名刺交換。手渡す手と手。握手。拍手。
文章の紡ぎ方が日に日にわからなくなっていった。漏れ出す感情を言語化しようとするたび、背後に流れるメロディーばかりを気にしてしまい、気が明後日に舵を切る。回れぇ、右っ。てめぇさんはどこへいくんだい?
目的地は画面上で、北を指していた。青い三角形に操られながら、履き慣れていないエナメルのスニーカーを鳴らした。「こつこつ」とはせずに、突然、降り出した、作り出した、水溜りを踏む「ばしゃばしゃり」が代わりに街を奏でた。
ストリートカルチャーが渦巻く街。グラフィティとスティッカーが、見渡す限りの壁に張られ、メゾンの住人たちが「落書き厳禁」と脅している。写真を撮り合う金髪のお姉さんたちに、女子高生を客込みをする三本線を着た黒人たち。売店のクレープは約百種類あって、目立つ箇所で31アイスな髪色が列を形成していた。全体はデニムにラッピングされている「二十七度」。街角から漏れ出す生命が結合し合い、振動。吐息が漏れ合い、石畳みには落ちたコインを拾う男女(その片方は私、もう一人は他人)。
電車を乗り間違えては、長身で金髪の後輩とエスカレーターを上がってく。絵が描きたいのに、何度描いても満足できないらしく、描けないらしい(スマホを弄ったり、宿題をやったり)。どう返事をすればいいのかわからず「とりあえず描け」と大好きな先生に言われたことを言ってやる。
「それで満足できなかったら、もうひとつ描け。それもダメだったらも、もうひとつ、そして
知らんっ。私はただ個展を楽しみにするのみ。(この日は、オレンジ色の笑顔が特徴的なアーティストの個展へ行った)
朝起きて「おはよう」のメールに返事して、ハートの
日本語も英語も上手くない私だから、目を見開いて、耳を立てて、視線を向けて、口元を見つめ、真似をする。目の前の相手を真似して、演技して、自分自身と混ざって、あれ、いま私誰になってたっけって混乱して、自分が薄れゆく。私は誰。どの私になればいい。教えて。じゃないと、鼓膜にこべりついて離れなくなって歌手だと、暗示してしまう。
声が重なり、仕草が重なり、鼓動が重なる。カタカナで「
未来のことなんて何も知らないし、誰も知らないし、どれほど自分自身が「いま」を最大限に楽しもうとしても、寂しいことに他人が邪魔する。一緒に楽しもうよ。一緒に踊って、悩まず、怒らず、悲しまず、笑おうよ。だからそんな課題すぐに終わらせ、アホになって、哲学の難問を解くように、終わらない日々を過ごそうよ。
だからそんな質問、しないで。大学どうするのとか、仕事は何がしたいとか、結婚とか、母さんがもしも死んでしまった場合のこととか、知らないよ。生きてるじゃないか、それで、いいじゃないか。
今この時間が過ぎなきゃいいのに。夜の帳が全身を包み込んでいなきゃ、落ち着かないよ。夜色に染まっていたいよ。いたいよ。痛いよ。
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