか、そんな事を考えている間に、森の入口に差し掛かった。


「まだ大丈夫か?」

 俺はリケに聞いたのだが、

「クルー!」

 クルルがその上機嫌さを全く隠すことなく大きく一声鳴いた。その元気さを少し羨みながら俺は言った。

「そうか。じゃあ頼んだぞ。」

「クルルル。」

 森なので速度を落としながらも、クルルはしっかりとした足取りで進んでいく。


「熊は平気かね。」

「クルルが怯えてないし、アタシの鼻にもかかってないよ。」

 どこからどんな奴が出てくるか分からない街道よりも、気をつける相手と言ったら精々が熊か虎くらいである森のほうが気は楽だ。

 こうしてサーミャと言う森のベテランもいるし。逆にいざ向かってこられると危険なのは熊や虎のほうなのだが、そう言うことも滅多にない。


 果たして、鳥の鳴き声を聞きながら、ガラゴロと荷車は無事に家に着いたのだった。

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