ミセスムーアのティーサロン
琳谷 陸
第1話 どうすれば良いでしょう?
第1話 どうすれば良いでしょう?
世の少女達はこの難題をどう切り抜けているのか?
「服が、ない……」
美しいガラスの
誓って現在
人形めいて整った顔に、さらさらの長く絹糸のような光沢をもった銀の髪。ライラックの花のような深い青の瞳と白雪の肌に淡い薄紅の唇。そして現在の服装は
ルベル・ムーア、十六才。通称ベルは、感情が読み取れないと良く言われる顔でさえ現在の絶望が
レースやフリルたっぷりの乙女全開な服と、それに合わせた靴やバックなどの小物達。好きな人にはトキメキの宝箱。しかし、ベルにとっては
「ひ、一つくらい……」
マシな物があるはず。
しかして箱の底に、希望はあった。
「あ……」
少し
「助かった……」
神よ……!
思わず
「あのね、ダーリンを探しに行きたいの」
「……はぁ」
ふわふわの金髪に青空のような大きな瞳。ミルクのような真白な肌。見た目は幼女と言うと流石に怒られるかも知れないが、目の前で音符マークとハートマークを飛ばしそうな伯母はどう見積もっても
(本当に、年取ってない感じで怖い)
幼い頃、両親が他界して以来ずっと後見人として面倒をみてくれていた伯母が、ベルに戻ってきて欲しいと言ったのは約一年前。
その時は手紙で、一年後にどうしてもそれまでの仕事を辞めて戻ってきて欲しいと書かれていた。
普通、仕事を辞めて戻ってこいと言われて従うかと言えば難しいのだが(好きな仕事ならなおさら)、ベルにとって母にも等しい人で唯一の血縁である伯母のお願いは絶対だ。
かくして、一年経って約束通り惜しまれつつそれまでお世話になった仕事場を後にして戻ってきた訳だが。
「それでね、ベルちゃんにミミの後継ぎになって欲しいなーって!」
「あの……伯母様の後継ぎとは」
現在、北西の島国『イングリッド』にある
灯りはランプだし、水は井戸から
(私は
そんな場所で、伯母は暮らして継がせたい仕事まであると言うのだけれど。
「んーと、お茶して悩み事聞いてあげて、
この荒野に人なんて来るのがまず驚きなんですが。
ついでに、大変失礼だがこの
「伯母様……私には無理です」
「えー。大丈夫よ? だってベルちゃんだし」
何ですかそのどこも大丈夫な
「私には
「そんな事ないと思うけど。お馬さんも人間も同じだもん」
「伯母様、本当に相談に乗れて依頼人の方から満足頂けているのですか?」
怒らせてません?
クラクラしそうな伯母の言葉にそう言いつつも、仕事は辞めて来ている訳で。
「じゃあ、お試ししちゃう?」
「……伯母様、お願いですから、わかるようにお話して下さい」
「んとね、ベルちゃん、ミミのお願い聞いてくれてお仕事辞めて来てくれたでしょ?」
だ・か・ら、と。
「しばらくお試しでやってみて、どうしてもダメだったら元のお仕事に戻って良いよ。もちろん、その時はちゃーんとミミが戻れるように頼んであげる」
「……戻れるんですか?」
「うん。アルちゃんの所が良ければ戻してあげるし、他の所で他のお仕事したかったらそれでも良いよー。あ、でもでも、ずぅっと決めてくれないと困るし、一日で無理って言われるのも困るから、一年はお試しね」
「わかりました。一年なら……」
きちんと仕事を覚える時間と、戻れる選択肢まで用意してくれるなら、悪い話ではない。
むしろとても良い話しだ。
普通ブランクが少しでもあると再就職は難しいのだけど、戻れるようにしてくれるという伯母の言葉に疑いは欠片も抱かなかった。
(アーデルハイト様のお屋敷に迎えて頂けたのも、伯母様のおかげでしたし)
それに、伯母は見た目も言葉遣いもこんなだが、約束を破った事は無い。
「うふふ。決ーまり! じゃあ、明日からお試しスタートね。大丈夫だよ。当分必要なものは、ミミが用意してあげるから」
「はい。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いするんじゃなかった……」
朝、目覚めて伯母の姿が見えず探した所、食堂のテーブルの上に用意された朝食と共に、メモがあった。
【お試しスタート! ベルちゃん頑張ってね! 一年後にダーリンと戻るから。再会した時にベルちゃんが立派にティーサロンやってるのを楽しみにしてるよ! サロンの準備の仕方とかは書斎に手帳置いてあるから見てね。ファイトー!】
ファイト、じゃありません。
「…………」
正直、そこまでならマシだった。
問題はもう一枚あったメモ。
【追伸 ベルちゃんの可愛くないダメダメなお洋服は処分しちゃったので、ミミのクローゼットから好きなの着てね! お直ししてあるから着られるよ!】
そうして、ベルはクローゼットの前で打ちひしがれる事になったわけで。
「伯母様……」
(急すぎると言うか、お試しってこういうものですか?)
マニュアル渡して丸投げはお試しと言えるのか?
そんな事を考えても仕方ないのはわかっているけど、こう思わずにはいられない。
「私は、どうしたら良いのでしょう……」
やるしかないとわかりつつ、ベルはがっくりと肩を落として座り込んだ。
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