第320話 機動戦士ガンダムSEED DESTINY その11 女か母親か編

 『DESTINY』語りも11回目、そろそろ巻いて行きたいところです。今回は、その他の重要キャラについて語りたいと思います。サブタイトルはタリア・グラディス艦長についての考察から、こういう風に付けてみました。


 さて、そのタリア艦長について語る前に、語っておくべき人がいまして。シンとルナマリアの親友にして、ラスボスパイロットの片割れであるレイ・ザ・バレルです。


 白色の専用ブレイズザクファントムが愛機です。ルナマリアと違って、序盤から活躍していた印象があります。てか、ルナマリアがザクウォーリアなのに隊長機であるザクファントムがもらえているという。もっとも、シンたち三人は全員がエリートの赤服なんですが、士官学校で一番成績が優秀なのはレイだったという設定もあるようなので妥当なのかなと。


 パイロットとしては優秀で、中盤にラスボス機であるレジェンドをもらってからはシンと並んで大活躍をします。しかし、いかんせん最終戦の相手が無敵主人公であるキラだったので、一矢も報いることができずに撃破されてしまうという。このため、ロボ系ラスボスとしてはいささか物足りない印象もあります。この時点では撃墜までされてはいないので生き残っています。


 実は、こいつ前作ラスボスのラウと同じ遺伝子を持つクローンだったりします。で、最終盤に「俺はラウ・ル・クルーゼだ」とか叫んで出自を告白するという。


 幼少期はクローンの実験施設にいたのですが、そこからラウに助け出されたあとはラウとデュランダル議長に育てられたという。このため、デュランダル議長を「ギル」と愛称で呼ぶほど親しく、尊敬しているんですね。


 ただ、ラウみたいな破滅願望は無いんですよ。ラウと同じように寿命は短いのですが、むしろ前向きに生きてるという。シンについてはデュランダル議長のために利用しようとしているフシがあるものの、それと同じくらい親友として気遣ってもいたりします。


 要するに、ラウに比べればマトモに育ってるんですよ、こいつ。


 ただ、その分説得には弱い(笑)。キラとの戦いでも「君は君だ、彼(ラウ)じゃない」とか説得されて動揺したところを撃破されるんですね。何というか、このあたりの展開も『スパロボ』的だなあとか思ったんですが(笑)。


 そして、そのキラがデュランダル議長と直接対決して論争しているところに現れて、キラを撃とうとするものの、そこの論争で「遺伝子ですべてを決める」というデュランダル議長の「デスティニープラン」のいびつさに気付いてデュランダル議長の方を撃ってしまうんですよ。親とも慕っていて絶対視していたデュランダル議長を。


 最後は、そんなレイを許したデュランダル議長と、居合わせたタリア艦長の腕の中で「おかあさん」とつぶやきながら三人そろって炎の中に消えました。


 この人、ラスボスとしてもライバルとしても中途半端な印象はあるんですが、死に様は往年の美形ライバル的だなとは思いました。そして、何というか、凄く『スパロボ』的に生存IFが作られそうだという印象のあるキャラで、実際にググってみたところ、やっぱりそういう展開が多いという(笑)。


 さて、そのレイやデュランダル議長と一緒に炎の中に消えた人がミネルバ艦長のタリア・グラディスです。


 この人、有能なプロ軍人です。同じ女性艦長とは言っても素人くさかった前作時のマリューと違って、序盤から終盤に至るまで常に冷静的確な指揮官ぶりを発揮していました。


 最後の最後で、そのマリューが指揮するアークエンジェルとの一騎打ちに敗れてミネルバを大破させてしまいますが、なんとか撃沈は免れて不時着させ総員退艦を命じて、後事をアーサー副長に託して艦長としての職責を全うしました。


 とまあ、軍人としては有能でほぼ問題ない人なのですが、プライベートが問題ありまくりという(笑)。


 まず、デュランダル議長とは相思相愛の恋人でした。ところが、遺伝子不適合で子供ができないということでデュランダル議長とは別れ、別の男と結婚して男の子をひとり産んでいます。母親なんです。その子を残して軍に復帰して最新鋭艦の艦長という重責を果たしているキャリアウーマンなんです。


 ここまでは、まったく問題ありません。


 ところが、デュランダル議長がミネルバに乗ってきたときに、焼けぼっくいに火がついて一夜を共にしてしまうという。あんた不倫だろう、それ!


