第13話 みんなで食卓囲んで仲直り
カボチャ男ジャックとの決闘の後、ロッコの家にて食事を取ることになった。
「丁度お昼時だからね。とりあえず一緒に食べようじゃないか。あたしが作るよ」
気になるのは、ロッコが作ると宣言した途端に表情が消えた男達だったが、まあいいだろう。
そして待つこと一時間ほど。もう涎が垂れそうです。
「出来たよ。さあみんな食べてくれ」
「いっただっきまーす!」
「たっぷり頂いておくれ。『世界樹の葉』を使ったスープさ。滋養強壮、栄養満点だよ」
「へえ、それは美味そうだなぁ…………ん、ぐ!?」
口に含んだとたん、吹き出しそうになった。
ナニコレ、クソマズインデスケド……?
ただの草の味しかしない。ただ草を湯に浸しただけだよ、これ。
でもそれを態度に出してはいけない。
だってせっかく仲良くなれそうなんだから。こんな事で関係を崩したくない。
「……どうしたんだい?」
「い、いや、斬新な味付けだな、と思って。うまいよ、うん」
「そうかい? 嬉しいね」
「ちなみにロッコ、こっちの黒いのはなに?」
「『世界樹の若芽』のサラダだよ」
へえ、サラダなんだぁ……。
俺の目がおかしくなったのかな、真っ黒こげなんですけど。炭かな?
小屋の中で同じ料理を食べている三人のおっさんと、ジャックは物言わずに口に運んでいる。
どうやら食事内容に驚いているのは、俺だけのようだ。俺って味覚おかしいのかな。
「ロッコ、こっちは?」
「『世界樹の根っこ』のおひたし」
「へえ……」
なんというか、世界樹尽くしだな。
単語だけ聞くと、すげぇ貴重感のある料理なんだけど……。
むう、島の食生活はあんまり充実していないのだろうか。
まさか空腹が最高の調味料にならないとは。恐るべし。
首をひねりながらもスープを飲んでいると、天使が俺の体をつんつんしてきた。
「あ、あの、イオリ……?」
「ん? どうしたシャル。まだまだロッコが作ってくれた料理は残ってるぞ、頑張って食べよう」
「うん、それも、そうなんだけどね。えっと、私、どうしてこうなってるのか、わからなくて……」
シャルは膝をぴっちりと閉じて正座している。
明らかに緊張しているのが伝わってきて、なんだかほんわりしてしまう。
「そういえば誤解は解いたけど、こうなった流れまでは説明してなかったね。実は……」
シャルに俺が監禁されてから決闘に至るまでの事情を説明する。
「という訳で、もうシャルは村に出入り自由になったはずだよ」
「……すごいね、イオリは。急にいなくなったと思ったら、そんな事してくれてたんだ……」
「いやいや、流れに身を任せてただけだから。それに俺の方にも、実はシャルに訊きたいことがあるんだけど……」
俺の隣にはシャルが座っている。
だけどシャルのもう片方の隣には、とある褐色美女が座っているのだ。
えーっと、この褐色美女さん、目が覚めたとき小屋の中で会ったよね?
「気軽に見てんじゃねーよ。つぶすぞ」
「…………あの」
「気軽に話しかけてるんじゃねーよ。埋めるぞ」
おお、相変わらず言葉がキツい。ゾクゾクするなぁ。
しかし悪くない。悪くないぞ!
同じ感想を持ったのか、三人のおっさん達もこそこそと内緒話していた。
「なあ、あのデカいねーちゃん。美人だよなぁ……」
「よくね? 二人とも可愛くね?」
「は、話しかけたいんだな。で、でも緊張しちゃうんだな」
おっさん達の声は大きい。小屋のみんなに聞こえていた。内緒話は小さい声でやれよ。
しかし褐色美女は完全に無視。シャルはまだ緊張していた。
そんな二人を見かねたのか、ロッコが話しかけてくれる。
「白髪のお姉ちゃんは知ってるけど、そっちの黒髪は見ない顔だね。何て名前だい?」
「……アードラ」
面倒そうに、褐色美女は答える。
あれ? 村の連中も、アードラさんのことは知らなかったのか……?
「あ、あのね! アードラは新しく島に来たから、声をかけたの」
「へえ、新顔か。イオリと同時期に来るなんて、なんだか運命的だね」
そうか、そうか……!
