ねんがんの

ロングソードをてにいれたぞ!

殺してでもうばいとる

な なにをする きさまらー!


 と言うこともなく、とうとう一本目のロングソードを作成した。

 この茶番を一人でやってるのをサーミャに見られて、

「なにしてんだ、エイゾウ……」

 と呆れられた以外の被害はない。


 ロングソードは、うちの矢じりの製法に近い方法で作成した。木型(雄型)を作り、粘土で木型を覆って乾いたら、半分に割って雌型にする。木型は何回か使えるが、やがてって来るので、そうなったら作り直しだ。

 雌型を砂の入った樽の中に埋めて、炉で溶かした鉄を型に流しんで、冷めたら取り出し、”バリ”の部分を取ったら、加熱して細かいところをちょっと形を直して、最後に焼入れして軽く研いで本体は完成。あとは柄に革を巻いたり、鞘を作ったりする。

 基本的には”一般モデル”の出来にしてあるが、何本か製作して、1本だけ”高級モデル”だ。この高級モデルの柄頭には「太った猫の座り姿」の彫刻を施すことにした。前の世界のSNSで見た、お気に入りのかわいちゃんがモチーフだ。

 鞘やこういった彫刻は本来は専門の職人が担当するが、そこは鍛冶屋で作れる製品に対するチート持ちの俺である。インストールされた経験がまだ馴染んでないのでパーフェクトとは言い難いが、見られる出来の物ができた。

 もちろん合間に矢じりを作ることも忘れない。


 結局、ナイフの新規在庫とロングソードの製作で5日程かかった。そろそろか。


「エイゾウ」

 ちょうどロングソードの彫刻を終えた頃、サーミャが

「なんだ?」

「そろそろ狩りとかに戻ろうと思う。」

「そうか。じゃあ矢じりを取り付けてやるから、シャフトを作業場の方にもってこい。」

「うん。」


 俺は先に作業場へ行って、このところ合間合間に作った矢じりとハンマーを用意する。そこへサーミャが細い棒を何本も持ってきた。

 その棒を矢じりに開けてある穴に突っ込んだら、ハンマーで慎重に叩いてカシメていく。ここで歪めて取り付けたりしたら、当然ながら精度には多大な影響が出るので、持てる力の全てで作業した。

 我が事ながら、さすがチート持ち、ほぼ完璧に取り付けられている。多少の狂いはあるかも知れないが、そんじょそこらの職人では出せない精度にはなっている……はずだ、多分。


 そうやって10本も作業した頃、サーミャが口を開いた。

「あのさ」

「うん?」

 俺は作業しながら返事をする。


「前にここに住まないかって言ってただろ?」

「おう。言ったぞ。」

「あれ、まだ有効だよな?」

「もちろん。無効だと言った覚えはないからな。」

「アタシ、エイゾウに助けてもらって、よかったと思ってる。ここに来て、まだほとんどなんにも出来てないけど、手伝いは楽しいし、飯のときにエイゾウが話してくれることは面白かったし、エイゾウがなんか作ってるところを見るのは好きだ。だから……」

 そこでサーミャの言葉が止まる。獣人の年齢は、人間の俺には分かりにくいが、声や仕草からして、俺よりはだいぶ若いはずだ。そんな年齢の子が、オッさんと一緒に暮らす、と言うのは、例えが俺にないのが確実だとしても、勇気がいるだろう。俺は作業を続けながら、サーミャの言葉の続きを待つ。


「だから、一緒に住んでもいい……?」

「そりゃあ、俺が住もうって言ったんだから、お前さえ良ければいいに決まってるだろ?」

 それを聞いて、俺の背中をバシンと叩きながら、サーミャが言う。

「やった!ありがとな!エイゾウ!」

「いってーな。」

「いいじゃん!アタシが嬉しいんだから!」

 そう言って笑うサーミャの顔は、短い間だが一緒に住んできた中で、一番輝いていた。


「ときにサーミャよ。」

「ん?なんだ?」

「お前いくつなんだ?」

「いくつって見りゃ……ああそうか、人間には分かりにくいんだったか。」

「若いんだろうなということくらいは分かるけどな。」

「5歳だよ。」

「……はぁ!?5歳!?」

 俺は驚いて声を上げた。若いとは思っていたが、5歳というのはちょっと想像を超えすぎている。獣人のお子さんは、こんなにしっかりなさっているのだろうか。俺が5歳の頃は、多分なんかこうもっと子供だった。

「そんな驚くなよ。獣人と人間じゃ、歳のとり方が違うらしいぞ。」

 ああ、なるほどな。前の世界でも(多分こっちでもだろうが)、犬や猫と人間では歳のとり方が大きく違う。それと似たようなことなのだろう。

「じゃあ、人間で言うといくつくらいなんだ?」

「えーと、25歳って言ってたかな。でもここからはあんまり外見は変わんなくて、人間が80年生きるとしたら、アタシらは50年くらいって、前に聞いたことがある。」

「なるほどなぁ……」

 寿命の差はあるのか。それでも普通の犬や猫に比べたらかなり長い。倍はある。


「エイゾウは?」

「ん?」

「エイゾウはいくつなんだよ?」

「ああ、俺か。俺は30歳だ。」

 ”中身”は40越えてるけどな。前に湖で見たのは確かに30歳頃の俺だったから、30歳で通るはずだ。

「30歳かぁ。」

「どうした?」

「いや、なんか、アタシも5歳だけど、その中で会ってきた人間の歳を考えたら、もっとオッさんなのかなって。」

 獣人だからなのか、鋭いなこいつ。

「安心しろ、人間でも獣人ほどじゃないけど、30歳はもうオッさんに片足突っ込んでる。」

 俺はそう言ってごまかすことにした。


「さて、喋ってる間にできたぞ。」

「おっ……おおーー!いいじゃん!!やっぱエイゾウのはいいな!」

 サーミャが取り付けられた矢じりを見て興奮している。

 うら若き乙女が矢じりではしゃぐ、と言うのは若干異様にも思えるが、まぁ、自分の仕事で喜んでもらえるのは素直に嬉しい。

「ありがとよ。」

 そう言っておいた。

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