2.山城家
少し歩けば見えてくる、『和風の高級料亭』を彷彿とさせる立派な邸宅。
その門前に彼が良く見る女性は立っていた。
山城飛鳥。
青みが強めな烏羽色の髪を金にて縁取りした紺色のリボンで、ポニーテール状に纏めた髪型。青色の瞳に白みがかった肌。リボンに合わせた色合いの「
彼女が扶桑大和の幼馴染みにして、山城家内外から高い実力故にその将来を期待されている『アームド・スチューデント』の一人だ。
「定刻の5分前までに必ず到着……どれだけ物言いが変わっても本質は変わらんな」
「まぁ、幼馴染みに恥をかかせるのは真っ平御免だからな」
言葉だけを捉えれば「やや上から目線な物言い」に思えるが、これはあくまで「幼馴染みとして付き合いの長い『彼』との会話」だからこそである。
証拠に(彼女を良く知る者であれば気付ける程度、だが)普段の「凛とした雰囲気や表情」が柔和な物へ変化していた。
「中に入って最終調整をすると良い。恐らく『模擬戦』の締め括りは私達で行うだろうからな」
「だよなぁ……。評価されてるからなんだろうけど」
彼女の先導で山城家内へ入っていく。
立派な庭園には草花が咲き誇り、池では
彼が教えて貰った範囲の知識だと、山城家は戦国時代からこの地へ定住した武家にして、明治維新や二度に渡る世界大戦を乗り越えながら武術指導を続けていた家柄である。否、今も指導を『続けている』。差異はあれど、武術の『方向性』が変わったに過ぎない。
道場内へ着くと既に来ていた、自分よりも年長の門下生一同がバラバラ(胴着からスーツまで)の格好で各自、準備をしていた。
インベーダー襲来までは「競技としての『剣道場』」だった、ここも今は「対インベーダーを意識した『総合武術場』」になっている。
その為、格好も自由(護身から撃破まで、目的の範囲が広い為)で得物も持ち込み可となっている。無論、模擬戦で殺傷沙汰が起きては本末転倒故に『近接武器は安全装置を装着しておく事。射撃武器もペイント弾を利用し、防具等に付属の模擬戦用判定装置を起動させておく事』という通達が行き渡っている。
「(まぁ『お互いに』準備運動位しか、する事は無いんだけどな)」
実際問題、ここへ辿り着く前から模擬戦用に得物を調整済みである(件の刀は鞘自体を『安全装置状態』へ切り替え済み、ショットガンもペイント弾用のカートリッジに交換されている)以上、彼に残っている準備はそれ位だ。
彼女も「その真面目で、努力家」な性格柄、手入れや調整を怠るとは思えない。それに彼女の戦闘スタイルや今の恰好から得物も『装備済み』な事は「幼馴染として」容易に推測出来る。
そんな思考を遮る様に『パシィィィン!』という、近接系武器に装着された安全装置特有の機械的な効果音が景気良く響き渡る。
音源の方へ向けば、「帯刀した『侍』」が如き格好の壮年男性を前に「全身に電流が走った様に」……否、『実際に走って』身悶えている、黒のおかっぱ頭に道着姿をした少女、という『年齢の離れた相手と行う模擬戦』では珍しくない光景が見えた。
「心意気は良し。されど、無策で挑もう物ならばこの様に返り討ちとなる。今、味わっている苦しみと共に心へ深く、刻み込むが良い」
相手が苦しんでいるのを理解した上で、敢えて淡々と問題点や次へ活かす為に必要な事を伝える男性。
彼こそがここ、『山城道場』師範にして山城飛鳥の父、『山城勝清』その人である。
彼は未だに「模擬戦用判定装置から発せられた電流(安全装置が当たった際の衝撃に応じて変化する。無論、死に至る程の強さは生じない)」で身悶えている少女を抱えながら、道場の角へ運び終えると弟子(大和と飛鳥含む)に適切な指示を飛ばしていく。
そして、少女の様子が落ち着くタイミングを見計らい、二人へ「自分の元へ来る様」それとなく合図する。
二人も『師範としての彼』の立場を理解しているが故にあくまで「それとなく」近寄る。
「挨拶が遅れてすまないな、大和君」
「いえいえ、師範の立場を考えれば自分は後回しになって当然ですから」
「父上。『彼女』が相手ならばやはり……?」
「ああ。今日も殺気立ったままに突撃……いや、『特攻』してきたのでな。本来であれば適度な『ガス抜き』を優先すべきところなのだが……」
状況と立場から少女を視界に入れつつ、『現状』について小声で話し合う。
少女(と保護者)が道場を訪れた日の様子は丁度、帰り際だった大和の記憶にも残っている。
小学校高学年位の幼い容姿を上回る程に主張していた、『憎悪』と『殺気』。後日、山城家と交流が深い者だけに告げられた「訪問理由と通達」は納得させられるのに十分な物だった。
「つい先日、兄がインベーダーに襲われて死亡。『復讐する為の力』を求めて訪れた模様。断れば、少女の精神へ更なる悪影響を及ぼす恐れがあった為、敢えて入門を許諾。各人にはすまないが、『彼女が道を踏み外さない』様、協力して頂きたい」
これが『現状』。
罪無き者さえもインベーダーの襲撃で命を落とし、戦わなくても良かった者が『復讐する為の力』を欲して、戦いに身を投じる。
その過程において、物語で現れる様な『救い手』がやって来る保証など、何処にも無い。
だからこそ、復讐以外の理由で道場へ訪れる者は鍛錬を欠かさない。
これ以上の犠牲者を出さぬ様……自分が「いざという時、やって来る保証も無い『救い手』の代わり」となれる様に。
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