ロッコは良いこと言うなぁ。ぜひとも運命的に仲良くさせていただきたい。
出来る限り爽やかに、笑顔でアードラに向けて手を差し出した。
「そ、そうなんだ。俺も昨日島に着いたんだよ。奇遇だね、これからよろしく!」
「殺すぞ」
そんな返事ってある? 俺、なんか泣きそうなんだけど。
褐色美女アードラは配膳された食事に手をつけて、ぺっと一言。
「マズい。これは世界樹に対する侮辱か?」
「ちょおおおおおおいっ、いや、嘘だよ嘘、いやぁロッコの料理は美味しいなぁ!」
俺の言葉に続くように、三人のおっさんとジャックはこくこくと勢いよく頷く。
しかしそれは、ロッコの目と耳には入らなかったようだ。
「……いま、何て? アードラさんよぉ、もっぺん言ってみ?」
「この料理を作ったのはお前か。シャルロットを見習え、数百倍は上手に作る」
はっきり言い過ぎだよアードラさん!
「……あ、アンタら、いつもマズいと思って食べてたのかい?」
「いやいや! あ、姐さんは少し不器用なだけっすよ!」
「そう! 超個性的!」
「いつもお腹いっぱいなんだな。感謝なんだな」
それでも決して美味いとは言わないんだな……。
フォローになってないよ、おっさん達。
しかしなるほど、こういう優しさでロッコの料理はスルーされてきたのか。
俺も人のこと言えないけど。でも良かった、俺の味覚がおかしいんじゃなくて。
「し、仕方ないだろ……この島に来るまで、料理なんかしたことなかったんだから……」
ロッコの隣に座っていたジャックは、うなだれる小さな肩をぽんぽんと叩く。
「(ずいっ)」←お椀を差し出す。多分おかわり要求
「ジャック……無理して食べなくてもいいよ」
「(ぶんぶん)」
カボチャ頭を横に振って、自分でおかわりしたスープを口に流し込んだ。
「じゃ、ジャックぅ……」
「(ぐっ)」←サムズアップ
うぅ、なんだかジーンとするな。
しかしジャックって物を食べれるんだなぁ。歯だってない気がするんだが……。
「あ、あの! 私、台所に立っていいでしょうかっ」
シュバっと手を挙げたシャルは料理を作り直す要求を出す。
ぶすっとした表情で、ロッコはその要求をのみこんだ。
「……どうぞ」
「ありがとうございます! 少しだけ、お邪魔します」
そう言って、シャルは超速度で食事を用意した。
あれ、10分くらいしか経ってないんですけど。
「うんめえええぇっす」
「だよな! そうだよな!」
「お、オイラ、こんな美味いご飯食べたの、は、初めてぇ……」
三人のおっさん達は、おいおい泣いてはシャルの料理を食べていく。
現金過ぎるよ。
あぁ、案の定ロッコは超不機嫌だし。ジャックはわたわた焦っていた。
「うん、美味しい。さすがシャルロット」
「えへへ……」
アードラとシャルは微笑ましいやり取りをしている。
むうぅ、しかしアードラさんは食事姿もセクシーだな……。
何より、全ての動作に妖艶さが漂っている。これは視線が外せない。
こう、体が動く度にたゆんって揺れてね。素晴らしい。
「イオリ、どこを見てるの?」
「……え? いや、初めて会う人だから少し気になってね。なんでもないよ」
真っ直ぐこちらを見るシャルは、なんだか面白くなさそうだ。
「嘘つき。胸元ばっかり見てた……」
シャルは何か小さく呟いてから、こいこいと手で「近くに来い」とジェスチャーしてくる。なんだろう。
寄っていくと、そっと耳うちしてくる。内緒話って、なんかエロいよね。
「あのね、イオリにだけは教えておくね?」
「…………」
「き、聞いてる?」
「あぁごめん、耳が幸せ過ぎて聞いてなかった。もう一回言ってくれないかな、今度はもっと近くで」
「もう、まだ何も言ってないよ!」
はあ、怒ったシャルも可愛いな。天使かよ。
まったく、なんて威力なんだ。シャルの吐息が耳にかかって、ほんわりしちまったぜ。
「おい、イオリ」
「は、はい? なんでしょうアードラさん」
「殺すぞ」
念を押すほど?
ねえ、そんなに俺のことが嫌いなの?
……ん? なんだかこの嫌われ方、覚えがあるような。
「イオリ、ちゃんと聞いて」
「う、うん。ちゃんと聞くよ。なにかな」
「アードラね、人間の姿をしてるけど、本当はドラちゃんなの……」
「え!?」
ドラちゃん!?
