第337話 機動戦士ガンダム00 その8 宇宙巡洋艦サタニア?編

 さあ、いよいよ『00』語りも最終回。残りの目立つキャラと総評に行きたいと思います。今回のサブタイトルは『00』やガンダムシリーズに出てきた宇宙艦ではありません。私が小学生時代に読んだタイトルも覚えていない短編SF漫画に出てきた宇宙艦の名前なのです。閑話なのですが、調べてみたら意外な名前が出てきたので、あとで詳しく書きます。


 さて、今まで語っていないキャラのなかで、二人ほど語りたい女性キャラがいます。ひとりは「ワン留美リューミン」。ソレスタルビーイングのスポンサーで、『ゼータ』のウォン・リーみたいなポジションの人なのですが、ウォン・リーと違ってソレスタルビーイングを裏切ってイノベイド勢力に力を貸したり、そちらも裏切ったりと複雑な動きをしています。


 ただ、それが深い信念によるものではなく、単に「不本意に名家の当主に押し上げられた」という自分の感情を持てあましての行動だったんですよね。状況を引っかき回してはいるものの、トリックスターにもなりきれていないというか。このため、何というか、そんなに魅力的じゃないという。


 与えた影響はマリナに比べると格段に大きいんですが、信念しかないマリナとは真逆で情念しかないという。ある意味マリナに対置される、マリナのネガなキャラだったのかなという気がします。


 もうひとりは、偽ガンダム一味トリニティの紅一点で、唯一生き残ったネーナ・トリニティです。こいつ、性格的にはムチャクチャにワガママで、気分屋です。そのため、何の罪もないルイスの親族を「自分が仕事をしているときに楽しそうにパーティーしてるのがムカついた」という程度の理由で虐殺し、ルイスにも重傷を負わせます。


 その後、用済みとしてトリニティが切り捨てられたときにひとりだけ生き残って、前記の王留美に拾われて仕えることになりますが、その王留美の感情的な行動を嫌っていて、最後はイノベイド勢力を裏切った王留美を自らの手で殺します。


 ただ、その後ネーナ本人もリボンズに切り捨てられて、結局はルイスの復讐の対象として殺害されました。


 とにかくヘイトを買うキャラとして設計されていて、その通りにヘイトを買いまくってたという印象があります。今までのヘイト買い女性キャラというと『逆シャア』のクェスとか、『V』のカテジナがいますが、こいつもそれらに並べるくらい同情できないキャラとして印象に残っています。


 さて、キャラ語りはこのくらいなのですが、それ以外のことについては余り語れないんですよね。実は『00』についてはプラモも買ってないし、この頃は弟も一人暮らしを始めていたのでそちらでプラモを買ってたかどうかすら知らないんですよ。また、主題歌もまったく印象に残っていないという。


 ただ、初期のストーリーを見ているうちに、思い出したことがあるんです。それが、冒頭に書いた「短編SF漫画」なんです。以下閑話。


 小学生の頃に、母親が持っていた雑誌あるいは漫画の総集編的なムックに載っていた漫画だと思います。絵柄は少女漫画的でした。ただ、70年代のSF漫画というのは、竹宮恵子『地球テラへ…』や萩尾望都『11人いる!』など、少女漫画の方がリードしていた感があるんですよ。だから、少女漫画のSF短編というのは不思議ではないと思います。また、松本零士御大や『超人ロック』の聖悠紀など、少女漫画スタートの男性SF漫画家も結構いるんですよね。


 その漫画のストーリーなのですが、二つの惑星国家が長い戦争を続けている状態で、片方の国が作り上げた最新鋭の宇宙重巡洋艦「サタニア」号が試験航海(か処女航海)のときに敵国の襲撃で奪われそうになるという。その戦いの中で、主人公(男)は敵国側だったヒロインと出会って、戦争のむなしさに気付いて、互いに手を取って戦争をやめさせようとするんです。その手段というのが、最新鋭で最強の宇宙巡洋艦サタニア号を戦争反対派の同志たちで奪って、両方の陣営を無差別に攻撃するという方法でした。それで、強力な第三勢力の登場に驚いた両国は、停戦して協力してサタニア号を狙うようになり、一年後にはサタニア号(と主人公たち)は宇宙に散華するのですが、それと引き替えに両国の平和は成ったという結末でした。


