作る覚悟
魔族と別れ、家に着いた。ゴタゴタは起きたものの、クルルのおかげで人力で牽いていた時と帰宅時間はさほど変わりない。クルルの装具を外したり、街に行った埃を落としたりした後、通常はそれぞれ好きなことをする時間に、俺達は居間に集まった。
「奴は明日来ると思うか?」
「来ると思いますよ。」
魔族に対してどう対応すべきかの相談だ。俺の第一声にはリディが答えた。
「魔族もエルフと同じく魔力の扱いには長けています。なので、この家の”人除け”も恐らくは回避するかと。」
「森を越えられない可能性は……なさそうだったな。」
俺がのんびり見ていられたのは、何かあったら即座に切り捨てられることがチートで分かったからに過ぎない。実力的にはその程度とはいっても、この森をうちまで来られないほどではなかった。
「あとは……魔族に武器を作ってやっても問題ないのかだな。」
インストールの知識では600年も前に大きな戦争があったとはいうものの、近年では小競り合いくらいしか起きていないという。それなら王国から見た帝国も変わりない。
であれば、北方からやって来て勝手に住み着いた鍛冶屋である俺からすれば、帝国に武器が流れるのも、魔族に流れるのも変わりはないのだが、果たして実際にそうなのかどうかだ。
「アタシは別に。初めて見てビックリしてる、ってくらいだ。」
「私もです。」
サーミャとリケは特に気にしないようだ。魔族と言われてもなぁ、てとこか。
「兄さんが匿ったり、利益を供与したりすれば間者だのと言われかねないけど、エイゾウはただの鍛冶屋なんでしょ?なら別に気にする必要はないんじゃない?」
そう答えたのはディアナである。敵国の人間を厚遇していたら色々勘ぐられるのはそうだろうなぁ。
「仮にだが、魔族の国と戦になったら、君の兄さんを傷つけるのが俺の特注モデルの武器と言うことになるかも知れないが、いいのか?」
「それこそ今更でしょ。ヘレンがあなたの武器を持ってる時点で、あらゆる戦地でその可能性はもうあるのよ。」
「それは……そうだな。」
傭兵であるヘレンが常に王国側として戦争に参加する保証はどこにもないのだ。帝国側として参戦して、そこにマリウスが派遣されるといったことがあり得ない話かと言えばそうではない。
ディアナにはもうその覚悟があったのか。俺は今言われるまで意識していなかった。自分が作るのが何なのかを悩むことはもうしていないが、常に頭に置いておくことは必要だな……。
「感情として複雑であることは否めません。彼らは澱んだ魔力を身につけて生まれます。私達エルフとは1番相容れない存在でしょう。ですが、大戦からは600年経ってますし、安定して供給するという話ならともかく、1つ2つ武器を作ってやったところで気にするものもそんなにはいないかと。」
最後にリディが答える。そうか、綺麗な魔力で生きるエルフと、澱んだ魔力の魔族では相性が悪いのか。澱んだ魔力からは魔物が生まれると言うし、言われてみれば相性が悪いのも当然という気はする。
総じて「気にならなくはないけど、別にいいんじゃない?」と言ったところか。まぁ、どこにも属さない勢力がどこに何を提供しようと関係ないっちゃ関係ないか。
王国の伯爵家とは仲良くしているが、仲良くしている以上のことはない。
「あとは賊である事実をどうするかだな。」
「賊を匿うのも普通は罪になるわね。」
「だよな。」
正直、今日見逃したのもそこそこヤバい行為なのだろうとは思う。しかしだ。
「実質の被害は一切無いってんじゃなぁ。」
「とは言っても、警戒に人を割いたりはしてますからね。エスカレートしない保証も無かったですし。」
リケが言う。そうなんだよなぁ。
「これで俺が武器を作って本国に帰ってくれたら賊としては出なくなるし、大丈夫な気もしなくはないんだが、楽観的過ぎるだろうかね。」
「賊がどこかよそへ襲撃場所を移したと考えるとは思うわね。」
俺の疑問にはディアナが答える。そうだよな。でもなぁ、それまで無為に巡回やらに人を割かせるのは結果として街道の治安が良くなるとは言え、事実を知っていると心苦しいな。
「仕方ない、カミロとマリウスの力を借りるか。」
早速伯爵家に借りを作ることになってしまった、お互い持ちつ持たれつの関係ではあるから良しとしよう……。
「どうするの?」
「次にカミロの店に卸しに行ったときに、まだ警戒が解かれていなかったら、事実を
「兄さんとは言え、あまりエイゾウには借りを作ってほしくはないけど、仕方ないわね……。」
「そうだな。」
借りと言ってもそんなに大きいものではないと思うし、これくらいの借りならいくらでも返す準備はある。見知らぬ魔族のために身を切るのも随分とお人好しだと自分でも思うが、これが俺のやり方だ。
しばらく話し合ったが、「来たら作る」「特に邪険に扱ったりはしない」「武器を入手したら本国に帰るよう約束させる」で決着した。
まだ若干自分の友人達と明確に敵になる人物に武器を作ってやることについてはためらいがあるが、ここが俺の鍛冶屋としての覚悟の決めどころなんだろう。結局は俺が作るかどうかでしかない。
あまり魔族について詳しくない3人が、色々リディに質問するのを見ながら、夕食の準備をするべく俺は席を立った。
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