鳩の閃き

古新野 ま~ち

第1話

23歳、極端な弱視となり失明することになった。僕はこの事を前から知っていた。そして、その過程を記すことで、現代の医療の発展に寄与することを祈るばかりである。嘘である。

発端は太陽の眩しさが恩恵に思えた最後の夏が始まったときである。


頭上から僕の名を呼ぶ子がいた。愛だか藍だか哀だか亜依だか忘れたが読みがアイという向かいの棟に住む同級生の子が、黒いプラスチックの塊から、赤いレーザーのようなものを発して15年後に薫くんは重い病気で死んじゃう呪いをかけたと嬉びを隠さない上ずった声で叫んでいた。幼稚さを感じさせる拙い言い回しであり、平時なら10や20倍は言い返すであろうが、諸事情があった。


見上げるとその子の鳩尾あたりに可愛らしい少女がいた。当時人気だった少女向けのアニメがプリントされているTシャツであり、これがまた哀れみを誘う記憶に触れる。長期シリーズだったアニメとこれから長期シリーズになるアニメの間に放映された、ともすれば観ていた子達しか思い出せないようなアニメである。黄色の髪を長く伸ばして憂いのふくんだ蒼い瞳の少女が印刷されていた。その瞳が僕のたった今までしていた行いを糾弾するかのごとく思えた。アイちゃんは子供が六人ほど並んで5秒くらいなら滑ることができる大きさである滑り台の上にいた。


その着地地点が砂場であり、また嫌いな給食をビニール袋に入れて埋める場である。僕は煮込んだ玉ねぎを埋め、近所の博信くんはシメジをはじめキノコ類を埋める。不法投棄は僕だけではないが、この場にいたのは僕だけである。


僕は親にもバレたことの無い隠蔽が露見したため、狼狽しながらも朗々と言い訳をした。だが、彼女の目的は僕を告発することにあらず、滑稽な様を晒しただけであった。

彼女に特別なことをしたわけではないが、何か禍をもたらす呪いをかけられた。そのような陰気さを感じさせるオカルトからは程遠い、容姿の整った髪もくくれないくらいマニッシュな彼女からは想像もつかない趣味である。


彼女が蒼い瞳を連れて早足に去ったにも関わらず視線の気配が身体のどこかに凝っている気がした。よもや、金縛りの呪いもセットなのかと、ここでようやく肝を冷やした。歯の無い口でうなじをしゃぶられているような不快さを感じると、背後には血が表面に露出したのではないかと思わせるような鳩の目があったのである。眼光が私を貫いた。止まれ、と命じられたように思えた。巨体な鳩だ。鳩はたった今、空から落ちてきたようだ。過去は僕のものであり、改変されることは無いと思うが、こればかりは宇宙人にでも拐われて金属片を埋め込まれたが故のものだと信じたいが、確かに鳩が一言だけ喋った。

坊やは、可哀想だな。


鳩は飛び去った。僕がこの世から光を失してはじめに脳裡に浮かんだのは、あの鳩の赤色光であった。

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