第163話 機動戦士ガンダムF91(1991年)

 本作は劇場版のみという珍しいガンダムでして、リアルタイム上映時には未見でした。のちに一回だけTV放映時に見ています。CS放送だったかもしれません。アニメ誌等で設定は知っていますが、小説などは読んでいません。また、スパロボには最初期作から登場しており、むしろそちらでの印象が強い感があります。


 本作の主役機F91は、実は正式にはガンダムとは名乗っていません。作中で顔が似ているからという理由でガンダムと呼ばれるようになりました。大学のサークルの先輩が「もしザクレロに似てるって勘違いしたらザクレロF91って名前になったはず」というジョークを飛ばしていましたね。


 ただ、裏設定では開発元のサナリィの幹部に初代ガンダムでホワイトベースの乗組員だったジョブ・ジョンが居るので、いちいちガンダム顔にしたことからも、そう名乗ってはいなくてもガンダムを意識していたことは確かでしょう。


 こいつに限らず、F91時代の最新型MSは身長十五メートル級に小型化しています。そのためか、旧式のジェガンなどは十八メートル以上の大型MSなのに、敵のクロスボーン・バンガードの小型MSにまったく対抗できないというように作中では描写されていました。


 F91は、ガンダムとしては珍しく胸に黄色いエア・インテークがついていません。胸全体にグレーのエア・インテークがあるのがデザイン上の特徴です。


 特に変形機構などはなく、ヴェスバーという強力なビーム兵器を背部バックパック固定の形で二基装備していますが、肩の上からキャノン状に撃つのではなく、脇の下から腰だめのビームライフルみたいな形で発射します。こいつがスパロボだとZガンダムのメガビームランチャーのような大型ビーム砲と対等の威力を持っており、スーパー系の必殺技相当の武器でした。


 また、小型の割に高出力なので機体が過熱しやすいので放熱フィンが機体のあちこちに配置されており、それでも廃熱しきれないほど加熱すると頭部のフェイスガードが開いて口のような排気口から廃熱が行われます。


 これ、ガイキングのフェイスオープンとか、ダイケンゴーの口が開いて炎を出すのとかと同じ系のギミックなんですよね、リアルロボのくせに(笑)。もっとも、こっちの口が開くのはパワーを使った結果であって、ガイキングのようにパワーを使うためではないのですが。


 また、この高熱のために機体の表面塗装だか装甲の最表層だかが剥離はくりして、高速移動時にあとに残って残像になるという現象が起きます。これがセンサー上だと質量を持ったように誤認識されるので、「質量を持った残像」として敵MSのコクピット内のモニター上では、まるで分身したように見えるという。


 ……と理屈づけがされているのですが、要するに「影分身の術」が使えるんですよ(笑)。これがスパロボでも機体の特殊能力として再現されていました。


 作中では問答無用に強いMSでして、リアルロボでありながらもスーパー系の活躍をするという意味では、ZZを引き継いで初代ガンダムの伝統に回帰した感じがありました。


 ほかに、Gキャノンというガンキャノン似の小型MSとか、ガンタンクR-44というタンク形態からMS形態に変形する小型MSも出てきて、初代ガンダムを彷彿とさせるのですが、いかんせん、こいつらは小型MSではあっても旧式の味方雑魚扱いでした(笑)。


 じゃあ敵はというと、これがカッコ悪いんですよ。敵であるクロスボーン・バンガード軍のMSは、これまでの敵MSの伝統であるモノアイを積んでいません。かわりに、第一次大戦時の防毒マスクみたいな丸眼鏡状のカメラアイになっているという。これ、押井守監督の実写映画『紅い眼鏡』(1987年)のプロテクトギアあたりを意識したんじゃないかと推測しているのですが、正直言って全然カッコ良くないです。


 ……とか書きながら、実は『紅い眼鏡』見たことないんですよね(爆)。いや、当時のアニメ誌でビジュアルは散々見てるんですけど。閑話休題。


 また、さすがにライバルやヒロインには似合わないと思ったのか、ライバルやヒロインの搭乗する機体は細いゴーグル状のカメラアイになっています。


 それから、敵MSの武装として特徴的なのが、ショットランサーという槍でして、馬上槍のような長い円錐形をしており、格闘武器として使うほかに、先端部をミサイルのように撃ち出すという実弾系の武装にもなるという。Wikiによると射出原理はレールガンで、弾頭部に火薬も積んでいない純質量弾なので誘爆の危険は無いそうです。コロニー制圧のための非ビーム系の武装なんだとか。


 また、敵味方とも本作から登場する防御装備がビームシールドです。ビームサーベルが剣状にビームを収束できるなら、盾状にしたっていいじゃないという理屈で展開されるビームの盾ですね。このため、同じビームであるビームライフルを防げます。ただ、普通のビームライフル以上の威力があるヴェスバーだと貫通も可能という。


