21世紀のローマ帝国

@patton

第1話

 この国が成長を止めてから、かれこれ20年になる。学校を出てから生涯働ける環境にありつけなかった者どもは今や40歳前後になる。いいオッサン、オバハンである。ろくに挨拶も出来ない、名刺交換もした事がない、怖い上司にどやされた事もない、この立派な中年達が大量に発生している。


どうやって食っているのか?簡単である。自分ではさしたる事もしていない、ただこの国の右肩上がりの世界史上類例のない高度成長の反射的利益のみを享受し小銭を貯め込んだ70代の親にたかっているのである。たかっていける内はまだいい。それも出来なくなると、その狂気はたちまち殺意となって凶行に及ぶのである。家庭内で処理される狂気の内はまだいい。それも出来なくなると当然、それは外に向かっていくのである。


 かつて「鉄の女サッチャー」を描いた映画があった。小さな乾物屋出のその元宰相は、半ば認知症を患いながら、たまたま入った乾物屋でパックの牛乳の値段の高さに驚くシーンがある。一般消費税がこの国より高く失業率も高い鉄の女の英国でさえ年1%以上は経済成長を続けてきたのである。フォークランド紛争があった、北アイルランド系のテロは日常茶飯事の英国でさえ成長してきたのである。


 では、なぜ極東の猿の国は成長を止めたのか?大蔵官僚が悪いのか?プライマリーバランスとは何なのか?そうまでして達成しなければならないのか?


国会を真正面から見て右側にタワー形状のビルがある。外資系の生命保険会社の本社ビルである。広告は一切しない、ただただ国内富裕層とやらに狙いを付けて営業している。それはいい。ただこのビルに入ると驚く。確かに応接室などは袖壁をなどをあしらい一見それらしく見せているが、それ以外、エントランス、エレベーターホール、どれをとっても簡素なのである。もちろん地下で赤坂見附とも国会議事堂前駅とも直結していない。従ってちょっとした飲食店街もない。

「なるほどー、これが新自由主義、アメリカ流合理主義というやつか?」

答えは否である。即撤退、早い話がいつでもぶっこわせるように造ってあるのである。


確かこのビルは30年ほど前、火災によって全焼したホテルがあった。オールバックで蝶ネクタイをした責任者が金をけちってスプリンクラーの設置を怠ったが如き報道だったが、本当にそうなんだろうか。


国会を真下に眺め半ばこの国を実質的に支配しているこのビルの住人達は、ただのサラリーマンと化した国会議員達を誇らしげに見下して言う。「ドッジラインとIМFで70年掛けて太らしてきたこの猿の国は、もう食うところがない。そろそろ帰るか。後は猿同士、勝手に殺しあうだろう。その時はまたお古の銃でも売りつければいい。もちろん議員以外の民間人を使って。そのほうが早く法律改正ができる」そうほくそ笑むのである・・・

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