シャルがそう呼ぶのは、樹精霊ドライアドだけじゃ、
「こ、声が大きいよぉ」
「むぐ」
シャルの手で口を塞がれる。
柔らかい……。えぇ、俺こんな幸せでいいのかな。明日死んじゃうんじゃないかな。泣きそう。
「あのね、ドラちゃん、あの姿じゃ村に入れないからって変身したの」
「え、そんな簡単に言うけど、それって普通に出来ることじゃないよね」
「だってドラちゃん、精霊だもん」
そっか……。神様の一柱だったよね。あの乙女ペンギン。
しかし、そうか。褐色美女アードラは、樹精霊ドライアドの人間の姿だったのか。
だから俺を嫌っていて、だから剣に関するアドバイスも的確だったんだな。
「村のみんなには言えないな……」
「うん、内緒ね?」
シャルとの話がひと段落ついたのを確認したのか、場を締めるような声が響いた。
「さて、そろそろ食事も落ち着いただろう――そこのお姉ちゃんに、ちょっと訊きたいことがあるんだけどね」
ロッコの視線はシャルを見ている。
コミュニケーションは喜ばしいが、呼び方が気になるな。
「ロッコ、この子はシャルロットだ」
「……シャルロット、訊きたいことがあるんだけど」
「な、なんでしょう?」
「あの悪魔、樹精霊ドライアドはどこにいる。アンタはいつも一緒に居たはずだ」
ドキーン。やっぱりそこ、気になるよね。
思わず横目でアードラを見てしまう。めっちゃ澄まし顔でシャルの料理くってるよおい。
少しは焦ってくれ。
「あの、シャルロット以外の人間は好きじゃないって、どこかに行っちゃいました……」
あらかじめそう説明すると決めていたのか、シャルはおずおずと言葉に出した。
「……そうかい。イオリとの約束だから、アンタの村への出入りは自由にする。もちろん変な真似をしたら追い出すけどね」
「ハハハやだなぁ姐さん、そんなこと俺達じゃできな――」
「黙ってな。行動するかしないかの話だよ」
ロッコの瞳は鋭くとがり、とても真剣だ。
髭面のおっさんは怒られてしゅんとしている。少し可愛いじゃないか。
「あたしらは島で生きるしかないんだ、さっきみたいに家を壊されちゃたまったもんじゃない」
「ご、ごめんなさい、頭に血が上っちゃってて……」
「もう金輪際しないでくれ。たとえあたしらの事が気に食わなくてもね」
「そんなこと、思ってません……。ずっと村のみんなと、仲良くしたいと思ってました……」
涙目でうつむくシャルを見て、ロッコは大きく息を吐く。
「……あたしらに足りなかったのは、どうやら会話だったみたいだね。もっと早く、話してみればよかったよ。だから、夜通し話してみるしかないよね」
その呟きを、髭面のおっさんが一早く拾う。
「あ、姐さん! てことは、今日は!?」
「ああ、久しぶりに宴会だ! ありったけの酒を持ってきな!」
ロッコの宣言により、おっさん達はわき上がる。
「いやっほーう! 村のみんなに伝えてこなくちゃな!」
「宴会! 祭りー!」
「さ、酒が呑めるんだな。めでたいんだな」
ドタバタと小屋から出ていくおっさん達を横目に、ロッコは続けてシャルに声をかけた。
「いいかいシャルロット、アンタは今日から仲間として扱う。お互いに遠慮はなしだよ」
「は、はぃ……」
「明日からは、昆虫共と戦うための準備をするよ。細かい決め事をするのも明日からだ。だけど今日は、腰を据えてゆっくりと会話しようじゃないか」
そう言ったあと、ロッコはどうしてかもじもじする。
「そ、そこでシャルロット。さっそくアンタに頼みがあるんだけどね!」
「ひゃいっ、な、なんでしょう……?」
「……宴会には料理が必要になる。あたしに料理、教えて、くれよ……」
ロッコは視線を逸らしながら、口を尖がしている。
その言葉がよほど照れくさいのだろう。頬が真っ赤だ。それに、相手は今まで敵意をバシバシぶつけてきた女の子だからな。
「はい……。えへへ、はいっ、任せてください!」
「……ふ、ふんっ。いーかいシャルロット、あたしはまだ完全にアンタを認めたわけじゃないんだからねっ」
ロッコさん。下手なツンデレかよと思うほどベタな態度とセリフだな。
「よろしく、お願いします。みんなに認めてもらえるよう、頑張ります。ぐす」
そう言って涙ぐむシャルを見ていると、頑張ってよかったと思うのだった。
なんだか俺も泣きそう。
あのー。宴会もいいんですけど、誰か俺に服をくれませんかね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます