第338話 マクロスF(2008年)

 さて、今回のお題はマクロスシリーズ25周年記念作品『マクロスフロンティア』です。2008年4月3日から9月23日までの地上波初回放送を録画して全話視聴しました。TV版を再編集した劇場版は見ていません。


 前作『マクロス7』が型破りだったのに対して、本作は普通に「マクロス」している感じの作品に仕上がっています。謎の宇宙生物ヴァジュラに襲撃された移民船団マクロス・フロンティアを舞台に、主人公「早乙女アルト」と二人の歌姫「ランカ・リー」と「シェリル・ノーム」の三角関係が展開されます。


 主役ロボはVF-25「メサイア」。普通にカッコ良い三段変形ロボです……が、ロボ形態ではあまり使われない所も伝統に忠実だったり(笑)。


 そして、母艦も「マクロスクォーター」といって、普通のマクロスの四分の一サイズと小型(それでも全長四百メートル級)だったりします。その分、機動性が高いので巨体の割には機敏に動くという。


 もっとも、フロンティア船団の旗艦にも『マクロス7』のバトル7と同じように「バトルフロンティア」という大型母艦が接続されていて、これまた強攻型(=超巨大ロボ)に変形します。こちらはサイズが千六百メートル級で、歴代マクロスの中でも最大級です。こいつは最終回で活躍してましたね。


 敵はヴァジュラという謎の宇宙生命体で、こいつらとは意志の疎通がとれず、また人類が使う兵器に素早く対応して無効化してしまうという特徴があります。そのため、殲滅できる反応兵器(マクロス世界における核兵器の呼称)でないと対応が難しいという特徴があります。


 ヒロインのひとりランカの歌はこのヴァジュラの行動に影響を与えることが分かり、素人から売れない新人アイドル歌手(かぶりもの着てドサ回りのニンジン宣伝キャンペーンとかやってたけど全然客が入らなかった)になったばかりだったランカは「希望の歌姫」に祭り上げられるという。


 それに対して、別の「マクロス・ギャラクシー」船団で既に「銀河一の歌姫」と呼ばれるほど名声ある歌手だったのがシェリルです。フロンティア船団へ慰問に訪れたときにヴァジュラの襲撃にあい、母船団だったギャラクシー船団もヴァジュラの襲撃で壊滅的打撃を受けて消息を絶ったため、そのままフロンティア船団で歌手活動を続けます。


 ところが、実は裏でヴァジュラを操っていたのはギャラクシー船団だったという。最終回ではバトルギャラクシーがヴァジュラをまとってラスボス的な存在として現れ、バトルフロンティアと戦います。


 シェリルはそのことは知らなかったのですが、シェリルのマネージャーである「グレイス・オコーナー」は裏で糸を引いていたという。キャラ的な実質ラスボスですね。このグレイスの中の人が井上喜久子なんですね。キャリア的にはとっくに悪役とかやってていいはずの人なんですが、ようやっと悪役に割り振られるようになったという(笑)。


 その一方でヴァジュラの謎については、ランカの生まれの秘密と関係があったりします。実はランカは以前に壊滅した探査船団の生き残りで、そのときにヴァジュラに襲われていたんですね。それでヴァジュラ由来の感染症にかかったものの、その感染症と共存できる体質になっており、そのためにヴァジュラと限定的な意思疎通ができるようになっていたという。


 シェリルの方は、フロンティア船団の陰謀の中で、同じヴァジュラ由来の感染症にの実験体にされており、こちらは感染症が体に悪影響を及ぼして余命いくばくもない状況でした。


 さらにランカがもてはやされるのに反比例してシェリルの人気が落ち、さらにはフロンティア船団の陰謀の道具にすぎなかったことが分かって一時は歌を捨てようとするほど失意のどん底に落ちるのですが、自分の歌が人々に力を与えることを知って命の限り歌おうと決意します。


 その一方でランカの方はヴァジュラと意思疎通できたことで彼らを理解し、共存の道を探るためヴァジュラの母星へ自ら赴きますが、ギャラクシー船団に捕らえられて洗脳されてしまいます。


 その折りにヴァジュラの母星を知ったフロンティア船団はヴァジュラとの決戦を開始しようとするのですが、そこでヴァジュラを操っていたのがギャラクシー船団だということがわかり、ランカも救出されてフロンティア船団&ヴァジュラ連合軍とギャラクシー船団の決戦となり、フロンティア船団側が勝利します。


 そしてヴァジュラは人類のことを理解して、人類の生存領域から去って行ったのでした。また、シェリルはヴァジュラとの和解で感染症への対応ができて命をとりとめています。


 本作では主人公アルトの所属するのが正規軍ではなく民間軍事会社SMSだったりします。このSMSはフロンティア船団がヴァジュラの本拠地を攻撃しようとする際に一時フロンティア船団から離反しますが、ギャラクシー船団こそが真の敵である証拠を持って最終決戦に介入します。なお、この離反時にアルト自身はSMSから離反して一時正規軍の所属になっていたりします。そのときは旧式機(『マクロス7』のガムリン機だったVF-17の改修機VF-171)に乗っていました。


 探査船団の生き残りで天涯孤独の身だったランカを妹として引き取った義兄「オズマ・リー」は、アルトにとっても頼れる兄貴分である歴戦のエースパイロットであり、練達の部隊指揮官で、さまざまな死亡フラグまで立てていて、「こいつ絶対死ぬだろ」と思わせておきながら最後まで生き残ります(笑)。


 その一方で、マックス系「天才パイロット」枠の「ミシェル(ミハエル・ブラン)」の方は、絶対に死なないだろと思わせておいて、何と恋人未満の幼なじみであるメルトランディ系美少女クラン・クラン大尉を守るために、主要キャラで唯一の戦死者になってしまうという。


 実は学園ドラマの要素もあって、メインキャラはみんな同じ学校に通っていたりもします。そのせいもあって登場キャラは結構多く、脇の挿話はそこそこあります。


 しかしながら、メインのストーリーは「ランカとヴァジュラの謎」「シェリルとギャラクシー船団の陰謀」の二つのラインに収束しており、それを主人公のアルトがつないでいるという形になっています。


 このため、メインキャラが織りなすストーリーに集中できるんですね。このあたり群像劇にしようとして「主人公」的なラインを多く作ってしまって集中できなかったTV版『00』とは好対照かなと思えます。


 主人公が歌舞伎の名門出身で、以前は女形おやまをやっていたって設定がストーリー中であまり生かされてなかったりとか、最新鋭機VF-27ルシファーを操るライバル格「ブレラ・スターン」の影がいまいち薄かったりといった部分はありますが、全体としては面白い作品だったと言えると思います。


 マクロスシリーズらしく歌も充実していましたね。特に音楽が菅野よう子で、オープニング主題歌「トライアングラー」や、作中で重要な役割を果たす挿入歌でエンディングにもつかわれた「アイモ」ほかの作曲もしており、これまた『00』とは対照的に強く印象に残っています。「突撃ラブハート」とか歴代シリーズ作の歌も効果的に使われていましたね。


 ただ、これ深夜枠なんですよ。ちょうど日午後五枠では、ファーストシーズンは深夜枠だった『コードギアス』のセカンドシーズンが放送されてたんですね。どちらかというと、元深夜枠でマニアックな視聴者層向けの『コードギアス』より、そこそこ一般知名度もあるマクロスシリーズの最新作である『マクロスF』を日午後五枠に入れた方がよかったんじゃないかなとかリアルタイム当時は思ってたんですよね。制作会社とかスポンサーの関係で、こうなったんでしょうけど。


 『マクロスΔデルタ』は見ていないので、私が見たマクロスシリーズは、これが最後になります。


 さて、次回はいよいよ私が自身の「老い」と巨大ロボットアニメ視聴に限界を感じた作品『鉄のラインバレル』に行きたいと思います。

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