第233話 機動戦士ガンダム 第08MS小隊 その6 私はギニアス兄さんの人形じゃない編

 08小隊語りも6回目、ヒロインのアイナ・サハリンについて語りたいと思います。なので、サブタイトルはアイナが兄ギニアスから独立を宣言したセリフからいただきました。


 このセリフは雪山でシローと共に過ごしたときのものだったりするのですが、アイナはもっと前の話のときに自分のことを「人形のよう」と自嘲するセリフを吐いているんですよ。兄ギニアスの言いなりになってアプサラス開発に協力していることに疑問を抱いてはいたようです。それがシローとの恋愛感情を自覚して、自我を開放したと。


 ただ、それでも兄は見捨てられずにアプサラスの開発には最後までつきあっていますが、最後に基地から脱出する際には兄の意向を無視して、独断で連邦軍に期限付き休戦協定を申し出ます。傷病兵を乗せたケルゲレンを「病院船」と言い張り、その脱出までの時間を稼ぐべく休戦の証としてアプサラスⅢのコクピットハッチを開放して自分の身を敵にさらすという。


 ただ、この休戦はギニアスがアプサラスⅢのコントロールを確保して勝手に攻撃を開始することで破綻。ケルゲレンはジム・スナイパーの狙撃を受けて轟沈します。そのことで怒りに我を忘れて自らも攻撃しようとしたアイナですが、シローのEz-8を見て我に返ります。そこでギニアスを止めようとして、逆に拳銃で撃たれてハッチから落とされますが、そこをシローに救われるという。


 なお、撃たれたことについては、いわゆる「懐中時計が無かったら即死だった」状態(笑)でした。ちなみに、この懐中時計は第1話からアイナの持ち物として登場し、時間確認のためシローに貸されたまま別れたあと、雪山で再会したときにアイナに返されるという、二人の絆を象徴する小道具だったりします。ちょっとググってみたら、これ商品化されてたのね(笑)。


 結局、シローのEz-8に二人乗りしてギニアスのアプサラスⅢと対峙し、相打ちに持ち込みます。結果的に兄を殺すことにはなっていますが、ギニアスは病気で余命いくばくも無い身でしたし、その狂気を止めるには殺すしかなかったのは仕方ないことでしょう。


 最後はシローと幸せに暮らしていることがワンシーンだけ見られたことはシローの所で書いたとおりです。


 さて、シローの行動が軍人としては問題がありすぎることは前話で指摘しましたが、これはアイナには当てはまりません。なぜなら、彼女は「軍人ではから」です(爆)。そう、軍属ですらない、ただの民間人なんですよ!


 だって、階級がありませんから。純粋に「ギニアスの妹」としてアプサラスのテストパイロットをしていたという。その割に軍人たちにも命令したりして、それが通ってるんですが、これ実はジオン軍だと結構普通にあるという(笑)。


 何しろ、初代『ガンダム』のランバ・ラル隊の事実上の副司令官でランバ・ラル戦死後に指揮権を引き継いだハモンも階級の無い民間人ですから。ランバ・ラルの事実上の嫁という立場だけでランバ・ラル隊を従えていたという。それと同じなんですよ。


 それどころか、初代『ガンダム』のTV版では、ガルマの恋人だったということだけで、本来は「連邦側の市長の娘」であるイセリナすらガルマの仇討ち部隊に参加しているという(笑)。まあ、あれはイセリナ本人も言ってたとおり、本来は同乗してただけのはずなんですが、部隊指揮官が結構イセリナに気を使って言うことを聞いているという(爆)。ジオン軍では「高級幹部の身内の民間人への忖度そんたく」(笑)が結構横行してるっぽいんですよ。


 本作でも、アプサラス開発部隊の副司令官であり、軍人の実質的なトップであるノリス大佐がアイナに従っているので、アイナは事実上ギニアスに次ぐナンバー2なんですよ。


 このノリス大佐も、ジオン軍人というよりはサハリン家の家臣という趣があるのですが、これまた軍閥化してるジオン軍では普通にあることなんですよねえ。TV版のマ・クベ大佐とか、どう考えてもキシリアの個人的な家臣みたいなモンでしたから。


 一般的な軍隊の常識からすると色々とおかしいのですが、ガンダム世界、特にジオン軍だとアリだったりするんですね(笑)。


 ただ、疑問なのは第1話でアイナが何をやっていたのかということだったりします。これは乗ってたザクの格好からして、リック・ドム開発のための脚部ロケットのテストということだったようです。その目的は、まあいいでしょう。


 問題は、アイナが「何で」そんなことをしていたのか、ということです。アイナが軍人だったなら、何の問題もありません。テストパイロットとして命令されたテストを行っていただけです。でも、彼女は民間人です。それも、単なる「ギニアスの妹」であって、別にニナ・パープルトンみたいなMS開発企業メーカーの職員ですらないんですよ。


 これが、アプサラス関連の開発に必要な技術のテストだったら、まだギニアスの命令で何かをテストしていたと言われても納得できるのですが、リック・ドムの宇宙推進用ロケットって、アプサラスに使えるような技術がどこにも無さそうだという(笑)。


 一応、設定上アプサラスⅢはリック・ドム用のジェネレーターを三機積んでいるそうなのですが、あのザクに積んでたのは脚部だけなので、ジェネレーターは関係無さそうなんですよねえ。それとも、あのザク実は脚部だけじゃなくてジェネレーターもリック・ドム用のものに換装して流用のテストでもしてたんでしょうか?(笑)


 なお、アイナのパイロットとしての腕はゲームとかだと大したことがないように設定されていることが多いのですが、高機動型のテスト機だったとはいえザクにリック・ドムを継ぎはぎしたような機体で三機のジムを撃破しているので、実は結構凄腕なんじゃないかとか思ったり(笑)。


 ……と書いてたら、あとで護衛MSも三機居たということを発見しました。テリーのセリフで説明されてるだけだったので失念していましたよ。


 健気かつ一途ということでビッチ認定とは正反対系という非常に正統派のヒロインだったりします。シローとのお付き合いの結果として彼の理想主義を伝染うつされた感はありますが、これはまあジュリエットである以上しょうがないかと(笑)。


 なお、声優は当時アイドル声優として人気だった「永遠の十七歳」井上喜久子です。彼女については、はるか後年に『鉄血のオルフェンズ』でカルタ・イシューを演じたときには「とうとう、こんなヨゴレキャラまで演じられるようになったか」と感慨深かったものです(笑)。あ、これ褒め言葉ですから。前から書いているように、脇役の方が演技力要るんですよ。特にヨゴレキャラみたいなのを破綻させないように演じるにはベテランの味が必要なんです。


 さて、次回はアイナの兄で、ラスボスであるギニアスについて語りたいと思います。

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