セクンダディの隠れ家
橘花 ナナ
第1話
彼らは……良く言えば天才、普通に言うと変人の集まりであった。ただでさえ危険な状況にいるというのに、それを自らもっとスリルあるものにしようとする者は少ないだろう。
「あははは! なんだ、それで終わりかぁっ! ほらほら追いかけられるもんなら追いかけてきやがれ青二才が! 」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ、ブレーキ、ブレーキ踏めッ」
南部訛りの英語と異様に丁寧に発音される英語が言い合った。
真っ赤なポルシェ____盗んできた車で崖の上を走る姿は、端から見ればアクション映画の撮影かと思われるぐらいだ。黒塗りの車三台とポルシェ一台がカーチェイスを繰り広げているのだから。
少しの時間で無理矢理改造した車は恐ろしくスピードがあり、助手席で叫び声をあげるユキエの整った顔が歪む。後部座席に座ったアメリカの議員など失神している、顔色は青白い。
「ぎゃはは、もとから白いのが青白くなってやがる! 」
ルームミラーから見える議員のアホ面を見て、黒い肌の男は高らかに笑う。ユキエはため息を吐きたかったが、そんなもの吐ける暇はない。ユキエは持っている拳銃が使い物にならないことを知って、割れて役割を果たしていない窓からそれを投げた。新しい拳銃を取り出し安全装置を外す。
「指紋は大丈夫なのかよ」
「あったりまえよ、私が手袋外した所、見た事あるの? 」
拗ねたようにいうと「そうだな」と男はまた笑う。ユキエは何かを察知し互いの好きなロックを最大の音量でかけた。ドラムの重低音とボーカルのしわがれた声が鼓膜を破こうと攻撃してくる。議員は間抜けな声を出して飛び起きた。二人はアドレナリンで気分を良くすると、ボーカルの叫び声に合わせて雄叫びをあげる。
「FOOOOOO!! 」
赤いコーンを潰して進んでいた車が急に方向を変えて後ろに旋回した。車が嫌な音を立てるが、生憎耳には届かない。拳銃を構えて一台目の車のタイヤに乱射する。二代目にいる殺し屋がアサルトライフルを撃とうとしてきたが、またもや方向を変える車にそれは断念され、進む車に向きを変える。しかし柵がないことを確認した男が崖の下へとアクセルを踏んだ。「自殺行為か」と黒スーツが扉を開けて出てくるが、その頃には車体は消えていた。
「お兄さん、これって映画の撮影ですか? あの車って……」
金髪の女子学生がカメラを持ち、顔を紅潮させてやってくる。モデルのような体型と恐ろしく整った顔立ちに気をとられるが、死体を探せという無線に気付く。
「あ、はは、そうだよ、撮影だ。あの車は下でちゃんと保護されるから。危ないからどいてくれないか」
「えー! すごーい! がんばってくださーい! 」
短いスカートを風になびかせながら帰っていった。遠くの観光客も「なんだ映画か」と安心した様子を見せている。
無線で封鎖させることを伝え、客を帰らせていく。
「おい、ヘリはまだか」
「もう直ぐです」
「早くしろ。……ん? 」
黒スーツは再度帰っていった少女を探した。少女の胸元には近くの大学のバッジが付けられていた、だが、不自然なのは少女の行動だ。確かに映画かを確認しに来たのは分かっているが、年頃の少女一人が崖に来るのには違和感があった。
「いないっ、くそ、あの女ッ」
壊れた車から電子音が聞こえる。数字はあと五秒となっていた。
セクンダディの隠れ家 橘花 ナナ @bestrun
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