アホな西条と親友の最上(もがみ)「この前さ、俺河童に勝ったんだ」
ばんがい
第1話「この前さ、俺河童に勝ったんだ」
西条と最上(モガミ)の出会いは中学の入学式のあと、教室へ戻って出席番号順の通りに席へ座ろうとした時が始まりだ。
「おーい!お前なんでそんなところに座ってるんだよ。俺の前か後ろだろ。こっちこっち!」
突然話しかけてきたおそらく違う小学校から来ているだろう面識のない同級生。その男こそが西条だった。
後でわかったことだが、西条は最上の胸につけてる名札をモガミではなくサイジョウと読み間違えていたのだった。
西条は同じ名前の人間が同じクラスに二人という運命に衝撃を受けたと言っていたが、最上からすれば交通事故のような衝撃だった。それから間違いを指摘して自分の席へ座りなおした後でも妙につきまとわれるようになった。最上からすればなれなれしい態度の西条の話に適当な返事を返していただけのつもりだったが気が付けばクラスの生徒だけでなく教師までもが「西条係」と最上のことを呼ぶようになってしまっていた。
「聞いてくれよ最上!今日俺に起こったふ!し!ぎ!体験の話を!」
学校初日のころから変わらないテンションの高さと不思議の部分を強く強調した西条の言い方に最上は体が途端にげんなりした。まるで西条の言葉が自分の体を通りぬけて体の中の元気のモトを持っていってしまったかのようだった。
「はぁ、いったいどうしたんだよ」
最上がため息交じりに言葉を返す。無視をしたところで、西条が話をやめることがないのは経験でわかっていた。予想した通り西条は最上の態度など気にせず、了承が得れたと鼻息を荒く話し始めた。
「よくぞ聞いてくれた!まったくあんなに驚いたのは生まれた時以来からもしれないな。アハ体験を超えてウヒャア!体験というやつだ」
西条が両手をバンザイの形に上げてウヒャアと叫んでみせる。西条の言い方はいつも通り大げさだ。
「実はな…。河童と相撲を取ったんだ。しかも勝った」
西条がまるでとっておきの秘密を話すかのようにその言葉を言ったとたん、最上だけでなく、周囲で今日はどんな変わった事を言い出すかと聞き耳を立てていたクラスの何人かも含めて時が止まる。西条はそんな周囲の反応などおかまいなしという風に腕組みをした自慢げな顔で最上の方を見ていた。
「いやいや、河童なんかいるわけないだろう」
「いやいや、俺だってそう思っていたよ。しかしな、この前河原で散歩をしていたら目の前を河童が歩いていたんだ。いやー、まさかいるんだな。本当にびっくりしたよウヒャア!ってな」
西条が再び両手を挙げてウヒャアと叫んだ。
最上は西条の話を聞きながら、次の授業は何分後だったろうか。授業の先生はいつになったら来るだろうかと考えていた。
最上の視線が自分ではなく、壁にかかった時計の方を向いていることに西条は気が付いた。
「どこ見てるんだよ最上。ははぁ、さてはお前。俺の言うことを信じてないな」
「当たり前だろう西条。俺は入学式からずっとお前の話を信じてないよ」
「ふふふ、ならこれを見ろ!」
割ときつめの言葉を言われたはずなのに、西条は気にせずポケットの後ろから丸めた新聞を取り出した。最上の方へ見せるようにして広げた新聞には地方欄に大きく赤い丸がつけられている。
「なんだよこれ。読めっていうのか?えーっと、河童現る…」
「その通りだ最上。まさか、お前も新聞に書いてある事がウソだとは言うまい!」
西条の自信満々な言葉を無視して、最上は見出しの後に書いてある文章を続けて読んでいった。
「なになに…河原に突如河童現る。河童は散歩をしていた田中真さん(32)に突如襲い掛かってきた。ハッケヨイノコッタ!と河童が叫んだと同時に田中さんへがっぷり4つに組んできてそのまま投げ飛ばしたとのこと。その後はカッタカッタと叫びながら河原を上流に向けて走っていったらしい…」
新聞を読み終えた最上が顔を上げると、目の前には反応を待ちきれずニヤニヤと笑っている西条の顔があった。
「…なぁ西条。お前は相撲を取ったといったけど、それは相手から仕掛けてきたんだよな?」
「さすがは最上。いいところに目をつけるな。さすがの俺でも、正々堂々で河童に勝つのは難しそうだったんだ。だから卑怯かとは思ったが奇襲をかけさせてもらったよ。こっちを見てないすきにハッケヨイノコッタ!ってな。投げ飛ばしたあとも、怒って襲い掛かってきたら怖いと思って面食らってる隙に退散したんだ」
西条の話を聞いた最上は相撲の技でいうなら変形の張り手。簡単に言うなら空手チョップを西条のデコへと食らわせた。
アホな西条と親友の最上(もがみ)「この前さ、俺河童に勝ったんだ」 ばんがい @denims
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