第9話
風態からは全く見当もつかなかった。彼はひ弱な一般人ではなさそうだ。
ユニールは島にこもって、しかも触れ合う人物はしばらく爺だけだった。故に社会経験が著しく欠けている。獣に対する察知能力、隠密能力は勿論ある。しかし対人となると話は別なのである。
「ククリールさん、あんたもしかして強い?」
「まあ、そこそこね。昔傭兵していた時期があってね。途中でやりたいことと違うって言って飛び出して今こうして商人やってるのさ。ただのおじさんだよ。」
「なるほどなぁ。おっちゃんもやりたいことやってんだな。」
「ん?ユニールくんもやりたいことできてるのかい?」
「まあ、まだ道の途中なんだけどな。トレジャーハンターになりたいんだ。」
「ほう、で、ダブリンに登録しに行くその道すがらあげキノコとアゲアゲキノコを間違えて食べて笑死しそうになってたってところか。ハハハハハ。」
確かにそうなのだが、ちょっと反撃したい。そう思っていると木々がざわざわする音を耳にする。
「ククリールさん、近づいてくるの聞こえます?」
「ん?なんのことかい?」
とぼけているのか、はたまた本当にわからないのか。この人は傭兵なだけであって斥候役の仕事はできないのかもしれない。
「300メートル先に盗賊3人組が二ついますね。」
「へえ、察知能力があるんだね。こりゃ便利だ。そいつらは護衛のユニールくんに任せるよ。捕獲して連れてきてもらえるかな?」
「いいですよ。助けてもらったお礼の仕事ですからね。」
そう言ってユニールは飛び出して行く。尋常じゃないスピードを出しているため、土煙が上がり木の葉が舞う。
強化を自らの体に施したユニールは三歩で盗賊の元へたどり着く。驚いた盗賊3人は仰け反る。これをユニールは素早い手つきで三人とも木にまとめて結びつけてしまう。少し離れたところからこの様子を見ていたもう一グループの盗賊たちは降参するかを一瞬考えた。しかしそれではろくなことにならない。せめて一矢報いたいと弓を一斉に放つ。狙いは上々、当たると思ったがユニールは腕をふるったかと思ったら3本の矢を片手に収めている。ああ、これは立ち向える相手ではないと盗賊たちは降参。ロープで結ばれて街道に蹴り出された。
「どうです?こんなもんよ。」
「早いね、ユニールくん君は優秀な護衛になるよ。」
「こいつらどうするんです?」
ユニールはククリールに聞いた。ククリールは盗賊たちを細かく観察している。
「このマーク見てみろ、こいつら惨殺レプラコーンのメンバーだな。ダブリン付近で活動していると噂の盗賊団だ。」
「こいつらにねぐらの場所吐かせて壊滅させたらどうですかね。」
「商人の間でもかなり厄介な盗賊って話だからな。各所から報酬もらえるんじゃないか?それなりに名が売れてるからお宝も蓄えているだろうし儲けになると思うぞ。」
それはアリだな。よし盗賊を狩るぞ、対人戦だな。爺より強い奴はいるのか気になるしな。
「おい雑魚盗賊、お前らのねぐらはどこだ。さっさと吐かないと腕をちぎるぞ。」
「い、言うもんかよ!親方に殺されちまうよ!」
「まずは肩外しまーす。」
ゴキッ
「イダダァダ!話す、話すから!こっから西に二時間歩いたところの洞窟だよう!離してくれよう!」
「うーん、嘘だな。はい、股関節外しまーす。」
ゴキッ
「ウギャア!わかったすまなかった!本当の場所いうから!西に行った洞窟からまた三時間北歩いたとこにあるよ!」
「本当か?腕折っても、はたまた殺したっていいんだぞ?ま、連れて行ってなかったら殺せばいいか。ククリールさん、ちょっと行ってきます。そうですね、五時間待っててくれれば戻ってくるんで待てます?」
「うーん、日にち的に余裕はあるけれどもね…。先進んで野営の準備しているからそこで落ち合おう。宝は全部持って帰ってくるんだよ。」
「わかった。」
盗賊の一人を小脇に抱えて走り出す。いったいどんなもの溜め込んでいるのだろうか。もしかして鍵とかあったりすんのかな?ワクワクが止まらない。
豪速で走り抜けているので盗賊は恐怖と衝撃で何もものをいうことができない。首をがくがく震わせながらただただ運ばれている。
「お、こいつがお前が言っていた洞窟か?」
盗賊は脳を揺らされていたためまともではなくなってしまった。ろくに口がきけないので戻るように気付けで背中にバチンと紅葉を食らわせる。爺との修行中に何度も食らった技だ。盗賊は気がつき、立ち上がろうとすると頬を膨らませたかと思うと地面に真っ青になった顔を向け、吐瀉する。その様子は修行中の自分を彷彿させたのでちょっとかわいそうに思い、背中をさすってあげる。すると盗賊は落ち着いたのかようやく話し始めた。
「ああ、ここが俺たちの中間拠点さ。見張りと襲撃を兼ねてここでは六人二組が暮らしてるんだ。だからここから北に行ったところに中心拠点があるぞ。ここまで行ったんだから助けてくれるんだよな。」
「まあ、俺はとりあえず殺す気ないし、頭領に殺させないように努力するよ。ま、頭領もとっ捕まえちまうんだけどね。街まで連れてってさばいてもらうさ。裁判ってやつが大都市にはあるんだろう?」