 『00』の初期の三大勢力に戦いを挑むソレスタルビーイングの行動と、その後の地球連邦結成につながる流れを見て、私はこのタイトルも覚えていない短編SF漫画を思い出したんですよね。


 と、それだけのことだったのですが、今回の執筆に先だって「宇宙巡洋艦サタニア」で検索したら何か出てくるかなと思ったら、ペーパークラフトなんてのが出てきたんですよ。


 「あれ、意外に有名?」と思って調べてみたら、田中光二のSF小説『銀河の聖戦士』(徳間書店、1979年)に出てきた宇宙巡洋艦の名前らしいんです。しかも、ストーリーラインを見ると、主人公は長年にわたって戦争を続けてきた二カ国の戦争を止めるために戦うらしいんですよ。私はこの小説を読んだことがないのですが、もしかして私が小学生時代に読んだ漫画は、この小説の抜粋コミカライズなのかなとも一瞬思いました。レビューによると、結末も主人公たちの死で終わるようですし。


 ただ、私の記憶の中には『銀河の聖戦士』のあらすじやレビューにあった「重要な要素」がまったく入っていないので、単純なコミカライズとかではなさそうです。


 というのは、『銀河の聖戦士』の主人公って、何と現代で自動車事故にあって異世界転生してるんですよ!


 今まで『異世界トリップ俺TUEEE!』の元祖はE・R・バローズ『火星のプリンセス』で、『内政チート』の元祖はマーク・トゥエーン『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』かなと思っていたのですが、トリップでない現代で死亡しての『異世界転生』の最初期の例については思いつかなかったんですよ。もしかして、これは『異世界転生』でもかなり早い方の例になるんじゃないでしょうか。何しろ発表が初代『ガンダム』と同じ年ですからね。


 それで、読んでみようかと思って図書館を調べてみたら徳間文庫版があったので借りて読んでみました。そうしたら、恐ろしく時代を先取りしたミリタリーSFなんですよ。これを1979年に書いたんだとしたら、田中光二への認識を改めないといけないと思えるような。


 ところが、読み進むにつれて疑問が出てきまして。主人公の転生はバックグラウンドとしては提示されますが、刺身のつま程度。さらに、いくら読み進んでも宇宙巡洋艦サタニアが出てこない。そのまま最後まで行ってしまいました。そして、あとがきに衝撃の事実が! 何と、この作品は1979年版のリメイクとして1992年に文庫書き下ろしで出された『銀河の聖戦士―戦いはわが運命さだめ』という別作品だったという(爆)。1992年のミリタリーSFなら時代相応でしたね(笑)。


 それで、1979年のオリジナル版の方は電子書籍化されてるみたいなので読んでみました。こちらは1979年らしいSF戦記でしたね。『ヤマト』以降『ガンダム』直前の作品としては、こんなものかなと。むしろ『さらば宇宙戦艦ヤマト』の影響が大きいのかなと思えました。


 これ、やっぱり小学生時代に読んだ漫画の原作っぽいですね。漫画の方は、かなり改編されてましたが。本作だと主人公たちの第三勢力としての戦いは、ほぼ序盤で挫折して全員戦死してるんですよ。ただ、それは無駄にならなかったという暗示があるという。あと、異世界転生しているのが本当に最初だけで、前世の記憶を取り戻してる描写はありませんでした。やっぱりバックグラウンドだけでしたね。あと、戦死してもまた転生するよってエクスキューズとしての意味があったのかなと。


 なお、作中にBL表現あります(爆)。第一ヒロイン(上官の娘、恋人未満)と第二ヒロイン(敵軍出身の超能力少女、恋人未満)の間にヒロイン格の美男子(冒険の相棒)がいて、しっかり恋愛関係になるという……って、これ実質的にヒロイン役は男じゃん!(笑)


 あと、クライマックスの宇宙要塞攻略作戦が妙に『銀河英雄伝説』のイゼルローン要塞攻略戦を思い出させるんですよね。ただ、初出はこっちの方が先です。まあ、よくあるパターンですし。