 まあビームを盾状に展開するのは出力に余裕がないと無理なので、高性能の小型MSでないと装備できないということで、旧式の大型MSには装備されていません。


 このあたり、なかなか魅力的な設定はいくつかあるのですが、いかんせん敵MSのデザインが気にくわなかったので、この頃はプラモにもまったく手を出していません。弟はF91のプラモだけは買ってましたけどね。あとプラモのみの企画で、本作の前日譚にあたるF90のシリーズもいくつか買ってたなあ。


 ストーリー的には、富野監督が「わかりやすさを優先した」と言っていたとおり、そんなに難解ではないです。ただ、いかんせん尺が短すぎました。TVでなら一クール十三話かけてやる内容を二時間に押し込んだモンだから、説明不足すぎる上にキャラの行動が唐突になってしまうという。


 例えば敵軍からアンナマリーという女性パイロットが寝返ってくるのですが、その心情とか細かく描写できないので唐突すぎるという。何だかワケわからんうちに寝返って味方側で戦死したなあという印象しか残っていません。


 ヒロインのセシリー・フェアチャイルドも、敵軍にさらわれたと思ったら、実は敵軍のラスボスの娘でベラ・ロナの名前で王女様扱いになり、専用機を与えられて戦場に出てきたら主人公シーブックと再会して、最初は気付かず戦うけど結局寝返って……と目まぐるしすぎる展開です。ジェットコースターノベルかよ。


 ラスボスの鉄仮面は、本名はカロッゾ・ロナというセシリーの実父なのですが、作中でも鉄仮面と呼ばれており、その名の通り鉄仮面を被っているというリアルロボにしてはスーパー系悪ボスのようなキャラだったりします。実は弱気な男が虚勢を張るために仮面を被っているのですが、スパロボでの「ふはは、恐かろう!」ってセリフの方が印象に残っているので危ないオジサン系ラスボスという印象が強かったり(笑)。


 実際、巨大MAラフレシアを駆って実の娘の乗る機体も撃墜し(ただしセシリーは無事)、無差別殺人兵器バグで大量殺戮を行うなど、歴代ガンダムシリーズのラスボスの中でも一番危ない奴として描かれていた感があります。


 総評としては、映画としての完成度では「逆シャア」には一歩劣るかなと思いました。あっちは、前提として初代ガンダムやZガンダムを知らないと意味がわからないという欠点はあるものの、一本の映画としてはよくまとまっていて面白かったので。


 それに対して本作は、詰め込みすぎのせいで、本来わかりやすいはずなのに展開が唐突すぎてついていけないという欠点があり、これが一本の映画としての完成度を下げていると思えます。


 それから、主題歌の「ETERNAL WIND〜ほほえみは光る風の中〜」は、紛れもない名曲であり、Zガンダムでも主題歌を歌った森口博子の一番のヒット曲となって、この歌で紅白歌合戦にも出たという文句の付け所のない歌なのですが……本来は挿入歌のはずだったのを、富野監督が気に入って主題歌にしてしまったという。


 このため、本来主題歌を予定されていた「君を見つめて -The time I'm seeing you-」の方があぶれてイメージソングになってしまったんですね。こっちの方も曲だけでなく歌詞も非常に良く、作品のテーマを非常に良く表していたのですよ。それもそのはず、これ作詞が井荻麟=富野監督じゃないですか!(笑) シングルCDには両方入っていたのですが、私はこっちの方が好きでした。主題歌落ちしたのが惜しい名曲なんですよ。


 そのため、携帯ゲーム機ワンダースワンで発売された「スーパーロボット大戦COMPACT」(1999年発売)でF91系ユニットのBGMに「君を見つめて」の方が使われていたときには感動したものです。当時ネットの掲示板にその話を書き込んだら、同じ反応をした人がいたので、この曲の方が好きな人は私以外にも居るんだと知って心強く感じたものでした。


 この作品は一応作中でハッピーエンドで終わってはいますが、本来は続きをTVシリーズで作るはずでした。しかし、結局そのTVシリーズは作られず、本作の続きについては、長谷川裕一の漫画『機動戦士クロスボーン・ガンダム』に引き継いで描かれるという形になります。残念ながら、これは未読なんですよね。長谷川裕一は嫌いじゃない……というか『すごい科学で守ります』シリーズとかは大好きなのですが、残念ながら絵柄が性に合わないので『機動戦士VS伝説巨神 逆襲のギガンティス』ぐらいしか通して読んだことがないんですよねえ(爆)。


 大人の事情があったのだろうとは思いますが、TVシリーズの尺できちんと見たかった作品でした。

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