盗賊は複雑な顔をした後考えに考えた末それが一番いいのかもしれないと結論付けたのか安堵のため息を放った。そしてまた盗賊を小脇に抱えて走り出す。かわいそうだと言ってもおんぶしたら首絞められそうだし抱っこは気持ち悪いからこれしか選択肢がないのだ。およそ20分ほどして盗賊の拠点が視界に入った。
「おお、あれかい拠点は。」
「そうです。あれが拠点です。頭領は結構強いんで気をつけてくださいね?というかやられちまってください。」
「トレジャーハンターにならずにそこらの商人から盗むちゃっちい盗賊の頭領なんかにやられないね。」
掘建小屋を改築と増築を重ねたような外見のバラックの入り口には見張りが立っている。兵士ならともかく相手は盗賊。見張りをまともにしているわけがなかった。雑談していて全く周りを察知していない見張りに一瞬で近づき顎に一撃、そしてもう一撃。仲間に異常事態を伝えられないようにする。見張りがいなくなったので自らの身に強化を重ね正面から突入する。
「声もかけずに入るなぞ何者だ!見張りはどうした!」
「盗賊が偉ぶってるんじゃないよ全く。見張りなら顎外してくだいといたから喋れないと思うよ。それはどうでもいいからあんたが頭領なの?それで溜め込んだ宝はどこ?」
「そう、俺が頭領だ。そして許可のない侵入者は全て殺すって決まってるんだ。だからあんたに宝の場所を教える義務などない。野郎ども、あいつをぶち殺して吊るしとけ!」
「「「「アイッサー!」」」」
四人の盗賊がショートソードを構えてこちらに来る。
剣が相手か。これは爺で経験したから大丈夫だな。太刀筋が手に取るようにわかる。どこに避けるべきか視線と力の向き、切り返しの癖からすぐ分かってしまう。同時に三方向から責められているけど鈍な剣を持ったボンクラ剣術じゃあまず当たらない。全て回避して懐に入り込み全員顎に一発ずつ。こいつらは別に捕まえなくてもいいだろう頭領さえ持ってけばいいのだから。そう思ったからか見張りの時よりも余計に力を込めて打ちこむ。鈍い音が耳に響き盗賊の下っ端たちはばたりばたりと倒れていった。
「おーう怖っ。こうはなりたくないねえ。こうなりたくなかったら素直に宝のありかを求めなくてはならないよな。どうするのかなあ。」
盗賊の頭領はプルプル震えている。怒っているのか?何を今更。奪ってきた人の方が怒ってるよ。
「このクソガキ!そのうざったらしい銀髪をぶち抜いてお前の憎ったらしい顔から肥溜めにぶち込んでやる!」
顔を真っ赤にした盗賊一家の頭領がナイフを構えて飛びかかる。二の舞という言葉を彼は知らないのだろうか。ユニールはタイミングを合わせ綺麗に回し蹴りを側頭部に叩き込んだ。先ほどの鈍い音とは打って変わってバチンという乾いた音がなる。きっとユニールは手を抜いたのだろう、意識を保たせたまま再起不能に落とし込む。
「飛びかからなきゃこんなことにならなかったのにな。別に教えてもらわなくても自分で探せばいいか。」
盗賊の頭領を縄でグルグルに縛る。そしてユニールは木造の拠点の物色を始めた。
奥の部屋には金銀貨幣が貯められていた。
「こんなくだらないのが欲しいわけじゃないんだ、何というか鍵とかないのか?」
「ほ、宝具なんかうちにあるわけないだろ!あ、ある宝はそれだけだよ!」
「嘘だな。なあ、嘘ついたらどうなるかぐらいわかるだろう?腕を引っ張ってぶちぎっても首を捻り切ってもいいんだぞ?」
「あ、ああ、すまなかった。う、裏手にあるんだそう、そこのドアから出て建物の裏のとこに埋めてるんだ。だからさっさとそっちに行ってくれよ。」
「じゃあ何でここの床下を凝視しているんだ?」
「うっ。」
「ここにあるんだな。よいしょ。」
ユニールは床板を踏み割る。手製の物置のようなものが現れる。探ると中には宝箱があり、開けると125番の鍵が入っていた。
「おい、鍵あるじゃねえか。」
「……」
「これは貰うぞ。あとお前連れて行くから。」
空の酒樽を2個用意して、中に財宝たちを詰め込んで行く。摩り切れパンパンまでつまった樽に盗賊の装備にあった皮のベルトを鋲で打ち込み、簡単な樽カバンにしていく。重いはずなのだが、軽々とユニールは背負う。きっと修行で体の何倍ものある岩を担いで走らされたからではないだろうか。
今度は盗賊の頭領を小脇に抱えて持って行く。
「お、盗賊Aくん待ってたんだね、律儀だねえ。二人もおっさん抱えたくないからさ、縛られたままそこで暮らしてってくれ。」
「お、おい、これじゃあ動物に殺されちまうよ!」
「俺も殺さないし頭領にも殺させない。約束は守っただろう?じゃ、僕は行くから。」
「クソ!」
ユニールはまっすぐ西にかけて行く。きっと街道にぶつかったあたりにすでにククリールさんはもういるだろうと目星をつけていたからだ。盗賊の頭領は下を噛まないように必死に口を閉じ、ぐっと力を全身に入れていた。そのおかげで少し軽く感じた。
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