 そして、たった今思いついたのですが、徳間書店ってことで、この短編漫画が載っていた漫画雑誌みたいなのは、もしかしたら最初期の『リュウ』(アニメージュ増刊からスタートした方)の可能性があるかな……と思ってググってみたら、『リュウ』のVol.1の表紙にしっかり『銀河の聖戦士』の文字が! ……絵柄、全然少女漫画じゃないじゃん(爆)。うん、吾妻ひでおの『悶々亭奇譚』は読んだ覚えがあるし、これだわ。作画の早田光茂って『テクノボイジャー』のキャラデザの人なのね。あと、秋本シゲルの名義で『グレートマジンガー』とか『キャシャーン』とか『メガロマン』を子供向け学習雑誌とかに描いてた人らしい。


 ……にしても、何で『銀河の聖戦士』や『悶々亭奇譚』が記憶に残ってるのに、むしろメインに載ってたはずの『幻魔大戦』や『アリオン』の方をすっぱりと忘れてるんだ、自分!?(笑)


 とまあ、『00』をきっかけに古い記憶をたどっていたら、とんでもなく意外な所にたどりついてしまったのでした。閑話休題……って閑話の方が長いよ!(爆)


 さて、『00』の総評なのですが、その前にひとつ思いついたことがありまして。この『00』というタイトルなのですが、もちろん二号主役ロボの名前が「00ガンダム」なので、主役ロボ名を冠した番組タイトルではあります。ただ『Gガン』が「ガンダム・オブ・ガンダムズ」と最初は言っていたのと同じで、別の意味を持たせていたんじゃないかなと思いまして。


 というのも、ファーストシーズンの最後で「地球連邦」が結成されるんですよ。ここで思い出すのが、初代「ガンダム」というのは、地球連邦結成と共に宇宙世紀が始まったという設定だということです。


 つまり、この「00」というのは、あの「0079」の「00」、つまり宇宙世紀の始まりを意識したんじゃないかな、と思うのですよ。ちょうど、本作にわずかに先行して(2007年頭から)小説版『機動戦士ガンダムUC』の連載が開始され、そこで宇宙世紀の始まり、UC0001年の出来事が描かれていました。


 それとは別に、まったく新規の「ガンダム」として、しかし宇宙世紀の始まりを描いてみたかったというのが監督やシリーズ構成脚本家の意図だったんじゃないかなと推測したんですよね。いや、そんな話はどこにも載ってないんで、ただの妄想なんですが。


 その監督については、前に『地球防衛企業ダイ・ガード』のところで言及したことがある、水島精二監督です。私は『ダイ・ガード』を高く評価しているのですが、それに比べると面白さは少し足りない気がします。ただ、前に言及した「あえてツッコミ所を入れる」というのは『ダイ・ガード』でも使っていた手法なんですよね。


 そして、シリーズ構成にして、全話の脚本をひとりで手がけたのが黒田洋介です。実は、この人は『無限のリヴァイアス』でもシリーズ構成と脚本を手がけています。なお、その『リヴァイアス』について調べたときに、『リヴァイアス』の依頼をガンダムシリーズの執筆依頼と勘違いしたというエピソードを見かけました。あと、雑誌『B-CLUB』でガンダムについてのエッセイを持っていたという情報を感想欄でいただいたのですが、これはWikiにも書いてありました。つまり、前からガンダムの仕事をしたかったガンダムファンだということです。


 本作については「カクヨム」の感想欄で「二次創作くさい」という評があったのですが、そうした面はあるかと思います。


 ただ、それ以上に「要素を入れ込みすぎた」というのが私の評価になります。何度か書いているように、部分部分では良いところがあるのに、多く入れすぎたので焦点がぼやけて散漫になっているんです。ストーリーラインもメインストリームが複数あって、どれもそれなりに面白いし、中には凄く面白いものもあるのに、集中できないという。


 そして、それだけ要素を入れ込むことができたのは、シリーズ構成から脚本まで完全にひとりでやったからこそなのかなとも思えます。いよいよ念願のガンダムをやれることになって、思いっ切り全力を叩き込んだ結果として、入れすぎたんじゃないかと。


 このあたり、自分の創作でも考慮すべき点なのかなと思ったりしました。好きだからって、やりたいこと全部ブチ込んじゃだめなんですね。


 といったあたりで『00』については締めたいと思います。次回は『マクロスF』に行ってみましょう。


 

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