第17話 島の現状を確認しよう
「そもそもさ、なんでアリがあんなにデカいんだ? 闇精霊の国の奴らも異形と呼んでおかしくないくらい変わった生き物だけど、大陸のどこにでも居る生き物がデカい、なんてのは初めて見たぞ」
「ああ、そういえば火精霊の国サラマンドラは、ずっと魔物の奴らと戦ってるんだっけね」
「そうそう、年中ずっと戦争しているんだよね。生まれ育った国だから違和感なかったけど、離れてみると結構おかしい事に気付くよな」
ロッコの家で、今後どう動いていくかの話し合いをしていた。
「国民皆兵制を敷いてるんだっけ? 基本的には兵隊になって戦うのが義務とか、あたしはノウムで生まれてよかったと心底思うよ」
「はは、生まれた時からそれが常識なら、ちゃんと生き残れるよう、強くなれるように修行していくから大丈夫だよ。ま、親が死んで孤児院育ちの子供が多いのも事実だけどさ。俺もそうだし」
俺の言葉に、シャルがびくりと反応した。
「え……? イオリのご両親は、もう亡くなってるの?」
「うん、ていうかどっちの顔も知らないわ。物心ついたらもう孤児院生活だったし」
「それは……」
「あぁ暗い顔しなくて大丈夫だよ。本当に。結構こういう奴は多いし、身元の不確かな孤児は国が手厚く保護することになってる」
まぁそうやって、兵として戦う人間を国自らが育ててるって感じだった。
「兵の中でも上位の位を持つ『騎士』と認められた人は、孤児院を経営して子供を育てるんだ。自分の技術を後世に託す意味も含めてね。兄も姉もいたし、弟も妹もいた。43人の兄弟たちと切磋琢磨の日々だったし、親父がちゃんと育ててくれてた。だからすげぇ楽しかったよ」
「43人の兄弟……すごく、多いね?」
「ああ、毎日騒がしかったよ。食い物とか取り合いだったし、もうしょっちゅう喧嘩が起きてたね、はははっ」
「ま、毎日けんかって、楽しいのかな……?」
それが楽しかったんだよね。
むしろ家族が多いって感覚だから、他の国で育つと少し違ってくるかもだけど。
少なくとも寂しいという気持ちは微塵もなかったし、強くなろうと頑張ってた日々は辛いことも悔しいこともあったけど、みんなには負けなくなかったから頑張れた。
「イオリ、その親父ってのはもしかして、レンジ・ユークライアのことかい?」
「ん? 知ってんの?」
「かなりの有名人だろう……。大陸最強の戦士だと名高い、火精霊の国サラマンドラの騎士団長。無敗伝説を持つ怪物じゃないか。他国にも名が響いてくる程さ」
おおう……。他の人から親父の評判を聞くと、なんだか面映ゆいな。
家では、酒呑んでは絡んでくるダメ親父だけどね。毎日、酔っぱらっては植木鉢に話しかけてたし。
それでも親父の経営する『ユークライア孤児院』は、国の中でも有名だった。
兄とか姉とか、どんどん騎士になっていったしな。
「精霊術なしでもイオリが強いのって、騎士団長仕込みの剣技を習ってたからなのか……」
「剣のエリート! ズルい!」
「で、でも修行は厳しそうなんだな。やっぱり羨ましくはないんだな」
育った環境も才能のうちだっていう話には、なんだか頷きにくいな。
剣技は習ったが、精霊術は才能なかったからなぁ俺……。
まあ、親父が現最強の戦士だというのには同意するけどね。強すぎんだよあの人。
俺もいつか親父を超えるのが夢の内約に含まれてる。
『はなし、ズレてる? アリさんの、おはなし』
ジャックからのツッコミで、ようやくアリのデカさに話題が戻る。
「昆虫が大きい理由は……多分食べてるものに関係してると思うんだけど、あたしらは詳細を知らないね。シャル、そこの所はどうなんだい?」
「んと、前にドライアド様から聞いた話では、『世界樹の実』を食べ続けてたら、いつの間にかあんな風になってたって……」
それを聞いた村のみんなは、あー……と納得しているような、していないような。
「世界樹の実って、あのお酒の原料になってたやつ?」
「そう、美味かっただろう?」
「ああ、かなり……もしかして貴重なのか?」
「ものすごくね。基本、島の生き物はアレを取り合ってるって言ってもいいと思うよ。奪い合って、殺し合ってるのさ」
「魔性の食べ物じゃないか……」
そんな貴重な食べ物を、俺とシャルの歓迎会に振舞ってくれたのか。嬉しすぎる。
じゅるり。おっと涎が。
「他にも食べ物として使えるのは、『葉』とか『若芽』、『根っこ』があって、全部栄養素が高いって、日常的に食べることで環境に適応したんだろうって、ドライアド様は言ってました」
「ああ、そういえば世界樹の恩恵を受けてて、大陸とはサイズが違うって言ってたな」
頭の位置だけで3メートルはあったよね。あのアリ。
もうサイズっていうか、スケールが違うって感じだけど。なんか逆に人間が小さいみたいな理不尽さを感じるわ。
ていうかなんで、人間は同じもの食べててサイズ変わらないんだよ。ズルくね。
「その実って、どこに行けば取れるんだ? いやそもそも、世界樹ってあのバカでかい樹のことだよな、ここは第四の島なのに、どうして根元じゃないここで採取できるんだよ」
「あのね、イオリ。ユグドラシルには四つの島があるんだけど、それは元を正せば全部が世界樹から出来てるんだよ」
「……どういうこと?」
シマガ、セカイジュカラ、デキテイル?
