覇道の神殺しーアルカディアー
東 将國
第1章 神殺し
Encounter of the beginning
「ハァ…ハァ…ハァ…」
少女は走っていた。夜の森の中を必死に走っていた。服は汚れ、体は無数の傷が付いている。
「待ちやがれぇ!」
「絶対に逃すなよ!!」
少女は数人の男に追われていた。相手は大の大人である。少女が追いつかれるのは時間の問題だった。
「あっ!」
少女は木の根につまづき転んでしまった。真っ暗な森の中である。足元もまともに見えない。
「やっと追いついたぞ!こんなとこまで逃げやがって。」
追いつかれてしまった。起き上がろうにも体力が尽きかけている。もうろくに走ることができない。
「もう逃がさねえぞ嬢ちゃん」
少女が顔を上げると、追っ手の男たちに取り囲まれていた。少女は逃げ切れないことを悟った。
(嫌だ!誰か…誰か…助けて!)
それは声にもならない悲痛な叫びであった。声に出したところで、こんな森の中では助けが来るはずもなかった。
「さあ、俺たちと来てもらおうか」
男の手が伸びてくる。もうダメだと少女が諦めかけたその時、
ゴオオオオォォォォォォオオオッッ!!!
周囲が急に明るくなった。今は夜だったはずだ。さらに厚い雲で月や星の光すら見えていなかった。そんななか、昼間のように明るくなったのだ。
「な、なんだ!?急に明るくなったぞ!」
「ギャアァァッッ!!熱い!!アツイィィ!!」
「燃えてる!周りの木がいきなり燃えたぞ!」
暗闇が昼間のように明るくなったのは、突如木々が燃えたからだった。
「なに…これ…」
どうやら周囲の木だけではないようだった。辺り一面、見える限りの景色全てが炎によって包まれていた。
一瞬の出来事だったため、追っ手の男数人が炎に焼かれたようだ。追っ手が減り、混乱している間に逃げようと思ったが、炎に囲まれているのは少女も同じだった。
「こんな大規模な炎を一瞬で!!まさか…お前がやったのか!」
なぜか、少女が疑われた。こんな一瞬で炎で取り囲むことなど、出来るはずがない。それこそ魔法でもない限り。
「いや、こいつの仕業じゃねえ。こんなこと出来るの、奴しかいねえ!!」
「ま、まさか?!」
男たちはこの現象の正体に心当たりがあるようだった。だが、男たちは気づいていなかった。少女だけが気づいていた。少女たちの上空の厚い雲だけがぽっかりと、穴が空いたかのように晴れ、月と星の光が射し込んでいた。炎のせいなのか、普段よりも強く光っているように見えた。
「一体、何が起こっているの?」
あまりに異常な光景だった。周囲は炎の海となり、空には大穴が開いている。こんなもの、自然現象のはずがない。少女は本当に魔法なのではないかと疑わざるを得なかった。
「お、おい!!あれ!!」
一人の男が空を指差して驚いた。空の異常に気づいたのかと思ったが、男が指差したのは別の存在だった。
「おいおい…マジかよ?!なんでこんなとこにいやがるんだ!」
男が指差した存在に少女も気づいた。月明かりに照らされる何かが空に浮いていた。その何かはゆっくりとこちらに近づいて来た。
「…………」
人だ。空に浮いていたのは、人だったのだ。男たちは気づいていたようだが、少女は分からなかった。なぜなら、人間が単体で宙に浮くなど信じられなかった。
(この人が、この炎を?どういうこと?)
少女は空から降りて来た人を見た。月明かりと炎のせいで顔がよく見えないが、幼さが残りつつも大人びた雰囲気の少年だった。顔と雰囲気では年齢までは分からないが、身長的には少女と近い年齢かもしれない。
「あ、あなたは…?」
少年の正体を聞こうとしたが、少女は疲れ果てて倒れてしまった。男たちから逃げ続け、異常な光景の連続による混乱。心身ともに限界が来ていたのだ。少女は眠るように気を失っていった。
「…………」
少女が覚えていたのは、少年のうっすらとした、心から安心できるような不思議な笑顔と、周囲全てを焼き尽くしていく業火。そして、その業火に焼かれていく男たちの叫びだけだった。
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