 ただ、だからといってデュランダル議長のやり口や思想に賛同しているかというと、決してそうではないんですよ。デスティニープランについても批判的でした。最後にアークエンジェルとの一騎打ちに負けたのも、そういう内心の葛藤が指揮に影響した可能性はあります。


 それでもデュランダル議長を見捨てることはできずに、ミネルバ不時着後に総員退艦を命じたあとは、乗組員のことをアーサー副長に任せて、本人はデュランダル議長の所へ向かったという。そしてキラとデュランダル議長の論争を聞き、レイがデュランダル議長を撃つところにも居合わせます。


 そして、瀕死のデュランダル議長を介抱しながらも、レイを優しく抱きしめ、デュランダルの「妻」として、レイの「母」として、彼らと共に炎の中に消えていきました。


 ええ、ラストシーンとしては決して悪いシーンではないです。デュランダル議長の野望の終わり方としても。これは彼のところで書こうと思うのですが、結局デュランダル議長のデスティニープランって、本人が結婚したかったタリア艦長と結ばれなかったからというのは大きいと思うんですよ。しかし、それを己の「息子」であるレイに否定され=「息子に乗り越えられ」、そして当のタリア艦長=「妻」に見守られて己の野望と共に死す。ラスボスとしては穏やかな死に方でしょう。


 ところが、これ、タリア艦長の旦那とか、息子からしてみると、とんでもないんですよ。


 まあ、旦那の方は設定すら一切出てこないんで、子供産んですぐに離婚したとか死別した可能性もありますから、一応置いておきましょう。あ、そうだとするとデュランダル議長との一夜も不倫とは言えなくなりますね。


 問題は息子の方ですよ。こっちは作中で写真見てるシーンがあったり、最後にキラにも「いつか会って欲しい」みたいなことを言い残しているんです。Wikiだとマリュー艦長への言づてみたいに書いてありましたが、私の記憶だとキラに言ってたような印象が残ってます。


 このシーン、2005年に見たときは特に思うところは無かったんですよ。私も人生経験がまだ足りませんでした。


 しかし、その後結婚して、実際に三児の親になってみたら全然違う印象になってしまったという。


 お前、母親が幼い子供を残して死ぬなよ! ……と。


 実際にね、人の親になってみたら、死ねませんよ。父親の私でこれですよ。増して自分の腹を痛めて産んだ母親だったら、もっと死ねないはずですよ。


 いやね、世の中には子供を虐待したり捨てたりする親もいますよ。この『DESTINY』世界だと人工子宮とかで育てていて、自分の腹の中で育ててない可能性も高いとは思いますよ。


 それでも、タリア艦長の場合には、明らかに子供のことを思っている親なんですよ。そうでなきゃ「いつか会って欲しい」とか言わないでしょう。


 それなのに、最後の最後で「母親」としてではなく「女」としての生き方を選んじゃったんですよ。デュランダル議長と共に死ぬというのは、つまりそういうことですよ。


 「母親」だったら、「子供」であるレイの手をとって、一緒に生きようとするはずなんですよ。いくら余命が短いとは言っても、レイの方は別に致命傷を負ってるわけじゃないんですから。デュランダル議長の間違いに気付いたレイと、共に未来に向かって歩み出していいはずなんです。実の息子のところに「お兄ちゃん」を連れていけばいいんですよ。それで、デスティニープランとは違う未来を目指して、短い道であっても共に歩んでいけばいい。


 でも、そうはせずにデュランダル議長の「女」として共に死ぬことを選んだんです。


 どうしても「何だかなあ」と思ってしまうんですよね。


 あ、中の人ネタについてはデュランダル議長のところで一緒に語りたいと思います。


 さて、次回は前作からの登場組について語ってから、最後にデュランダル議長について語って締めたいと思います。もっとも、議長までは行かないかしれませんが(笑)。

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