第08話 さあ我が行くは無限の荒野

 一時間ほどが経過したであろうか。


「おのおのがた、そろそろ……」


 トゲリンの声に、みなの表情がきりり引き締まった。

 定夫は、こくと頷いた。八王子と敦子も続く。


 なにをするのか?

 これから、ついに作品をアップロードするのである。

 彼らの作成したアニメ、「魔法女子ほのか」を。

 インターネットという名の無限の荒野に、解き放つのだ。


「あー、なんかドキドキするう」


 敦子が希望と緊張のない混ぜになった笑みを顔に浮かべながら、両手で小さな胸を押さえた。


「もも、もれも」


 真似したわけではないのかも知れないが、定夫もそっと手を胸にあてた。敦子より遥かに脂身たっぷりの、お相撲さんに匹敵するようなむにょんむにょんの胸であるが。


 ごくり。

 定夫は、唾を飲んだ。


 ……既にネットで一定以上の反響は得ている。

 そもそも、その反響こそが本格的制作への原動力になったのだから。

 従って、そこそこはイケる気がする。


 だが、どうなのだろうか。

 果たして、世の反応は。


 それは分からない。

 でも、だからこそ、やるんだ。

 分からないからこそ、やるんだ。


 これまで頑張ってきたんだ。

 そうだ。

 きっと素晴らしい結果に繋がる。


 などと心に呟きながら、定夫はパソコンのマウスをカチカチ、データアップロードの準備を進める。


 準備は完了。

 後は、送信ボタンを押すだけだ。


 あらためて、定夫はマウスにそっと手をかぶせた。

 その手の上に、トゲリンが自分の手を重ねる。

 さらに八王子が、

 最後に敦子が、そおっと小さな手を置いた。


 無言で、頷きあう四人。


 定夫は、指先に軽く力を入れた。

 カチリ、という微かな音が、しんとした部屋に響いた。

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