まるで違う言語みたいに、頭が理解してくれないぜ。
どうしよう……。さっぱりついていけない。
「あたしらも全部の事情を知ってるわけじゃないけど、つまりこういうことだろう――“最初は樹から始まって、後々に島が出来た”」
「えへへ、その通りです、ロッコさん」
「あ、そうか……」
そういう、ことなのか。
「そもそも島に世界樹が生えてるんじゃなくて、海の底に世界樹が生えてて、海面の近くにある枝の上に、四つの島が出来たってこと?」
こくりと、目をしっかり見ながらシャルが首肯してくれる。
なんだか問題を解答できたみたいで嬉しい。せ、先生……俺やれたよ!
「うん、そうなの。だから島の下には絶対に世界樹の枝があるし、地面から生えてる植物も、ぜーんぶ世界樹の影響を受けてるんだよ」
改めて聞くと、すごいな……。
もう完全に世界樹の支配下じゃないか。その中で生態系の一番下に位置する人間、それが俺たちです。頑張りましょう、そうしましょう。
あれ、そういえばアードラが小屋の中に居ないな。どこ行ったんだあの精霊。
「それで、えっと、この島の名前はね、スズラン島っていうんだけど、ずっと季節が変わらないの」
「そうだね、気候が安定してる。まるで春のまま、ずっと時が止まってるみたいだよ」
「だから一年中、同じ植物が生えてて、世界樹の実も時期を置かずに取れるみたい」
「へえ、なんかもう、よく分かんないね」
どこまでここは異質なんだよ。どうやって季節を固定してるんだあのペンギン。
こういう説明を聞くと、精霊って世界を造ったとか言われてるの納得できるんだよなぁ。
「実が多く取れるのは、枝が地面の上にまで出てきてる島の中央付近だって、ドライアド様は言ってたけど……」
「なるほど、そこはアリたちがうようよしていて、近づけないと」
「そう。だけど島の中には、いくつか大陸にもある野菜が原生していてね。それを取ってきて、種から育て始めたんだよ。それが村の畑ってわけ」
「そうやって村のみんなは食べ物を確保しているのか……うん、なんとなく状況が分かってきた」
アリは島の中央に陣取り、実を独占しながら食べ物を探し回ってる。
そして力のない人間達は、そこから離れるよう暮らしているんだ。
「村の位置は島の北側で、沿岸に近い。まああたしらは、昆虫たちと違って海で魚も捕れるからね、なんとか暮らせてはいるんだよ」
ロッコは続けて、アリが村へなかなか侵入して来ない理由を語った。
「島の中央を制覇しているアリにとっては、北の端にある村を襲う意味が薄いのかもしれないね」
『せかいじゅの方が、おいしいから』
「そう、ジャックの言う通り、ここには奴らの餌になるものが少ない。世界樹の実をあさってる方が…………なんか、外が騒がしくないかい?」
「姐さん、俺達が様子を見てきます!!」
三人のおっさん達は、ロッコの感じた疑問を確かめるべく飛び出していった。
そしてすぐに、顔を青くして戻ってくる。
「あ、姐さん、大変だ! アリが出た、畑の野菜を狙ってる!!」
「んなっ、そんなこと初めてだね……なんでこんなタイミングで、アリは何匹だい!?」
続けて小屋に戻ってきたおっさん達は、状況を報告してきた。
「三匹いる! 黒いのが三匹!!」
「あ、ああぁ野菜が、丹精込めて育てた野菜が食べられちゃうんだな」
その報告を受けて、俺はジャックと顔を見合わせた。
なんたって、村の中で一番の実力を誇るジャックと、世界最強を目指す剣士の俺だもの。そりゃやる事は決まってる。
戦闘要員は、こういう時に出張るのだ。
『いおり兄ちゃん!』
「ああ、俺達の出番だな、行くぞジャック!」
おっと、こいつを忘れちゃいけないなと考えたところで、シャルが慌てていた。
「あ、あの、イオリ、私はどうすれば」
「シャルはこの小屋の中に居ること! 命が危ない時以外は精霊術の使用は控えてくれ!!」
そう言って小屋から出て、手を頭上に突き出す。
「精霊剣よ――俺の元に来い!!」
その言葉に呼応して、手のひらから光が生まれる。
そして、俺の手に最強の木刀が収まった。
くぅ~精霊術を使ってるみたいで気持ちいいです♡
さあ、剣を持ったら俺のターン、村の野菜を奪おうとするアリ退治の始まりだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます