「あの頃よく聴いていたラッパーの曲を口ずさんで」

 歯型。痣。音楽。笑い声。軋み。涙。液晶の光。水晶体の反射。夜の街。チンピラ。黒服の客引き。味のわからないアルコール。指先に纏わりつく付いている煙草。混ざり合った体液。鼓動。血液。微笑み。口付け。舌。ピアス。ネックレス。髪留め。剃刀。ピンセット。シャーペンとbox-cutter。「愛想が尽きた」の一文字。通知音。たこ焼き。甘さ。通話中。腰元のキズ。手元のスマホ。後ろに貼られたステッカー。画面上のグラフィティ。スケートボードの移動音。眠り。夢。舌ピアスの男性に「キスしていい?」って私、聞いたの。答えは、何だったんだろう。適当にかわされて、起きてしまったと思う。たくさん付いてて、痛そうだった。女王は元気だろうか。黒い服をいつも着ているあの人は、笑っているだろうか。誰に何も言えないまま、見ざる聞かざる言わざる笑わざる。ねぇ、聞いてる?


 つまらない授業中、友人にイヤホンを渡し、自分好みの曲を聞かせる。返された感想は「〇〇っぽい」だった。「違うし。私の好きな曲だし」イライラし、別の曲に変えて彼女のことを忘れた。苦手だぁ……。


 自分を忘れるな。


 うるさい。そんなの、分かってるわ。けど、わかんねぇんだよ。他人の仮装して遊んで、演技をして、無理して苦しんで、知らない人の歌い声に耳を預けて。

 テメェらに言われたくねぇ本心じゃないことを口にする


 小学生の頃は、仲の良い友達を含めて、クラスメイトみんなが友達だと思ってた。そういうもんだと、信じてた。けど、思い返すと名前を覚えているのはたった数人。ファミリーネームも含めて言わせたら、両手で足りるぐらい。漢字も含めさせたら、たった片手。可笑しいな。そういうもんなのかな。


 リリックが真っ暗な部屋でビートをきざむ。リズムはみじん切り。こてんぱにきざまれ、バーガーにされるんだ。ちょうど、あの日食べたバーガーショップの中身みたいにね。ジンジャエールで喉に流し込められ、咀嚼を繰り返す。むしゃむしゃ。痣だらけになりながら、残されたフライドポテトと一緒にゴミ箱へ。いつか私のことも好きじゃなくなるんでしょ。うけるー。


 心が波を立てないから、感情が湧かなくて、無気力感。あ、死にてぇ。

 おーちーつーけー。

 夜中に食った唐揚げの味を思い出して、足元に広がっていた血の池を瞼の裏に浮かばせ、色素の薄い瞳に「自分」の存在を溶かしてく。きっと下品に音を立てながら、一滴も残さず私は呑まれるんだろうね。ぐびっ、ぐびっ、ごくり。


「いってらっしゃい」を言うためだけに、起きてるべきだったと後悔する、朝の十時。


 サブタイトル。

 このままで - Jinmenusagi feat.サトウユウヤ


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る