ゆくとしくるとし 2017/2018
NEO
えとぽーと 2017
ある川の土手の上、黒スーツをビシッと着込んだと猫が並んで体育座りをしていました。ここは幅が本当に広い川で、二人土手の下には飛行機でも降りられそうな立派な遊歩道が整備され、公園やゴルフ場まであります。
「なぁ、なんで猫年ってないんだろうね……」
猫がイヌに語りかけました。
「……それは、お前が一番知っているだろう?」
チャキっと音を立て、イヌはタバコ……ではなくグ○ーを収めた箱を開きました。
「お前、まだ止められないんだね」
「……お前には関係のない事だ」
「牛乳パック」とか「野菜ジュース」とか、散々言われるスタイルの電子加熱式タバコを黙々と吸いながら、イヌは猫に一瞥もくれず、どこか遠くを見つめていました。
「まあ、そうなんだけどね……」
猫は銘柄は明かしませんが、普通の紙巻きタバコを口にすると、百円ライターで点火しました。
「……お前、そんなだから干支から漏れるのだ」
煙そうにしながら、イヌはこそっと苦言を呈しました。
「ん、どういうこと?」
猫はイヌに聞き返し返しました。本気で分かっていなかったのです。
「……分からぬのならいい」
面倒になったイヌはさっさと切り上げました。
「……はあ、寅年じゃ猫の代わりにはならないんだよねぇ。猫は猫だからさ」
猫のブチブチは止まりそうにありません。今年は相手がイヌだからいいのです。イヌだから……。
「……騙された挙げ句、相手はちゃっかり干支入り。お前らしいな」
猫が……土手にひっくり返りました。
「言うなよ、それ。なんで、あいつちゃっかり常任理事やっているの?」
猫は携帯灰皿に弾箱の吸い殻を捨てました。
「……常任理事?」
二本目のスティックに移ったイヌが、疑問の声を投げかけました。
「いや、言葉の意味知らないけど、なんとなくイメージで……」
この猫、なんだか難しい言葉を知ると、無闇に使いたがるタイプのようです。
「……珍しく、多少は上手いことを言ったと思ったらこれか。まあ、お前らしいが」
「なんだよ……干支だからって偉そうに……ソロソロ時間だね」
2027/12/31 23:30‥‥それが、今の時間です
「……ああ、行くとしよう」
イヌが立ち上がった時。夜空に飛行機のジェット音が聞こえてきました。
同時に、眩しい着陸灯の点が三つ、煌々と地面を照らします。降りられそうどころか、本当に飛行機が降りてきました。何事でしょうか。
「毎年の事だけど、これを人間が知ったらどう思うかねぇ……」
猫が呆れたようにぼやきました。
「……我々には関係のない事だ」
どこまでもイヌはクールでした。
そして、ジェット音も高らかに目の前の遊歩道に着陸したのは、リアジェット75という小型ビジネスジェット機でした。機体は紅白に塗り分けられ、金色の趣味の悪い垂直尾翼にはデカデカと「干支」の文字。極限までダサいです。
そのダサいジェットのドアが開き、中からサングラスを掛けて黒いアタッシュケースを下げた、トリが降りてきました。イヌはそのトリに近寄っていきます。
「……お勤めご苦労」
「おう、あとは任せたぜ」
トリはイヌにアタッシュケースを渡しました。
「……わかった、やってみよう」
ダサいジェットのドアが閉じ、エンジン音が高まると遊歩道を加速していきます。そして、再び夜空に向かって飛び立って行きました。
現在、2018/1/1 0:00……
「よう、猫。今年も来たんだな」
一年の仕事を終えたトリが猫に声を掛けました。
「うん、毎年きているよ。ネズミ以外は……」
ちょっと黒いオーラを出す猫でした。
「あはは、相変わらずだな。どうだ、一杯やっていくか?」
トリは大きく伸びをしながら、猫を誘いました。こんな時間ですが、今日はどこでもやっているでしょう。カウントダウンからニューイヤーへ。毎年の事です。
「おっ、いいね。あのさ、ずっと気になっているんだけど、あのアタッシュケースの中身ってなに?」
そう、いつの時代も猫は好奇心旺盛なのです。
「それは言えないな。まあ、某合衆国大統領より凄いモノだと言っておくよ」
何が入っているのか。それは永遠の秘密です。
「あとさ、あのダサい飛行機ってどこから来てどこに行くの?」
猫の好奇心は尽きません。
「それも言えないかな……。まあ、パスポートくらいなら見せてもいいか……」
トリは黒スーツのポケットから表紙が金色の、文字通りパスポートサイズのパスポートをちらっと見せて引っ込めました。
「うわぁ、それよけい気になるって!!」
そう、トリは結構意地悪だったのです。
「あはは、行くぞ!!」
「ねぇ、見せてよそれ。食っちまうぞ、このトリ!!」
こうして、新しい年はスタートしたのでした。
皆様に幸ありますように。
ゆくとしくるとし 2017/2018 NEO @NEO
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