第05話 佐渡川書店
さすが夕方の大手民放だけあって、オンエア直後の掲示板は大盛り上がり。
自分の考え出したアニメが、と思うと、嬉しさ恥ずかしさに鼻の頭がなんともむずがゆくなってくる定夫であった。
なお、「ないき」の名がテレビアニメ化にあたって「あおい」に変更されたことは前述したが、それだけでなく、ほのか以外のレギュラー陣は全員名称が変更されている。
ニャーケトル → ニャイケル
ことごとく変えられたのは作り手の端くれとして不本意といえば不本意だが、これがプロのセンスということなのだろう。
まあ、確かに分かりやすくなっている。
それに先ほど気付かされた「ほのかのほのかな」の口上のこともあるのだろうし。
名前の話が出たついでに、いま定夫が見ているようなオタ向け掲示板でよく使われている、キャラクターのニックネームについても説明しておこう。
ホノタソ → ほのか
ヒカチュー → ひかり
ズシーン → しずか
なるほど、と定夫が思わず唸ってしまったのがズシーンだ。
シズカのシとズを入れ替えたのみならず、地水火風の地ということでの大地を思わせる響きが加わっている。誰が考え出したのか、もの凄いセンスである。
その後も掲示板のチェックを続ける定夫であるが、ふと、先ほど話題に上がっていたことが気になって、ベッドの上のアメアニ今月号を手に取ってみた。
アメアニ。アニメと声優の月刊情報誌だ。
表紙にデカデカ描かれているのは、黄色髪の少女つまり三人目の魔法女子である暮田ひかり。
その後ろに、新キャラとしか思えないような、撫でつけたようなピッチリショートカットの、おそらく女子と思われる、シルエット。
これは、誰なのだろうか。
敵なのか、味方なのか。
はがゆく、そして、ちょっと悔しい気持ちになる定夫であった。
魔法女子ほのかは、自分が生み出した作品のはずなのに、と。
でも、キャラデザインを担当したトゲリンの方が、きっと遥かに悔しい気持ちなのだろう。ほのかたち四人の魔法女子は、ほとんどトゲリン画がそのまま採用されているというのに、「原案」の注記もなく、完全に他人名義になっているのだから。
大人たちの技量とパワーで作り直してもらえたからこそ、ここまでの大人気アニメになったのだ、と思って諦めなければいけないところなのだろうが。
そう、魔法女子ほのかは大人気であった。
大きなお友達向けの要素満載でありながら、夕方の大手民放だけあって小さなお友達も多数観ており、第一話、第二話と、かなりの高視聴率を弾き出していた。今回の第三話も、上回りこそすれ下ることはないだろう。
放送予定は一クールだが、既に第二期制作決定の噂も出ている。
月刊少年ジャンジャン今月号から、人気作家であるアキヨシモトオ先生による連載が開始され、
同誌来月号からはスピンオフである「魔法女子ゆうき」も同時掲載され、
つい先日、ブレイブステーションと、
ソーシャルゲームとして売り込むためにキャラクターを大幅に増やしたい
破竹の勢いの快進撃、になってもなんら不思議でない、大いなる可能性を秘めた作品。それが、「魔法女子ほのか」なのである。
といっても現在のところは、裏で大人によって作り上げられた人気なのだろう。佐渡川書店が関わっていることから、巷ではそのように認識されている。
佐渡川書店とは、メディアミックスで有名な大手出版社だ。
金の匂いを嗅ぎ付ける能力が非常に高く、「魔法女子ほのか」もアニメ化が決定されると、まだそれが公になるより前に、ぞわぞわ触手を伸ばしてあれよあれよと様々な権利を買い取って、まるで自分たちが発掘した作品であるかのように制作発表を行い、いつの間にか制作全体を牛耳る立場になってしまっている。
佐渡川が、「Webから生まれたアニメ」という「魔法女子ほのか」の特徴を大々的に宣伝し、大いに注目度を集め高めた上で、アニメ放映が開始されたというわけだ。
もちろん面白くなければ人気が出るはずもないが、スタートラインの地点で有利であったことに違いはないだろう。
佐渡川の体質、暗躍ぶり、あくまで噂であり真偽のほど定夫には分からないが、ビジネスと考えれば当然のことなのかも知れない。
だから定夫は、特に気にしていない。
汚れているとも思わない。
作り上げられた人気というのが本当だとしても、我々の作った原作への高評価があったからこそ、テレビアニメ化の話もきて、佐渡川が接触してきたわけで、自分たちがうしろめたい思いをする必要などはまったくない。
キャラの名称をことごとく変えられた件に関しても、先ほど説明したような理由で、納得は出来たことであるし、従ってテレビアニメ化に関しての不満は現在まったくない。
一視聴者として、毎週毎週を楽しみに待つだけだ。
まあ、ひとつだけいわせてもらうなら、自分たちの作った、いまやパイロット版ともいえるWeb版、これの公開を完全に禁止されているのは、ちょっと納得いかない。ということくらいか。
佐渡川が、この過去作品をどう市場活性に生かすかを現在検討中ということかも知れないが。どうであれ、いま感じているこのわくわくした気分に比べれば、取るに足らない些細なことだ。
テレビ版「魔法女子ほのか」、最高である。
なんといっても、ほのか役の声優が
最初そのキャスティングを知った時には、信じられなくて頭が真っ白になって、作ったばかりのデカ盛りカップを落として床に麺をブチまけてしまったくらいだ。
ほんわかしながらも芯の通った声、という声優であることは認識していたが、ほのかというキャラにまさかここまでハマるとは思わなかった。
テレビ版のほのか、本当に、最高だ。
ああ、来週が待ち遠しい。
毎日が木曜日ならいいのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます